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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第一章

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戦いの成果

 やがて討伐隊は撤収作業に入る。その間にエリアスへ声を掛けてくる人間は皆無。間違いなく決定打を与えたのはエリアスだが、最後の最後で騎士や勇者が総出で仕留めたという事実から、動きを止めた功労者ではあるが、魔獣を仕留めたのは別――という評価らしい。


(とはいえ、今回のことで多少なりとも意見は通しやすくなった……はず。戦功が皆無だったらさすがに文句の一つも言うかなあ)


「フレン」


 エリアスは傍らにいるフレンへと声を掛ける。


「戦果としてはどんな風になると予想する?」

「……思わぬ形でエリアスさんが活躍したわけですが、さすがに報告書に名前を記載しないというわけにはいかないでしょう。魔獣にトドメを刺したのは多数の勇者や騎士ですが、そういった人達がエリアスさんの戦いぶりを見ていたわけですし、何も言及しないでは通らない。それに、戦果そのものは指揮官の報告書だけでなく他にも多角的な視点から評価されるでしょうし」

「多角的?」

「騎士や勇者の動きに目を光らせる騎士がいたので、国側も今回の討伐で誰が率先して動いていたか……その評価はきちんとするかと思います」


 なるほどとエリアスは内心で納得しつつ、


「それじゃあ、今回の一件で国へ上奏できると思うか?」

「そこまでは難しいかもしれません」

「ま、そうだよな……ともあれ、犠牲もなく勝てたんだ。そこについては喜ぼう」


 エリアスの言葉にフレンは頷く――何はともあれ、戦いには勝利した。犠牲者がゼロであれば、完全勝利だと言っていい。


「俺達はやることもないし帰るか」

「……そうですね」

「あ、私も行くよ」


 近くにいたミシェナが声を上げた。


「今回の協力者は退散してもらった。報酬関連はマリーから支払われるから、エリアス達が気にしなくていいよ」

「それはありがたい……さて、それなりに戦果を得たのは間違いなさそうだが、まだまだ目標達成には遠そうだな」

「戦功を得るなら最前線の砦に行くのが一番じゃない?」

「それはそうだが、最前線には聖騎士だって複数いるだろう。そんな人間が俺のことを呼び寄せるとは考えにくいしなあ……」


 エリアスはそこまで呟くとため息をつく。


「それこそ、目標達成のためには人事権すら自由に行使できるくらいの権力がいるのか? フレン、どう思う?」

「さすがにそれは考えすぎだと思いますが……単純に魔物を倒し続けても、目標には届かない可能性が高そうですね。今回のような大物を倒さない限りは」

「大物ねえ……そういえば魔獣オルダーを含め、北部には脅威と見なされている魔物が三体いるんだったか」

「残る二体を倒すと?」


 問い返したフレンに対しエリアスは肩をすくめた。


「残る二体が出てこない限りは手出しのしようがないだろ……けどまあ、選択肢の一つではあるかな」

「エリアスなら成敗しちゃいそうだけどね」


 と、これはミシェナの発言。


「魔獣オルダーだって、その気になれば一撃だったんじゃないの?」

「……さすがに危険度三の魔物を一撃は無理だぞ」

「そう? さっきの剣の振り方を見ていると、余力があるように見えたけど」


(察しがいいな)


 内心で呟く間にミシェナはさらに続ける。


「その余力はおそらく魔獣が想定外の動きをした時に備えたもの……その力を振り向けていたら、倒せていた?」

「……それはわからない。結局俺は状況的に全ての力を魔獣の攻撃を傾けるようなことはしなかっただろうからな」

「そう……あなたくらいの実力者は、東部にまだいるの?」

「仮にそうだったら俺以外にも聖騎士が多数輩出されているだろう? それが答えだよ。開拓とは違う場所で、延々と魔物を倒し続けた……その成果が出ただけさ」


 エリアスの言葉にミシェナは目を細める。何事か考えている様子だったが――


「……わかった。今はそういう風に解釈しておく」

「なんだか引っ掛かる物言いだな」

「なんというか、情報を秘密にされているような気がするんだよね」


 秘密――とは違うが、エリアスは今自分の口から東部の情勢などが漏れれば面倒な展開になるだろうということは予想でき、だからこそあえて何も語っていない。


「……そこについては、北部に来たばかりでまだまだ情勢などがよくわかっていないから、ということが理由だな。俺達の方も、色々と探り探りやっているというか」

「ん、わかった。とりあえず今はそれで納得しておくよ」

「どこまでも引っ掛かる言い方だな……まあいいや、ところでミシェナ。今回の戦いぶりを、マリーはどう受け取ると思う?」

「報告書の内容次第になるけど、少なくともエリアスが討伐に貢献したのは間違いないだろうし、縁を結んで良かったと一定の評価はするんじゃないかな」

「そうか」

「マリーの権力を利用して何かしたい?」

「さすがにそこまではしない……そもそも今回彼女の協力で人を用意してもらった。むしろ、何か仕事でも依頼されるのかと考えているんだが」

「うーん、縁ができたという事実で報酬的には問題なさそうだけど……あ、でも私の方に北部関連で仕事の依頼はあるかもしれないし、その場合手を貸してもらえると」

「……日々の仕事に支障を来さなければ、という条件なら手を貸すぞ」

「普段の仕事、あるの?」

「さすがにゼロというわけじゃないさ」


 そうした会話をしつつ、エリアス達は戦場から離れたのだった。


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