人間模様
「本日物資輸送を行った際、こちらの砦に最前線にいる方が複数名お越しになられると」
「……ノーク殿に報告した方がいいんじゃないか?」
「報告をしたらエリアスさんに伝えてくれと」
(……対応、俺に押しつけたかな?)
最前線の勇者、と聞いてここに来る人間をエリアスは一人しか思いつかなかったが、
「わかった、ちなみにいつだ?」
「本日中には」
「用件とかはわかるか?」
「現状では不明です」
(近況でも聞きに来るのかな……)
エリアスは胸中で推測しつつ、来訪者を待つことに。
「知り合い?」
様子にジェミーはそう問い掛けてくる。エリアスは頷き、
「まあ、以前ここの砦にいた勇者だ」
「最前線の勇者が?」
「ああ、一時的に」
その言葉でジェミーは目を細める。なんだか様子がおかしかったため、エリアスは首を傾げ、
「どうした?」
「いえ……ねえ、もしかしてその勇者って――」
「お、いたいた」
と、声がした。聞き覚えのある声にエリアスはもう来たのかと胸中で呟き、
「ああ、久しぶりだなミシェナ――」
と、言いながら振り返った時、彼女はきょとんとした顔をしていた。その視線がエリアスではなく横にいたジェミーだったので、
「……もしかして、ジェミーと知り合いか?」
「……知り合いというか」
と、ここにいる彼女が信じられないといった様子でミシェナは、
「ジェミー……北部に来たの? というか、久しぶりね!」
「え、ええ、そうね……」
どこかぎこちない応じ方をするジェミー。そんな二人のやりとりを見てエリアスは、
「んー、その様子だと同郷とか?」
「お、正解ね。いわゆる幼馴染みというやつ。年齢はジェミーの方が上なんだけど」
「そうか……ジェミーが王都で魔物の研究をしている間に、ミシェナは勇者となって活動をしていたのか」
「そうだね……でもジェミー、どういう風の吹き回し? 北部へ行くなんて話は聞いたことがなかったんだけど……」
(もしかして、彼女と会うのは都合が悪かったのか?)
エリアスはそんな風に思ったが、この状況を変えることはできないため、沈黙を貫くことに。
やがて、ジェミーは「色々と考えた結果」とだけ応じ、ミシェナの方は「そっか」とあっさり質問することを止めた。エリアスとしては複雑な人間模様を見た気がしたのだが、特に言及することなく、ミシェナへと尋ねる。
「それで、急に最前線から戻ってきて何の用だ?」
「先日あった魔物との戦いについて、ちょっと聞きたいことがあって」
「それは北部にいる聖騎士からの指示か? それとも、ミシェナの独断か?」
「私が勝手にやってる」
「……どういう意図がある?」
「最前線では地底を調べようということから、私なりに情報を集めたいと思っただけ」
エリアスの疑問にミシェナはそう答えた。彼女の瞳は真っ直ぐで、嘘を言っている様子は見られない。
(……まあ、砦に来た理由そのものは本当なんだろうな)
「俺に直接聞くより、フレンの方が情報量は多いぞ。彼女は遭遇した魔物について記録を残すようにしているからな」
「そうなんだ。それじゃあフレンに聞こうかな……あ、エリアスも魔物と戦ったんでしょ? よければその際の話とかも聞かせて欲しい」
「ああ、別に構わないけど――」
返答する間にミシェナは砦の中に入っていく。ずいぶんと忙しない、と思いつつエリアスは横にいるジェミーへ首を向ける。
「何かまずいことでもあったか?」
「……いえ、彼女と確執があるわけではないから。思った以上に再会が早くて、少しびっくりしてしまっただけ」
「そうか。彼女は現在北部の最前線にいる。君とミシェナがどういう関係なのか詳しく聞くことはしないけど、もし彼女の近くで戦おう、なんて考えているならその道のりは結構険しいと思うぞ」
「そうでしょうね」
どこか遠い目をして語るジェミー。その態度を見て、
(最前線へ向かう、ということが目的……なのかどうか微妙だな)
「彼女は情報を得たらすぐに戻るだろう。話をする機会があるとしたら、今しかないと思うが」
「ええ、わかっているわ……ちなみに、気にはならないのかしら?」
「気にはなっているよ。知り合いだということ自体驚いたし、何より君の方は何か目的があって北部に来た……ミシェナと関係しているのか不明だが、態度からして無関係とは思えない。ただ、詮索はしない。話したくなったら話せばいいさ……あ、ただ一つだけ」
エリアスはジェミーへ視線を送りながら問う。
「ミシェナがここに来たことで、仕事を中断するという可能性はあるのか?」
「それはないから安心して」
「そっか。なら俺としては問題ないな」
そう返答した直後、別の人物がエリアス達へ近づいてきた。その人物もまた来訪者であり、
「あれ?」
エリアスは呟いた。そこにいる人物は、
「すみません、勇者ミシェナがここに来たと思いますが」
先日魔物討伐の際にいた、騎士メイルであった。




