戦力強化
エリアス達はフレンが待つ野営地へと戻り、無事討伐できたと報告。そして撤収準備を進め、昼過ぎには出発した。
それほど時間も掛からず砦へ戻ると、エリアスはノークへ討伐完了を報告。ノークは報告書を作成するとして、エリアスを労いつつ、一つ尋ねた
「今回の討伐で戦った騎士……君が目を掛けていた二人だが」
「はい」
「二人の成長具合はどうだった?」
「双方とも、実戦経験を得て自信に繋がったのではないでしょうか」
「そうか……二人を軸に訓練を行いさらなる戦力強化を、という方針にしたいのだが」
「わかりました。今後は砦内で訓練を優先しましょう」
「うむ、頼む……そして、ジェミーという魔法使いについてだが」
「討伐完了ということでひとまず砦に連れてきましたが……」
「可能であれば、期間については不明だが、砦にいる者達に魔法の指導を願いたいものだ」
――ノークから水を向けてくるとは思っていなかったため、エリアスは少し驚いた。
「例えば王都から宮廷魔術師を呼び寄せて指導、とかは無理だと」
「それをやるなら開拓最前線だろうからな」
「……彼女は前向きに考えると思いますが、砦の運営的には問題ありませんか?」
「予算的に都合はつく。騎士だけでなく魔法も強化していかなければ戦力増強には繋がらないだろう」
ノークは重々しい声音で告げる。それでエリアスは頷き、
「わかりました……ジェミーに話をします。同意はすると思いますから、私と彼女の二人で指導をしていく、ということでいいですね?」
「ああ、頼む」
エリアスはノークの部屋から出る。そしてジェミーに改めて仕事の依頼を告げる。
「ノーク殿から言ってきた。よって大手を振って仕事ができるぞ」
「わかったわ。ここで仕事をしつつ北部に関しての情報を集めるとするわ」
「フレンが現在、色々と調べている。騎士団の詳細とかは明かせないから、全てというわけではないが、依頼料に合わせ情報を渡すよ」
「ああ、それは助かるわ。仕事にも気合いが入るわね」
ジェミーは内容に満足したようで依頼を快諾。そして次にエリアスはフレンと合流し、会議室で話をすることに。
「ひとまず、戦力強化については目処が立った。ルークとレイナの戦闘経験はかなり価値のあるものだったし、二人を軸に騎士全体の強化を進めていく」
「わかりました……今回の魔物は危険度二には到達していないとのことでしたが……」
「ああ、そこは間違いない。開拓最前線ではなかったし、数は多かったけど魔物の強さはそこまでではなかった……ルーク達にとっては良い演習だったはずだ」
決して弱くもなく、かといって命の危機になるほどの強さでもない――エリアス達としては今回の討伐、ジェミーのことを含め大きな成果を上げたのは間違いない。
「一気に砦の強さを高める機会だな。フレンは情報収集を再開してくれ」
「わかりました。ジェミーさんにも情報をお伝えするとのことでしたので、彼女に渡せる内容を吟味した資料も作成しておきます」
「悪いな」
「いえ、大丈夫ですよ……ただ」
と、フレンは少し声のトーンを落とした。
「確認ですがエリアスさん、今後も調査は続けるのでしょう?」
「暇があればやろうとは思っているよ」
「それに加えて訓練も重点的に……となれば当然、エリアスさんに負担が掛かります。やはり東部から人員を引っ張るべきではないでしょうか?」
「……ノーク殿が許可するかな?」
「そこについて考えたのですが、例えば騎士でも階級が低い人物などはいかがでしょう? 現場を指揮するような人員ではなく、戦闘経験は豊富ですが騎士としての身分としては脅威にならない……そういった人物であれば、呼び寄せることも不可能ではないかと」
フレンの指摘に、エリアスは笑った。
「あのさ、フレン……それ、誰を呼ぼうと言っているのか、断定しているようなものだろ」
「そうですか?」
「フレンの言葉に合う人物を、東部では一人しか知らない……つまり、ゴーシュを呼べというわけだな?」
「実力的には申し分ありませんし、何より腕っ節は良いですが作戦を立てる能力は皆無ですから、騒動を起こすようなこともないでしょう」
「問題はゴーシュの性格にこの砦の人がついてこれるかどうかだよなあ……色々と接してみたけど、おとなしめの人が多いからな」
「そこまで懸念する必要はないと思いますが……」
「まあそもそも、許可が下りるのか。そしてゴーシュが同意してくれるのかがわからないし……ま、やれるだけやってみようか」
「ゴーシュさんがいれば、色々と立ち回りも変わりそうですよね」
「いずれ行われる魔物討伐には大きな助けになるだろうけどな……」
エリアスは呟きつつ、今後の方針をまとめる。
「フレンは情報収集、俺の方はゴーシュを呼ぶ算段を立てつつ、騎士達の訓練をこなす……ま、次の大きな戦いまでまだまだあるだろうし、ゆっくりやるとしようじゃないか――」




