騎士達の様子
最初、エリアスの視界に入ったのは砦内をせわしくなく動き回る騎士。どうやら彼らは仕事をしているこの砦の騎士のようで、彼らは動揺の色を見せることなく粛々と仕事をこなしている様子だった。
(気配的にも、威嚇を受けて微塵も揺らぎがない……さすがに最前線の騎士ともなれば、慣れているということか)
あるいは、動揺しないよう訓練を受けているか。エリアスはさらに視線を巡らせる。騎士以外にも話をする魔術師や、この砦に所属していると思しき勇者一行の姿も見受けられる。
そうした彼らはしきりに外を気にしている様子。また、魔術師の中にも騎士へ声を掛け話し合う姿が見られる。
(……怯んでいる様子はないな。ただ、敵が発する魔力はあくまで威嚇だ。間近で対峙した時にどういう態度を取るのかは、また別問題だろうな)
エリアスは次にこの砦にやってきた、言わば地竜を倒そうとする一団へ目を向ける。彼らは幾度か話し合いを行い、外を指差す者がいたり、あるいは首を左右に振っていたりする者もいる。
(威嚇を受けて、進むか戻るかを話し合っている……)
ここでエリアスは先日、大猿の魔物と戦った時に顔を合わせた騎士のことを思い出す。彼もまた北部へ派遣されてきた存在だったが、大猿の魔物から威圧を受けて動揺していた。
(派遣されてきた面々は、主導者である貴族にとっては精鋭クラス……だが、地竜と戦おうと主張するくらいには腕に自信がある者から、さすがに魔力を目の当たりにして厳しいと考える者までいる。個々の戦力としてはムラが多少なりともありそうだ)
エリアスは別の一団にも視線を送る。彼らもまた、最初に見た一団と同様に地竜の所へ向かうか、待機するか話し合っている様子。
(決めあぐねている……このまま引き下がってくれた方が、被害は少なくて済むだろうけど、北部最前線の戦力を投入して勝てるかわからない、という情勢。さて、北部最前線はどう判断するのか――)
と、ここでエリアス達へ近づいてくる騎士の姿が。女性であり――
「騎士メイルか」
「どうも」
エリアスの言葉に騎士メイルは短く応じる。
「エリアス殿は情報集めですか」
「そんなところ。後方の砦から人が来ているだろ? その内の一つだよ」
「……現時点ではまだ地竜と交戦していません。その情報を持ち帰って報告しますか?」
「地竜との交戦は確定か?」
「地上に出てきた以上は。幸いながら既に準備は整っており、足止めするといった移動に対する遅滞戦術は可能です」
「拘束とかは……」
「さすがにそのレベルは難しいですね」
淡々とエリアスの質問に答える騎士メイル。その表情からは動揺なども見受けられない。
ここでエリアスは思い切って尋ねてみる。
「……さすがに最前線の人間ともなれば、先ほどの威嚇は通用しないか」
「瘴気を放ち動きを縫い止めようとする魔物も多いですからね。最前線に出現する魔物は、攻撃的な個体も多く、威嚇行為そのものには慣れています。たださすがに今回は魔力量も多く、戸惑っている人間もいます」
「そうか……騎士メイルの感覚でいいんだが、勝てると思うか?」
「そこについては、戦略次第だと思います」
そう語るメイルの表情はあまり良いものではない。
「犠牲を伴う戦いになることは、おそらく間違いないとは思います」
「聖騎士テルヴァも、そこは覚悟しているわけか」
「直接的にそう語ることはありませんが……この砦に所属する騎士達は全員同様の見解かと」
「なるほど、わかった。ありがとう」
どうするか、とエリアスは考える。収集すべき情報は揃った。このまま帰ってもおそらく問題はない。
先ほどミシェナは「ここにいるべき」と主張したが、騎士メイルの口から「残ってくれ」とはさすがに言ってこない。ミシェナはああ言ったが、そもそもエリアスが戦いに参戦する状況というのは、後方の砦に所属する人間を一時的にではあるにしろ引き抜くということを意味する。それ自体に問題が出ないのかという疑問もあるし、この事実が伝わった場合どうなるのか。
(参加した俺なんかも、立場を悪くする……か? どちらにせよ、政治的に良い方向へ進むとは思えないな)
ではもし、一緒に戦ってくれと言われた場合、どうすべきか――極力犠牲を出さないような立ち回り方をエリアスとしてはしたいと考えている。その場合、取れる選択肢は、
「エリアスさん」
頭の中で色々と考える間に、フレンが名を呼んだ。
「どうしますか? このまま待機して地竜の様子を窺うという選択肢もありますが……」
「さすがに長時間滞在していると迷惑になるかな……それに、地竜が動けばこの砦へあっという間に接近するだろう。必要な情報は得たし、交戦を避けるのではあればこのまま帰った方がいいとは思うが……」
そう告げた時、砦の奥から数人の騎士を率い、姿を現した人物がいた。




