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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第二章

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漆黒の穴

 現場へと向かう道中、エリアス達は一度魔物と遭遇した。見た目は青い体毛を持つ猿。エリアスの目から見て魔力量は危険度一の範疇だったが、見過ごせない事が一つあった。


「武器を持っているな」


 猿の手には漆黒の短剣――とまでは呼べないが、鋭く尖った石片のような物が。


「たぶんあれは刃だ。不用意に近づけば、斬られる」


 呟く間に猿型の魔物が襲い掛かってきた。動物の猿と同様にキィー、と鳴き声を発しながら向かってくる。

 それにいち早く応じたのは、エリアスの前を歩いていたルークだった。剣を抜き、魔物が接近するタイミングで、その動きを読み正確に剣を薙いだ。


 魔物はそれを、回避できなかった――結果、彼の斬撃が決定打となって魔物は消滅する。


「倒しました……が」


 ルークがエリアスを見る。独断に動いたことについてどう反応するか気になった様子。


「問題はない、ルーク。よくやった。魔物の動きや魔力量を即座に見極めた対応だった」

「はい」

「一つ助言があるとすれば、武器を持っている魔物はいつも以上に警戒すべき、といったところか」

「武器……あの魔物は、接近して斬りつけるように攻撃してくる」

「単純な体当たりとか、あるいは牙で噛みついてくるとか攻撃方法は色々とあるが、その攻撃手段が増えると危険度が低くても意表を突かれて攻撃を受けてしまう危険性があるからな」


 エリアスはルークへ語りつつ、魔物がいた場所へ目を向ける。そして先導する騎士へ、


「さっきの魔物が洞窟から出てきた魔物か?」

「似た個体は見受けました」

「外に飛び出しているのか……洞窟を封鎖しないとまずいが、処置はしているのか?」


 エリアスは頭上を見上げる。その時、またも魔物の雄叫びが。


「……進むぞ」


 そして指示を出して進んでいく。そこで、ジェミーから報告が入った。


「進行方向以外に魔物の気配はない……けれど……」

「わかっている、進む先には気配があるな」


 果たして調査隊はどのような状況になっているのか――やがて、エリアス達は現場へと辿り着く。瘴気の発生源として見つけた洞窟の前。そこで、騎士や勇者が魔物と交戦していた。

 注目すべきなのはそれだけではない。人が入れるような大きさではなかった洞窟が、広がって漆黒の穴を覗かせていた。そしてそこから、先ほど交戦した猿型の魔物が出現している。


「これは、まずそうだな」


 エリアスは呟くと周囲を見回す。騎士や勇者は洞窟から出てきた魔物を迎撃しているが、数が目算十以上存在しており、対応に苦慮している様子だった。

 なおかつ負傷した者もいて、どうにか戦場から離脱しようと後退している。しかし魔物が追いすがり――このままではジリ貧だと判断したエリアスは、


「ルーク、レイナの二人は他の騎士と共に怪我人を保護! それが完了した後は、魔物の迎撃を。ジェミー達は俺の援護を頼む」

「あなた一人で戦うの?」


 ジェミーが問う。それにエリアスは首を小さく頷き、


「怪我人を離脱させる少しの間だけだ。ある程度数を減らしたら、魔物が出てくる洞窟へ近づき結界で塞いでくれ」

「わかったわ」


 エリアスは剣を抜き、近くの魔物と交戦する。そして放った剣は正確に魔物の体を捉え、一撃で消滅した。

 武器を振るう暇さえ与えない電光石火の一撃。即座にエリアスは切り返し別の魔物へ標的を向け、それも瞬殺。この行動によって、現場にいた騎士や勇者達の動きにも変化が現れる。


 元々彼らは、負傷した人間を守るように戦っていた。それによって無理が生じ、魔物をこの場から離脱させてしまう結果となった――しかしエリアスが呼び水となり、形勢が大きく傾いた。


「反撃だ! 魔物を一気に打ち崩せ!」


 その中で気を吐き指示を出す騎士が一人。赤い髪の青年騎士であり、この場の誰よりも目立つ光沢のある純白の鎧を着ていた。


(彼がジェイン=ゴーディンかな?)


 胸中でエリアスは呟きながら、さらに魔物を倒していく。瞬く間に四体を撃破し、態勢を立て直したジェインは連携によって魔物を駆逐。これによって数を一気に減らしたのだが――それでも洞窟奥から魔物が現れる。


「これは本格的に封鎖しないとまずいな……!」


 エリアスは呟きながら洞窟へ向け足を踏み出そうとする。だがその時、ジェインから制止の声が飛んだ。


「待てそこの騎士! 救援に来たようだが、そのまま怪我人を引き連れ一度後退しろ!」

「……後退?」


 エリアスは眉をひそめ、聞き返す。


「このまま魔物を迎撃しつつ結界で封鎖するべきだろ」

「それらの処置もこちらでする。君達は怪我人を収容してくれ」


 ――エリアスはその言葉で魂胆を理解する。間違いなく彼は、


(調査の功績を渡したくないがために、俺達を離脱させる気か……)


 これはどうすべきか――そう考えたが、直後に洞窟奥から風に乗って大量の瘴気が地上へと流れてきた。


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