政治闘争
「連携による魔法ねえ……」
エリアスは砦内を歩いていたジェミーを捕まえ、会議室へ移動し話し合いを行うことに。
「同じ魔法で訓練をしっかりとしていれば、可能だとは思うわ。ただ、実際に魔物へ使用するというのは、練度が必要だし訓練時間はかなり必要になるわ」
「そうだな……もしやるとしたら、どういう風にする?」
「砦にいる魔術師は私を含めて六名だから、全員が同じ魔法を使う、ということについてはそう難しくないと思うわ。問題は使用する魔法。地竜を相手に想定するのであれば、強力な魔法が必要になると思うのだけれど」
「いや、実際はそこまでだと思う……東部で使用していた魔法があるんだが、その解説をしていいか?」
問い掛けにジェミーは頷いたためエリアスは説明を加える。すると、
「……確かにそれなら訓練をすれば全員が扱えると思うわ」
「なら、まずはこれで試してみないか?」
「連携の訓練にそれを組み込めばいいだけだから、これまでの訓練と地続きでできるのは良さそうね。わかったわ、ひとまず相談して訓練を行う方向で進めてみるわ」
「ああ、頼むよ」
「……仮に地竜が出現した場合、拘束して誰かがトドメを刺すといった手法をとるのかしら?」
「動きを止めれば色々と方法はあるさ」
ジェミーはその言葉で納得し、立ち去る。そこでエリアスは「さて」と一つ呟き、
「次はフレンを探すとするか――」
少ししてフレンを見つけたエリアスは、彼女とも話をする。
「現段階で地竜に関する情報及び、北部全体の情勢についてはどうなっているかわかるか?」
「地竜のより詳しい資料は作成しています。今日中にはできあがるかと。とはいえ、地底の奥底にいるとしたら、資料よりも強くなっている可能性が高いです」
「そうだな……色々と想定しておく必要はありそうだ……それで、フレン。ノーク殿と話をして、ジェミーと魔術師達には拘束魔法を習得してもらうようにお願いした」
「東部と同じように、連携で動きを縫い止め倒すという形ですね」
「そうだ。動きさえ止めることができれば……まあ地竜の防御能力などを考慮に入れないといけないから、動きを止めたから安心というわけではないが、戦術の選択肢として保有しておくのは良いと思う」
「被害が少なくできますからね……それで北部の情勢ですが、かなり流動的で私が集めた情報はもう使えない可能性が高いです」
「ゴーディン家の調査から、最前線でもミシェナが来たように動きがある……情報収集はやり直しか」
「今やっても無意味かもしれません……ただ、確実なのは北部全体が地竜に狙いを定めたということ」
「討伐する脅威は二つあるが……もう片方は眼中にないと?」
「もう片方については、索敵によって人間の領域からかなり離れた場所に存在していることが判明したらしく」
「なるほど、こっちに来る可能性は低い……捕捉できているなら、討伐対象は地竜に絞られるか」
「国としてはいずれ捕捉した残る脅威についても倒すつもりみたいですが、ひとまずは地竜ですね。そして、様々な勢力が地竜を見つけ出そうと地底を調べようとしている」
「危険な兆候だな……」
「北部の最前線で調査をする分には、仮に地底から魔物が押し寄せても大丈夫でしょうけれど……」
「というか、地竜については地底の奥にいるのなら貴族達も無理して欲しくないんだが……彼らとしては国の方針に従っているだけ、みたいな感じなのかな」
「私達が助言をしても、そういう解釈で強引に地竜捜索を続けようとする勢力だっているでしょうね。それと、地竜に狙いを定めたのは別な理由がある。魔獣オルダーは人間の領域に幾度も入り込んで悪さをしていましたが、地竜については地底から地上に影響を与えることができる」
新たな情報にエリアスは唸る。
「それによって被害が出たケースもあるのか」
「はい。だからこそ国は名前を付けたのでしょう」
「……国としては、北部全体の動きをどう考えているんだ?」
「ひとまず静観しています。ただしこれはおそらく、指示を出しても言うことを聞かない勢力がいることがわかっており、どう対処するか決めあぐねている面も大いにあるかと」
「国側も困惑する貴族達の動きか……本当に、人の欲というものは恐ろしいな」
「東部の人間から見れば、政治闘争が強すぎてめまいがしますね」
「まあな。けれど、その影響で東部はその戦果が伝わっていない……俺達のことを説明するには、この闘争の世界へ進まなければいけない」
「地竜と戦いながら、ですか?」
「ああ……フレン、情勢が流動的なのはわかるが、情報収集は継続してくれ。特に地底の調査について。もし地底に関する情報を得ることができればすぐに報告を」
「……私達が、地竜と戦うといった可能性もありますか?」
フレンからの問い掛け。エリアスは「わからない」と首を振りつつも、
「ただ、これはあくまで勘だが……地竜は、予想もしない形で出現するだろう。そうであれば、少しでも犠牲を出さないよう、しっかりと状況を見極めなければならない――」




