わかりやすい人
およそ一分程度の沈黙の後、エリアスは小さく息をついた。
「……ひとまず、魔物は出てこなくなったな」
その呟きで反応したのはジェミー。はっとなった彼女はエリアスと共に洞窟奥を見据える。
「ひょっとして、さっきの光で魔物が全滅した?」
「洞窟入口周辺にいた個体はいなくなった、というのが正解だろう。間違いなく地底の奥にはまだ同じような魔物がいる。さっきの個体も、親玉だったどうか不明だし」
剣を収めながらエリアスはジェミーへ応じる。
「ジェミー、結界で封鎖を頼む」
「いいけれど……あなたの推測通りなら、結界を壊すような魔物がまた現れるかもしれないわよ?」
「あくまで応急処置だ。とにかく現時点で放置はまずい」
「――物理的に封鎖するため、人を呼びます」
と、騎士メイルがここで発言した。騎士ジェインはまだ何も言っていないが、現状を考慮し彼が判断するより先に行動するべきだと考えた様子。
「洞窟の入口周辺を破壊し、封鎖すれば大丈夫でしょうか」
「いや、瘴気が外に流れるのも防がないとまずいかもしれない」
「わかりました、対応します。他に魔物が出現する危険性がありますので、少しの間ここに留まってもらえますか?」
騎士メイルの要求にエリアスは頷く。それで彼女は、
「では、行動を開始します。その間に、負傷者の確認なども行いましょう――」
エリアスは洞窟入口近くに留まることとなり、じっと漆黒の暗闇を見据える。その間にジェミーが結界を構築し、さらに彼女は質問を行った。
「さっきの技法は、魔法ではないのよね?」
「……まあ、剣術も魔力を用いれば、魔法と似通ってくるからな。あれは俺の魔力を凝縮した攻撃だ。属性などの効果はまったく付与していない、純粋な魔力の塊だ」
「魔力の塊であの威力……と、言いたいところだけど色々な技術が使われていたわね」
ジェミーは先ほどの技を思い返し言及。
「あれこそ、あなたが二十年以上費やした技術の結晶といったところかしら?」
「そうだな。君としてはどう評価する?」
「その口上だと、あなたとしては二十年費やしてあれくらいしかできない、みたいな解釈かしら?」
問い掛けにエリアスは肩をすくめる。
「俺としてはまだまだ足りないものが多いと考えている……別に一つの技を極めようなんて考えているわけじゃないが、一応切り札と呼べるものだからもっともっと強化はしたいところだな」
「推定、危険度三くらいはあるかもしれない魔物を瞬殺するくらいだから、十分だとは思うけれど」
どこか呆れたように応じるジェミー。だがそんな彼女の言及に対してもエリアスは肩をすくめる。
「あれで満足はしていないよ」
「そう……もしよければ、さっきの技の分析とかしてみましょうか?」
「お、できるのか?」
「あくまで魔力ベースだから、参考になるのかわからないけれど」
「いや、是非とも頼むよ。なんというか、自分なりに効率とか威力とか、色々なものを最善にしたつもりだが、あくまで俺の感覚だけでやっているからな。数値化できるなら、やってもらうに越したことはない」
「わかったわ。なら砦に戻った際、魔力の収束法などを調べてみましょう」
と、そこでジェミーは苦笑する。エリアスは首を傾げ、
「どうした?」
「……自覚しているのかわからないけれど、あなたすごく楽しそうよ」
「楽しそう?」
「ええ、強くなれる可能性があるから、なのかしら? 武を極めるというのが目標だから、強くなれるかもしれない、ということに対してはすごく興味を持つようね」
言われ、エリアスは自分の顔に手をやる。彼女の言う通り自覚はないが、
(……そういえば、東部でもたまに言われていたな。新たな技なんかを開発した時、嬉しそうだなと)
「なるほど、あなたって飄々としている感じだと私には見えていたけれど」
今度は一転、ジェミーは笑みを浮かべる。
「あなた、実はとてもわかりやすい人なのね?」
「ほっとけ」
「……ま、色々と仕事はしているけれど、あなたに与した方が色々と情報を得られるし、喜んで協力するわ」
「俺としてもありがたい……それに、北部での戦いを生き抜くためには、俺自身もさらに強くならないといけないし」
「……今後も、あんな魔物が出てくるのかしら」
「国が魔獣オルダーに続きさらなる敵を倒そうとしているなら、出てくるだろうな。場合によっては深淵の世界に足を踏み入れなければいけなくなるかもしれないし、そうなったら尚更だ」
「私も色々と強くなる方法を模索しないといけないわね。さっきの魔物相手では、私の魔法も通用しなかっただろうし」
嘆息するジェミー。それを見ながらエリアスが口を開こうとした時、
「少し、よろしいでしょうか」
騎士メイルの声だった。見ると、彼女が一人でエリアス達に近寄ってきた。
「お話があるのですが」
「調査の話か? それとも、洞窟封鎖の話か?」
「両方です。あなた方とは情報を共有した方がいいと思いまして」
そう告げると、エリアスの返答を待たず彼女は話し始めた。




