訓練と課題
魔物討伐後、砦内はにわかに活気づき、訓練により着実に戦力は増していった。
その先頭に立ったのはルークとレイナの二人。魔物を倒した経験により、一気に成長を始めた。それは他の騎士達に良い影響をもたらし、自分達も頑張らなければ、ということから剣を振るにも力が入る。
さらに、ジェミーの存在によって砦にいる魔法使いの面々も確実に強くなっていく――十日ほど経過した段階で、エリアスが予想したよりもずいぶんと早いペースで強くなっていった。
そんな様子を見ながらエリアスは一つ考える。
(彼らは聖騎士、宮廷魔術師を目指して訓練を続けていた……きちんとした教育によって強くなるだけの素養は備わっていた。俺がやったことは、強くなるためのきっかけを与えたってところかな)
北部へ配属された時点で、彼らは相当な素質を持っていたに違いない――そうした結論を抱きつつ、エリアスは彼らと共に剣を振る。時折一対一で戦う時もあり、無論の事全勝ではあったのだが、明らかに魔物討伐前と比べて腕が上がっていることがわかった。
「――騎士達が強くなっているのは、私の目にもわかるわ」
と、砦内でジェミーと顔を合わせた時、彼女もそう話した。
「魔術師達も指導したら飲み込み早いし、強くなれるだけの基礎はちゃんとしているわね」
「ああ、それは同意する」
「残る問題としては、連携かしら」
「魔物討伐を行う場合、騎士と魔術師が連携をとれた方がいい……合同訓練とかやった方がいいか」
「さすがに戦術について私は素人だし、指導はできないわよ」
「わかっているさ……そこは、ノーク殿とも協議をしないといけないな」
――その数日後、砦内の人員が二手に分かれて連携に関する訓練を行った。作戦内容などについてはノークが作成し、演習そのものは初めてということでぎこちない部分が多く、課題点が見つかった。
ただ、その中でノーク自身の高い作戦立案能力についてエリアスは知ることができた。
「私は机上で作戦を立てるくらいしかできないからな」
ノークはそう語りつつ、訓練内容を考察する――後方支援の砦にいるためその能力が発揮されることはなかったが、彼もまた能力がないわけではない。
「ただ、やはり連携の能力は低い……練度を上げていくのはこれからだな」
「個々の能力的にも、まず個人を鍛えることも重要でしたし、ね」
「うむ、そうだな」
「……今回の件、周囲の砦にはどう映っているんでしょう?」
エリアスはふいに話題を変えた。するとノークは、
「別段気にしている様子はない。魔獣オルダー討伐から動き出しているため、私が独自に動いているかも、という考えはあるかもしれないが、あいにく戦力的に北部の最前線へ赴くような能力はない……危機感を覚えて騎士達を訓練しているくらいの認識だろう。王都側もさして気にしている様子はない」
「そうですか」
「私としても最前線へ赴こうなどと考えているわけではないからな……ところでエリアス殿、訓練の間にも周辺の調査はしているようだが」
ノークの指摘にエリアスは頷きつつ、返答する。
「はい、ナナン山という開拓から少し離れた位置に魔物の巣があったことから、他の場所にも少しばかり調査を行いましたが……危険度ゼロくらいの個体はいましたが、脅威となるような存在はいませんでしたし、瘴気が滞留している地点もなかった」
「ひとまず、後顧の憂いはないと」
「そうですね……ただ」
エリアスはここで調査結果について思い返しながら続ける。
「開拓が完了した場所で少し、瘴気が発生している地点があります」
「それについて原因は特定できているのか?」
「現時点ではなんとも言えません。魔獣オルダーの影響なのかも……ただ、危険度の低い魔物しかいない状況下で、突然瘴気が発生しているというのは変ですし、観測できていないだけで魔物がいるのかもしれません」
「他の砦も警戒しているとは思うが、念のため連絡はしておくべきか」
「開拓そのものは進んでいるんですよね?」
「ああ。とはいえ無茶な動きはしていない。少しずつ着実に、というレベルではあるのだが……以前も言ったとおり残る脅威を排除するために貴族が先走っているため、色々と混乱はあるようだ」
そこまで語ると、ノークはやや重々しい表情を見せる。
「瘴気の原因が特定できないと言ったが、その瘴気はいずれ消えるものなのか?」
「周囲に滞留する場所がないので、いずれ消えるかと。ただ、今後も継続的に瘴気が発生するようなら、どこからか魔物が現れている……少し警戒はすべきかもしれません」
「わかった、なら次は瘴気の調査を命じよう。人選については任せる」
「わかりました」
承諾したエリアスはすぐに動き出す。
「瘴気なら……ジェミーを始め魔術師を連れていった方がいいかな?」
そう呟きつつ、エリアスは頭の中で算段を立て始めた。




