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あなたの思い通りにはならない  作者: 木蓮


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 カフェテリアでの一件からディランとニーナは常に一緒に過ごすようになり、たびたびシンシアの目の前に現れては仲の良さを見せつけてくるようになった。シンシアは盛り上がる2人と彼らを応援して自分を「恋人たちを引き裂く悪女」呼ばわりする生徒たちを無視して、じっととある罠を仕掛けた学園祭の日を待ち焦がれていた。

 そして、待ちに待った学園祭当日。寮の玄関に向かうとクリスティーナとレイモンドが待っていた。こちらを見つけると同じくパートナーを待っている令嬢たちがうっとりするようなまぶしい笑顔を見せる。


「やあ、シンシア嬢。君のそのラピスラズリのような瞳に合わせたドレス、良く似合っているよ。まるで夜空の精霊が舞い降りたようだ。私もこの色が好きになったよ」

「あ、ありがとうございます……。その、レイモンド様もとても素敵です」


 レイモンドはなぜかラピスラズリのイヤリングをつけていた。まるでシンシアに合わせたような色に困惑する。


「もう、お兄様ったら。初心なシンシアをからかって困らせないで。シンシア、きれいに着飾ったお祝いよ。今夜はお兄様のエスコートで思う存分楽しんで」

「そんなレイモンド様にエスコートを頼むなんて恐れ多いわ! というか、クリスティーナが困るじゃない!」

「いとこに頼んだから大丈夫よ。それじゃあ、後で会いましょう」


 赤バラの妖精のような可憐なクリスティーナはふわりと笑うと行ってしまった。困り果てているとレイモンドが茶化すように笑う。


「ふふっ、そんなに緊張しないでくれ。クリスが美しいシンシア嬢を妬んだ者たちが嫌がらせをしてくるんじゃないかと心配していてね。婚約者もパートナーもいない寂しい私がエスコートをかって出たんだ。せっかくの学園祭なのだし楽しもう」

「気を遣っていただきありがとうございます。よろしくお願いいたします」


 恥じらいながらもうなずくとレイモンドはにっこり笑ってシンシアの手をとって馬車に向かった。馬車の中で2人きりになるとレイモンドが感心したように笑みを深める。


「シンシア嬢の演技は大したものだね。今夜のパートナーとしてその度胸と冷静さは非常に心強いな」

「ありがとうございます。私こそレイモンド様の助けのおかげで堂々とやり遂げられますわ」


 復讐の協力を求める手紙を受け取ったレイモンドは快く引き受け、シンシアをサポートするために浮気者たちに憤慨するクリスティーナのお願いを引き受ける風をよそおってエスコートも引き受けてくれた。

 深呼吸をしてこれからの計画に備えて気を引き締めると、全面的な信頼を寄せてくれるレイモンドに応えて笑みを返す。

 わざと遠回りして時間ぎりぎりに会場に入ると、既に生徒たちは集まっていてクリスティーナやアンジュたちもパートナーたちと一緒に来ている。彼女たちのところに行こうとするとふいに大声で名前を呼ばれた。


「シンシアっ! 婚約者の俺のエスコートを断って何の関係もない男と堂々と参加するなんて、何を考えているんだ!」

「そうですよっ! 仲直りしようとしているディランを散々無視したあげく浮気するなんて、最低ですっ!!」


 人目を集めながら怒りに顔を赤く染めたディランと彼の腕にしがみつくニーナが駆け寄って来る。

 ディランは自分の瞳の色の淡いブルーを基調にした衣装をまとい、ニーナもまた彼と同じような色のドレスを着ている。どこからどう見ても想いあっているのに、相変わらず自分にからんでくる2人に軽蔑がこみ上げてくるのを感じつつ、冷静に口を開く。


「ごきげんよう、ウォルス様、ハウエル様。こちらはレイモンド・フリージア侯爵令息様、私の親友のクリスティーナのお兄様です。学園祭に1人で参加する私が面倒事に巻き込まれないか心配して、親切にもエスコートを引き受けてくださったのです」

「2人のことは妹から詳しく聞いているよ。特にそこのお嬢さんは妹の婚約者を含めてずいぶんと愉快なことをしているものだと印象に残っているよ。

 ……まあ、それはともかく。ウォルス殿は婚約者のシンシア嬢の許可を得てそこの親しいお嬢さんと参加していると聞いている。だから、2人とも初対面の私に対してそんなに気を遣って説明してくれなくても構わないよ。シンシア嬢は私が責任を持ってエスコートするから君たちも好きに楽しむと良い」


 レイモンドにきれいな笑みを向けられたニーナはぽっと頬を赤らめたが、ディランは言葉にこめられた侮蔑と「今さらシンシアに関わるな」という圧力に目を吊り上げる。


「俺はシンシアがどうしても1人で参加したいとわがままを言ったから、ニーナにエスコートを頼んだんです! シンシア、いつまで迷惑をかけているんだっ、こっちに来い!!」

「お断りします。お揃いの色をまとってそうやって寄り添って参加するぐらいに仲がよろしいのでしょう? 学園祭は恋人たちの仲を深める場でもありますものね、私も噂になっているお2人の真実の愛とやらを喜んで応援しますわ」

「何をふざけたことを言って……」

「私もあなたと同じぐらいあなたが嫌いですので、恋人ができたからと嫉妬なんてしません。ですから、ただ父に言われて婚約しているだけの私を2人の真実の愛とやらのスパイスに使うのをやめてください。迷惑ですわ」


 シンシアの感情のない声にディランはショックを受けたように表情が抜け落ちる。周りの生徒たちが好奇と困惑の表情で見守る中、嫉妬と憎悪を煮えたぎらせたニーナがシンシアをにらみつけディランの腕にぎゅっとしがみつく。


「ひどいわっ!! 好きだからって無理やり婚約してずっとディランを縛り付けてたくせにっ。飽きたからってあっさり捨てたあげくディランを悪く言って傷つけるなんて最っ低っ!!

 私はあなたと違ってディランを愛しているのっ! あなたみたいな最低な女にディランは渡さないわ!! ディランっ、行きましょ!!」

「ニーナ、ありがとう……」


 立ち直ったディランは弱々しくシンシアをにらみつけるとニーナに引っ張られて立ち去る。黙って見守っていたレイモンドが微笑んでささやく。


「お見事、すばらしい反撃だったよ」

「あ、ありがとうございます。巻きこんでしまった上にお見苦しいところを見せて申し訳ありません」

「そんなことない。無礼者をさらりといなす淑女の鑑だ、見惚れたよ」


 つい本気で反撃してしまったシンシアが顔を赤らめるとレイモンドは心から楽しそうに笑った。そして、演技めいた口調で周りに聞かせるように続ける。


「やれやれ。聞いてはいたけれど本当に話が通じないね。それとも、彼らはわざと君の前で禁断の恋に落ちた恋人たちの恋愛劇を演じて、君を怒らせて婚約解消を望んでいるのかな?」

「巻きこんでしまって申し訳ありません。彼らが何を考えているのかはわかりませんが、この婚約は父の希望で結ばれたものですの。ですから、こんな面倒なことをしなくてもウォルス様が婚約解消を望めば解消できますわ。

 そうでなくても、ウォルス伯爵夫妻がお2人の想いが本気なのだと知れば、喜んでお2人の真実の愛を認めると思いますわ」

「ははは、なるほど。真実の愛の結晶は恋を叶える方法もロマンチックだね。あの2人、とてもお似合いだよ」


 会話が聞こえた生徒たちがこちらに耳をそばだてているのに気づいてレイモンドが移動を促し、2人は生徒たちのささやき声を背に隅に移動した。


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