魔力の調査
やがて、聖騎士テルヴァは砦内にいた者達を説得し、いよいよ地竜討伐へ動き出すこととなった。
エリアスはどういう内容で説得をしたのか不明であったが、砦を出てすぐに彼らがテルヴァ達から離れて動くのを見て、おおよその見当はついた。
(テルヴァ達が戦闘のメインであるのは間違いなく、それを横から援護しろ、とかそういう形にしたか)
つまり、横やりで地竜を倒して構わない――エリアスとしては無難な判断だと思った。さすがに彼らと共に最前線に立つのは連携が上手くいかない可能性を考慮すると危険であり、犠牲も増える。さらに言えば、テルヴァ達としても危機的状況に陥った者達を見捨てることもできず、彼ら自身も危険な状況に陥るかもしれない。
それを避けるための判断として、各々が独立して動くということにした。とはいえ、地竜がそちらへ注意を向ける可能性も否定できない。聖騎士テルヴァはそこについて何か対策を行ったのか。
その疑問に対する回答はすぐに出た。テルヴァに同行する魔術師の一人が、手に持っている杖をかざして魔力を発した。
「なるほど、魔力で釣るのか」
エリアスは呟く。言わばテルヴァ達が発する魔力を大きく見せて、地竜に注目させる。
それが功を奏したのかわからないが、地竜が再び咆哮を上げる――その向け先は、どうやら聖騎士テルヴァ達がいる場所であった。
「……勝てるのかしら」
ふいに、横にいるジェミーが呟く。そんな彼女をエリアスは見返し、
「正直、この戦いの結末を予想するのは難しいな」
「……あなたも?」
「まだ地竜と対峙したわけじゃないからな。まだ見えていない時点で感じられる魔力は相当大きいが、それでも全貌を把握できたわけじゃない」
解説する間にもテルヴァは進んでいく。同行する騎士や勇者は間違いなく精鋭であり、その中にはミシェナの姿もある。
「さて、地竜はテルヴァ達を見てどう判断するのか……場合によっては地底に退散する可能性もあるが」
「それは戦うか、退くかということかしら?」
「ああ、地竜というのは名前が付けられるくらいには長年生きている以上、知性もあるだろう。竜、といっても魔物の延長線上にいるのは間違いなく、本物の竜とは異なり獣の知性しか持っていないと予想はできる……が」
エリアスは地竜がいるであろう方角へ目を向けながら、続ける。
「生存している年数が多い以上、その分だけ狡猾になっている……魔物としては、危険な戦いだと判断すれば退却する可能性もある」
「地竜は巨体を持っていると考えられるけれど、内に抱える魔力の大きさを比べれば、私達人間の魔力なんて微々たるものでしょう? 逃げるとは考えにくいけれど」
「そうとは限らない。特に、人間のことを記憶している敵であれば――」
その時、再び咆哮が鳴り響いた。威嚇のために降り注ぐ魔力量も多くなる。エリアス達を含め、進んでいる者達はそれに怯むようなことは一切ないが、
「……ふむ」
エリアスはある可能性を考える。地竜が放つ威嚇。それにはもしかすると、別の意味があるのかもしれない――
「フレン、どう思う?」
「……私は、エリアスさんと同様に推察しました」
「二人とも、何に気付いたの?」
ジェミーが問い掛ける。そこでエリアスは、
「威嚇を頻繁にしているだろ。特に俺達が近づいたことで」
「ええ」
「もしかしてこれは、近づくだけじゃない……警告だけではなく、魔力を発して俺達の能力を調査しているのかもしれない」
その言葉にジェミーは眉をひそめる。
「調査……そんなことが地竜にできると?」
「あり得ない話じゃない。狡猾な魔物というのは、様々な手法で危機察知能力を高める。その内の一つとしてあげられるのが、魔力を拡散させ、それに当たったものの魔力量を確認するという手法。人間が行う索敵に似ているな」
「東部でも、そんな風に調査してきた魔物がいたのかしら?」
「ああ、いた」
エリアスはジェミーの言葉に頷く――とはいえ、それは地竜とは似ても似つかない存在。頭の中には、過去に戦い今も幻影が残る存在が浮かぶ。
(アイツと関係しているとしたら……ヤツが持っていた能力の一部を、地竜が保有している可能性だって十分考えられる)
「それを確認する術としては、地竜と向かい合った際にその動きを見ればいい」
「動き?」
「調査によって得られた情報で、地竜が何を狙うのか。ただ見境なく聖騎士テルヴァ達を狙うのか、それともそれ以外を狙うのか……地竜が調査を行ってその目的が各個撃破などであれば、聖騎士テルヴァ達を無視して他に狙いを定めるかもしれない。あるいは、一番危険な存在と見なして聖騎士テルヴァ達へ速攻を仕掛けるか」
「……どちらにせよ、こちらが有利な展開を作るのは難しそうね」
「そうかもしれないな」
「……あなたなら、どう立ち回るの?」
ジェミーに問い掛けられ、エリアスは一時沈黙。そして、
「出発前、俺は聖騎士テルヴァから自由に動いていいと言われたが……地竜の動き方次第で、俺達は大きく立ち回りを変える必要が出てくるだろうな――」




