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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第二章

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瘴気の発生源

 エリアスは瘴気の調査としてジェミーと共に砦へと出た。他の同行者としてはフレンがいて、砦の周辺を見て回り、問題がないのを確認していく。


「魔物は発生していない……けど、瘴気は消えていないな」

「滞留まではいきませんが、少なからず存在しているのが気になりますね」


 エリアスの呟きにフレンは応じつつ、周囲を見回す。

 現在いるのは砦から東に位置する山岳地帯。山岳、といっても樹木が生えているくらいに標高は低いので、ここまで来るのはそこまで難しくはなかった。


「どこからか瘴気が漏れ出ているとかでしょうか……」

「東部ではそんなケースが多かったな」

「どういうことかしら?」


 尋ねたのはジェミー。エリアスはそこで彼女へ目を向け、


「例えば、ずっと瘴気が存在し続ける渓谷があった。周辺を調べても瘴気が出るような場所は見受けられず、かといって魔物が大量にいるわけでもない」

「渓谷なら谷底に瘴気が滞留してもおかしくはないけれど、何か原因があったの?」

「ああ、その渓谷から結構距離があったんだが、地底に繋がっている洞窟があった。そこから瘴気が漏れ出て、風に乗って渓谷まで到達していた」

「風で……」

「風に乗って、というところがポイントで、滞留するようなこともないから渓谷に魔物は現れない」

「なるほど、地底の洞窟か……地底、というのは魔物の巣という解釈でいいのかしら?」

「そこは微妙だな。例えば王都近くに洞窟があって、深いところまで地底へ繋がっていたとする。でも、地底自体に瘴気の発生源がなければ、ただの地底空間に過ぎない。まあ、魔物が現れやすい環境であるのは事実なんだけど」

「あなたが事例として語った場所は瘴気が出ていたのだから、魔物が多数いたのかしら?」

「ああ、魔物の巣になっていた……対処法としては色々あったんだが、そこの場合は洞窟を封鎖して対処した」

「臭い物には蓋を、というわけね。先日の魔物討伐だってそう対処しても良かったかもしれないけれど」

「完全な閉鎖空間か、広大な地底空間と繋がっているかでやり方は変わるな。閉鎖空間の場合、確かに封鎖すれば袋のネズミだが、その中でも魔物は独自に進化していく。放置しておけば、強大な存在となってしまい、いずれ外へ這い出てくるかもしれない」

「地底空間と繋がっている場合は……」

「地上への出口が封鎖されるだけで、魔物にとっては大した影響もないだろう。封鎖する手段については、例えば魔法なんかで岩を壊し物理的に閉鎖すれば、魔物もさすがに諦める。掘ってまで外に出ようなんて考えを持つ魔物はほぼいないからな」

「確かにそうね」

「こういった情報は持っていなかったか?」

「私はあくまで魔物の特性なんかの研究をしていただけだから。地形まで考慮するのは、ちょっと難しいわね」


 ジェミーはそう言いつつ、辺りを見ながら続ける。


「ただ今後北部で活動するなら、そういった事例があることもちゃんと認識しておかないとまずそうね」

「魔物の出現場所は、あらゆる可能性を想定した方がいいからな……で、今回の場合は周辺に瘴気発生源がなさそうだから、たぶんどこからか流れてきているな」

「調べましょうか?」


 と、ジェミーからの提案。それにエリアスは眉をひそめ、


「調べる?」

「さっきあなたは瘴気が風に乗って流れると言っていたでしょう? その事例が今回にも当てはまるなら、風の流れを読めば瘴気の発生源を特定できるかもしれないわ」

「なら、頼んでいいか?」

「ええ」


 ジェミーは即座に行動を開始する。魔力を発し、その姿を見守りながらエリアスはフレンへ、


「風の流れで瘴気発生源がわかれば、魔物討伐の時と同様に調査から場合によっては魔物討伐だな」

「地底に繋がっているのであれば、さすがに討伐するにしても大変そうではありますが」

「瘴気の発生源次第で立ち回りを変えよう。問題は風の流れといっても時間や季節によって変化するだろうし、そうすんなり特定できるのか――」

「わかったわ」


 エリアスの言葉とは裏腹に、ジェミーはあっさりとそう告げた。


「方角はここから北ね。進むのかしら?」

「そうだな……そんなすぐにわかるものなのか?」

「風の流れを読む間に瘴気が漂ってくるのを確認したから」

「そういうことか。それじゃあ、進むとしよう。ただ今回は三人だ。山を歩くから人数を少なくしたわけだが、詳細な調査は難しいし、発生源らしき場所を確認したら、すぐに引き返そう」


 エリアスの言葉にジェミーとフレンは頷き、三人は北へ進路を向け歩き出した。


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