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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第二章

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深淵の世界

 ジェミーの案内によってエリアス達は山を進んでいく。そうして辿り着いたのは、開拓最前線とは大きく外れた位置。赤き狼が出現した北東からもさらに東に位置する場所。

 そこに、先日の魔物討伐にあったような洞窟が存在していたのだが――


「ふむ、瘴気の発生源はここで間違いなさそうだな」


 エリアスは断定する。その洞窟は入口がかなり狭く、人が入ることも難しい程度しかない。そのため、大型の魔物なども外に出ることは不可能。出られるのは精々小動物くらいの大きさの個体だろうと推測でき、この場所から魔物が這い出てくる可能性は低そうではあるのだが――


「……深いな」


 エリアスは入口から洞窟内を見回しつつ、呟く。


「簡単に索敵をしたが、洞窟が広すぎて奥までわからない」

「私とあなたの二人がいるなら、索敵範囲を広げることも可能よ」


 と、ジェミーは発言しつつ、杖で地面を叩きながら続ける。


「大地の力を用いれば、洞窟の構造もわかるだろうし」

「……かもしれないが、調べるのはやめておこう」

「あら、どうして?」

「……なんだか嫌な予感がする」


 エリアスの言葉にジェミーとフレンは沈黙した。


「まず、ここから漏れ出てくる瘴気……かなり濃い。地底奥深くに繋がっているのなら、あり得なくはない量なんだが……そもそも、最初に瘴気を観測した場所から距離がある。もしかすると、時間帯などによって瘴気の噴出量が違っていて、どこかで一気に出てくるなんて危険性もある」

「瘴気についてより詳細な調査をしなければいけないと」


 ジェミーの言葉にエリアスは「そうだ」と返事をする。


「ただ、それだけならもう少し洞窟を調べればいいだけの話だが……もしこの場所が地底の奥深く――東部では『深淵の世界』と呼んでいた場所に繋がっているとしたら、話は変わってくる」


 その言葉にフレンは渋い顔をした。一方でジェミーは眉をひそめ、


「深淵……何か特別な意味合いがありそうね」

「人類は魔物の領域を開拓して、支配域を広げているわけだが、どう頑張っても広げることができない領域が存在する。それが地底の奥深くだ」

「そこには大量の魔物がいるのかしら?」

「そうだな。地上に出てくることはない、凶悪な魔物がいるとされている……で、嫌な予感がすると言ったのは、この『深淵の世界』にいる魔物というのは、魔獣オルダークラスのヤバい敵も多数いるってことだ。その中で」


 エリアスはここで一拍間を置いて、


「……人間の魔力を感知するような魔物、あるいは最悪索敵しているといった行動をすら理解するような敵もいる。そうした奴らは、俺達が地上から探りを入れていることを、すぐに認識する」

「……刺激したら、何をするかわからないと」

「そういうことだ。地底奥から噴き出る瘴気の量も多いことから、ここは警戒しておとなしく引き下がった方がいい」


 エリアスはそう言いつつ、洞窟入口を見回し、


「幸い入口は狭いため、魔物が地底奥深くからやってくる危険性は低い……ただ、地上に出てこなくとも何かしら活動を活発にするような魔物が出ないとも限らない。よって、詳細は調べず様子を見た方がいい」

「でも国は、開拓のために調べようとするかもしれないわよ?」

「その際は国としても相応の準備はするだろうし、たぶん大丈夫……とりあえず結界で簡単に洞窟を封鎖しておき、ノーク殿へ報告しよう」

「……ねえ、エリアス。一つ質問なのだけれど、凶悪な魔物がいるとして、その中に魔獣オルダーと肩を並べる二つの脅威……それがいる可能性もあるのかしら?」

「ゼロではないと思う……フレン、残る名前が付いている魔物に関して詳細はわかったか?」

「調べはついています。そうですね……片方は地底を根城にしているので、何かしら関与している可能性があります」

「地底か……姿形は?」

「竜です」


 フレンは即答した。そこでエリアスは、


「竜……それはたぶん、巨大で厄介極まりない存在だろうな」

「はい、名は地竜エズバドン。二度ほど北部に出現し、災厄級の被害をもたらした存在です」


 エリアス達は少しの間、沈黙する。地竜――簡単に話を聞いた時点でも危険な存在であり、魔獣オルダー以上に強大な存在であることも推測できた。


「ふむ、地竜――ヤバい敵そうだが、貴族達はそいつを倒そうと躍起になっているってことか」

「名うての勇者や聖騎士を味方に引き入れていることを考えると、」

「竜が相手でも勝てる自信があるのか、それとも無謀なことをしようとしているのか……ただ、地底にいるなら現状では姿を見せる可能性は低いが……」


 エリアスは少し沈黙した後、フレン達へ言った。


「……この場所の瘴気によって、地竜の動向がつかめるかもしれない。そう考えると、この調査はもしかすると討伐時期を早める結果に繋がるかもしれないな――」


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