真の敵
翌日、エリアスは砦へと帰還。フレンに状況の確認を行ったが、さすがに数日では状況に変化はなかった。そこで、
「フレン、少し情報集めについて注文をつけてもいいか?」
「はい、構いませんよ。各砦の情勢などを精査しますか?」
そう問い掛けられて、エリアスは彼女を見返した。
「もしかして、意図を理解しているか?」
「地竜はどこに出現するかわからない以上、北部全体の情勢を確認しておき移動できるようにしておく、というわけですね」
「正解だ。けど、無理はしない方向でいいからな」
「はい、わかっています……エリアスさんとしては、地竜についてはどのようにお考えですか?」
「どこに出てくるかわからないという点で、魔獣オルダーと比べて厄介だと考えている。それに加えて巨体だということだし、普通に戦ったら多数の犠牲者が出るな」
「犠牲なく倒す、というのは……北部では激しい政治闘争を繰り広げています。討伐によって人を派遣した貴族達の配下は特にそうですね。それが話を複雑化させています」
フレンの言及にエリアスは頷く。
「ああ、互いに連携し協力すれば、地竜の動きなどを把握しつつ、戦略を色々と練ることはできるんだが……」
「もし討伐する場合は、拘束魔法で動きを縫い止めて一気に、という形で良いのですか?」
「基本的にはそれが望ましい。下手に暴れたらそれだけで犠牲者が生まれかねないからな。とはいえ、現状では拘束魔法で動きを止める準備をする間に、犠牲者が出る。地竜が出現した時点で、それこそ我先に向かう人間が出てくるだろうし」
「悠長に動いていては、厳しいというわけですね」
「独断で動くような人間が出なければ……入念な準備を重ねることで地竜の動きを止め倒しきることも、可能ではあると思うんだが……」
「エリアスさんが獅子奮迅の活躍をすれば、犠牲なくいけるでしょうか?」
フレンの問い掛け。それにエリアスは小さく肩をすくめた。
「どうだろうな」
――エリアスとしては、ロージスの幻影によってもたらされた警告によって、どう戦えばいいのか様々な角度から考察している。そうした中、
「フレン、地底の調査については?」
「継続しています。ただそれはもっぱら北部最前線で行われているようです」
「普通に考えれば、もし地竜が地底の調査によって怒り攻撃を仕掛けるにしても、最前線に襲い掛かるよな」
「索敵魔法は地上に存在する洞窟を経由して使われますし、そうした考えで良いとは思いますが……他の場所から出現する可能性もゼロではない。というより」
と、フレンは少し声のトーンを落とす。
「どこかに情報には出てこない調査を行っている一団がいる、という可能性も」
「何か知っているのか?」
「私達は主に物資輸送の護衛を任務として動いていますが、その中でどう考えても最前線には届かないようなルートで荷物が運ばれているケースが」
「……密かに、独自調査を行っている一団がいるかもしれないってことか?」
「はい」
もし調査をやっており、それに地竜が反応したとしたら――
「さすがにそれを把握するのは不可能に近いな……北部にいた騎士達だけで動いているのならこんなことにはなっていないと思うんだが」
「はい、政治的な要素が戦いの推移を見えなくしていますね」
「真の敵は味方だったか……」
「エリアスさんもわかっているとは思いますが、そもそも討伐を行う方々は最前線を除いて私達のような考えをしている方は少ないと思います」
「……魔物に負ければライバルが減って助かる、という話だな」
「そうですね……これさえなければ、もう少し楽だと思いますが」
「フレンとしては何か対策とかあるか?」
「現状では何もありません。話を聞き入れてくれる方もいないでしょうし、このまま戦うしかありませんね。時間があれば、少しずつ連携をするという方針くらいは出せるかもしれませんが」
「いや、それも厳しいな」
「……そう遠くない内に、戦いが始まるということですか?」
「ああ、そうだ」
根拠は――と、フレンは視線で問い掛けてくる。しかしエリアスはそこについては言及しない。
「ともあれ、今は少しずつ進んでいくしかない。この砦内でできることとしては、連携の練度を上げてもし地竜が出てきても、応戦できるようにすることくらい――」
そう話した、直後だった。
――オオオオオオオ。
声が聞こえた。いや、それは声と認識することができた人間はそう多くなかったかもしれない。
だが、エリアスとフレンはそれを声と見なした。即座に二人は外へ出る。音を聞いて、砦内にいる兵士は不安か訓練などを中断し空を見上げる人間が多かった。
「エリアスさん、これは……」
「まだわからない。魔物の領域から最前線へ魔物が出張ってきただけかもしれない……が」
するとここでノークもまた外へ出てくる。彼の耳にも聞こえるほどだった以上、先ほどの音を、北部の人間大半が耳にしたことだろう。
果たしてそれは――エリアスは少しの間耳を澄ませていたが、音が聞こえないことを確認して、ノークへと話し掛けた。




