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強欲なる勇者の書 ~ 魔王城勤務の針鼠 ~  作者: Planet_Rana
1章 センチュアリッジと紫目の君
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11枚目 「琥珀の回想」




 ――俺は、魔法が使えない。


 使うのが苦手だとかいう以前の問題で、先天的にパーツが足りないと言った所だ――その特性を知ったある人は俺を「世界の救世主」だといい祀り上げた。またある人は「精霊に見捨てられた呪い子」だといい忌避(きひ)した。


 今では立派に強欲な魔族の王の従者である俺だが、ともかく前述した通り俺には魔法が扱えない。つまり、魔法を使用するような仕事ではお荷物ということになる。


 無論、世界には魔法を使わずとも生活している人間が少なからず存在しているので、生きていけないと嘆く程仕事が無い訳じゃあない。


 書類整理や掃除、雑務を担当したりと身の丈に合った仕事をこなす一方で、鍛えた腕っぷしと体力を生かすつもりで異種族の仕事に付き合い、同じメニューの作業を手伝ったこともあった。


 これらのことから学んだのは、自分がとても、弱い生物だったということだ。


 他人の知恵を借り、技術を借り、力を借り、それでも遂行までに時間を要し。


 例えば、魔族や獣人や亜人が行う仕事の半分をこなすだけで、俺の身体と精神は健康に支障をきたすぐらいに疲労する――それは種族の得手不得手が引き起こす差違であって、個人差の問題では無い。元々埋めるには無謀な差なのである。


 もし同じレベルの仕事をしようと思っても、自分の寿命では周囲に追いつく前に死んでしまう。

 ならば、するべき努力はそちらでは無い。埋められない物を埋める努力よりも、埋まらない差をどうフォローするべきかを考えなければならない。


 俺の場合それは、自分の脳味噌だった。

 いや、脳味噌は言い過ぎかもしれないが、ずばり記憶と経験である。


 俺の特異な点は、この世界の誰よりもこの世界じゃない場所で過ごしたという経験があるということだ。


 この世界の摂理と似たようで違う、あの世界で十三年を生きたということ。

 俺にとってのアドバンテージは、そこにしかなかったのである。


 ……まあそれでも、十年も過ごせば染まるもので。


 黒い服だって何度も洗えば色褪せるように、積み重なる記憶は過去を塗り潰していく。そのせいもあって、俺は危険な仕事でも必要とされたなら自ら進んで出向くようになった。


 人の為になるのなら、人の命を一人でも多く救える可能性があるのであればと、仕事をこなして来た。


 が。


 今回の一件に関しては、受注の時点で発案者の正気を疑うことになった。言うまでもない。

 そもそも、焼き肉の席で仕事の内容を伝えられたのだ。疑わない奴はまず居ないだろう。


 真の変人は一体誰なのかっていう話だ。







 ――やぁ、ハーミット君。今暇?


 気の抜けるような呼び声に振り向くと、その人は居た。


 相変わらず国を纏めているとは考え難いラフな格好で、言うなら庶民と変わらない格好で、俺の仕事場に顔を出したのだ。


 俺の今の仕事場は、現在この国で発展途上である薬学の実験室である。


 棚に並ぶフラスコやらビーカーやらは、記憶を頼りに設計したものを錬成術士に頼んで錬成してもらった特注品だ。


 その中には新作の魔力補給瓶(ポーション)や開発途中の粉薬があるのだが、アポイントも取らずに押し入った彼が「ほうほう、混ぜたら面白いことになりそうだな! やってもいいかい?」なんて楽しそうに言い出すもんだから、慌てて止めた。


 特に、目の前の瓶にあった粉と何かしらの薬液を混ぜ合わせると部屋が爆発を起こしかねない。知識が無い奴程手を出してほしくない一品を取り上げて、冷や汗をかきながら棚に収めた。


 久しぶりに実験室に入ったからか終始テンションが上がりっぱなしの様子に呆れつつ。俺は作業に使っていた道具を片付ける。


 この人が居ると、作業は進まない。


 細かい作業をする為に使っている薄手の白手袋から普段使の茶色い革手袋に替えて、未だに飽きない様子で薬品棚や実験器具を観察するその人に言葉を投げた。


「今、俺が、暇を、していたように、見えたのか?」

「うんや。国に貢献してくれてるようで結構結構! いや、この研究は世界規模が視野かな? まあどちらにせよ、暇かどうか尋ねたのは社交辞令だよ、分かってる癖に」

「本当に変わらないよな、あんた」

「はっはっは。確かに君ほどは変わってないねぇ」


 彼は言って、けらけら笑った。俺はそれに苦笑で答える。


「ハーミット君。ここに私が来たのは、『お役人』としてのお仕事の依頼なんだけど」

「ぶはっ!」

「吹き出す程のことかい?」

「吹き出すさ! 重要な話なら部屋に回線硝子(ラインビードロ)があるんだ、それを使って呼び出せ! あんた偉いんだから直々に来る必要ないだろう!?」

「はっはっはっ何言ってるんだい、私は書類の山から逃げるのも兼ねてるんだぜ?」

「尚更だ、頼むから一秒でも長く仕事をしてくれ……!」


 慌ててコート掛けから普段使いのジャケットとコートを腕に取り、羽織る。手袋は……今日はこのままでいいか。


「……それで? 場所は決まってるのか、王様(・・)

「うん。三棟の『ダッグリズリー』を予約したよ」

「また食べながら話すのか」

「私は『暴食』だからねえ」


 王様の目が上の空を仰いだので、ああ、今日は大量に食べるつもりなんだなと予測する。


 一応財布を用意しておこう。前回のように金が足りないとたかられた時に困るし。

 どうしてこんな人が王様やっているんだろうなぁ。解けない疑問と共に、鍵を手に取った。


 城内三棟の東端にある「ダッグリズリー」は焼肉屋だ。当然庶民も御用達(ごようたし)、王様も普段からここに通っている。けれども今回は店ごと貸し切りにしたようだ。


 店内の一番奥に通された俺たちは、一枚の鉄板を向かって挟むようにして着席する。


「マッスター! 特大ブロック肉一つ頂戴!」

「最初の注文がそれとか、話し合いする気ないよね」

「マッスター! 追加でダッグリズリ―の骨付き燻製肉のそぎ落としも下さい!」

「…… (呆然)」

「マッスター! 追加で鳥の丸焼き一羽下さい!」

「まだ何も来てないよ……王様」

「ん? ああ、そりゃあもう。大丈夫大丈夫、私が全部食べるから」

「え? じゃあ俺の分は?」

「まだ頼んでないとも」

「……マスター、俺、鳥串焼きセットの塩を一つ……」


 ウンともスンとも返事が聞こえてこない調理場に恐る恐る追加注文すると、店員は俺に哀れみの目を向けつつニコリと笑みを見せ、裏に入って行った。


「こちら、肉ですねー」


 しばらくすると、もはや注文を読み上げることすら省略した店員が、自分の顔ぐらいの大きさがある巨大なブロック肉を持って来て、慣れた手つきで鉄板に乗せた。


 ジュワワワと、(あぶら)の焼ける音が響く。


「それでだ、本題だよハーミット君。」肉が良い具合に焼けてきた所で、そいつは口を開いた。両の手にはナイフとフォークが握られている。「そろそろ前の大規模作戦から半年になるから、センチュアリッジの仕上げを君に手伝って欲しいんだけど―― (ばくっ)はあ、ほうひうほほはかは、ははへたほ? (もぐごっくん)」


「食べながら喋らないでくれ、内容が分からない」

「ほっほっほっ」


 口に突っ込んだ肉を――頬張るというレベルのサイズではなかった。全く切っていない肉塊にしか見えない。どう考えても飲み込める大きさじゃあないはずだが、目の前の大食漢はいとも簡単に飲み込んでいく――そして、「どう、君できる?」と続けた。俺のお願いは華麗に無視された模様である。


「どうって……センチュアリッジ関連の大規模作戦って、前に話してた解放運動だよな。魔力操作ができない人員は参加不可じゃあなかったのか? 確か二年前に志願したけど弾かれたよ」


「そうそう、それ。それだよ」肉塊が口に運ばれる。「君は魔ほ (がつがつ)ふが、 (ごっきゅん)えっと、魔力適正に関しては壊滅的だからねー。 (ばっくん)ははら、たいひたいひくほ、たいほたいひくのへんは、ほはのさいはふははほほひ (ごっきゅん)頼んだんだけど」


「こっちは咀嚼音(そしゃくおん)でほぼ聞き取り不可能だったんだけど」

「まあまあ、前回までの作戦には魔力が必要不可欠だったけれど、今回ばかりはちょっと違うんだよね。何でかというと――」

「だから、重要な所で肉を食べるな」

「……うん、分かったよ。分かったから怖い顔をしないでくれハーミット君。えっとね、今回、解放運動の詰めとしてセンチュアリッジ島で大きな罠を仕掛ける手筈なんだけれども、都合上、私たちが仮に立てている暗躍組織の親玉役がまだ決まってないんだよねー。それも極悪非道な外道役なんだけどー (ちらっ、ちらっ)」

「それを俺が?」

「そういうこと。設定は人族だから、色々ピッタリだろ? 君は戦闘でも立ち回れるしさあ。あ、名前は決まってるよ? ……君が前に呟いてたアレなんだ! 洒落てるだろう?」

「いや、あのさ。今までの作戦に俺が必要とされなかった理由は、俺が魔法を使えなかったからなんだろう? 俺は弱いぞ? 俺一人じゃあ魔族や獣人のようにはいかないって、もう六年もここに居るんだから王様も知っているだろう?」

「うん (もぎゅもっぎゅ)、君に超人的な体力は求めてない」

「歴戦の猛者達の足を引っ張りまくるぞ?」

「うん (ごっくんもぐもぐん)、そもそも魔術に関しては最初から頼りにしてないよ」

「……正気か?」

「正気だよー (ばっくんもぐごっくん)」


 会話を交わしながらもナイフとフォークを動かす手は止まらない。


「それに、もし何かあっても君なら大丈夫だから。死人ゼロの実績とか何件も持ってるでしょ。過小評価は君の悪い癖だ、謙遜は良いが、そろそろ自分の実力を認めたまえ」


 簡単なようにそいつは言葉を続けたが、王様が頼んで来たからには一筋縄ではいかないだろう。

 布石に布石を重ねた作戦と、チーム全体で滞りない情報伝達とその共有が必須である。


 そして恐らく、俺が出ないと言えば「自分が出る」とか言い出すに決まっている。それはさせられない。彼に城を空けさせるわけにはいかないのだ。


 仮にも、一国の王なのだから。


「……俺から今言えるのは、現状一人で作戦を立てるのは難しいってことだ」

「うん、大丈夫。『傲慢』と『嫉妬』には既に作戦に加わって貰っている。情報はそちらから参照してくれ。あと、魔術に関しては『怠惰』に手伝って貰うと良い。確かここ暫くは非番だった筈だ」

「……そりゃあまた、随分と至れり尽くせりだな」

「死人を減らすことに躍起になれないで何が王か! ってねぇ。そも、人命に関して最も『強欲』な君が今更何を言っているんだい――城は安心して空けると良い、国一つぐらい私が守って見せるさ」

「相変わらず規格外なことで」

「それも君程じゃないな」


 王様は肉の残りを飲み込むと、運ばれて来た削ぎ肉と鳥肉を交互に口に含んだ。

 俺は串焼きにかぶりついて嘆息する。今の話を聞いた後では、食欲が湧かなかった。


「串の残り、やる」

「へ、ひいほ?」

「ああ。その代わり、食べたらちゃんと職務に戻ってくれよ、王様」

「ふぁーい」


 ふぬけた声を背に、鳥串分の支払いを済ませた俺は店を後にした。


 その足で、資料室に居るであろう『怠惰』の元へ向かう。まさか彼女がその時間仮眠をとっているなんて、運悪くその現場に遭遇するとは夢にも思わずに。


 今思い返してみれば、果たしてどれが何の切っ掛けになったのか。

 それは、これからの俺に聞く他ないだろう。


 この状況を生き残ることができたら、の話だが。







 ――それにしても、雷に撃たれるのって、こんなに痛かったっけな。

 この世界には、まだ俺の知らないことがある。





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