彼女の評価
「ミシェナはこれから魔獣オルダー討伐のために動くと言っています」
マリーはエリアス達へなおも語っていく。
「討伐にあたって同行者としてエリアス様と従者であるフレン様に頼むと言っていますし、私としては皆様に対し何かしら支援できればと思います」
「……支援とは?」
「装備については聖騎士である以上、国から支給されるので不要でしょうけれど……話によれば、エリアス様は何かしら策がおありの様子。それに対し私の方で支援できれば」
(ふむ、相手から持ちかけてくるとは……)
話がドンドン先に進んでいる、と思いつつエリアスはマリーへ応じる。
「助力はありがたいし、準備のために人手が不足しているのは事実だが……」
「何が必要ですか?」
「仕込みをする人員だ。とはいえ、討伐に参加するといっても北部にいる騎士や勇者から人を引っ張ることができない。よって、どうしようか悩んでいたところだ」
「仕込みとは魔法に関するものですよね?」
「ああ、なおかつ討伐の最中に動く必要があるため、魔獣や魔物相手に自衛できるだけの実力が欲しい」
「そういった戦力は当然、魔獣討伐に注がれるでしょうから、今のエリアス様の立場では集めるのが困難だと」
「そうだ」
「人数はどれほど?」
「数人……まあ三人程度いればどうにか。ただ、その三人を見つけることが今の俺では難しい」
「なら私が手を貸せるのはそこですね」
マリーは自信ありげな笑みを浮かべ、エリアスへ応じた。
「私と交流のある勇者をピックアップし、手を貸してもらえないか交渉してみましょう」
「そういう人も魔獣討伐に参戦するんじゃないのか?」
「その可能性もありますが、勇者全員が魔獣討伐に出てくるわけではありませんし、誰かしらは引っ掛かるかと」
「……それができるのなら俺としてはありがたいが」
「――ただ、その前に一つ確認を」
と、ここでマリーは一度居住まいを正した。
「仮に計略が成功すれば、エリアス様は一定の評価を得るでしょう……武功を手に入れ、何をしますか?」
「俺が何かをすることであなたが損をする可能性を考慮して尋ねたのか?」
「はい。よほどのことがない限りあり得ませんが、さすがに手を貸しておいて損をするというのは避けたいので」
「さすが商人、用心深い……まあそうだな、この砦に来た時とは少しばかり事情が違っている。俺は、国へ上奏できる発言力が欲しい」
「ほう、それはどうして?」
――ここから先は、国に関わる話だ。マリーに話をすべきなのかエリアスは一瞬迷ったが、
「……ここからは内密にできるか?」
「ええ、私は口が固いのでご心配なく。ミシェナもいいですね?」
「もちろん」
「……フレン」
「私はエリアスさんに従います」
「わかった。俺がいた東部……その内情をどうやら王都は正確に把握していない。その要因は色々あるみたいだが、実情をちゃんと王都へ伝えるために、それなりに発言力を得なければいけないとここに来てわかった」
「東部の……もう関わりはないですよね?」
「元部下とはいえ、同じ場所で戦い続けた仲間だ。その実情が知られていないのは不憫だし、ちゃんと正当な評価がされて欲しい」
「……なるほど」
「答えは満足のいくものだったか?」
「商家の私としては少し物足りないですが、あなたと関わったミシェナについて、決して邪険にはしない。そこは明瞭に理解できました」
マリーはそう言うと、笑みを浮かべながらなおも続けた。
「そして、ここであなたが活躍し発言力を得たのであれば、私にとって利する時もあるでしょう……支援を約束します」
「……わかった。ありがとう」
エリアスはそれを受け入れる。思わぬ形ではあったが、これで魔獣オルダーを倒すための手はずは整ったと考えてよさそうだった。
「具体的な作戦などを聞くか?」
「いえ、私は戦いについては知識がありませんから、先ほど語っていた人員を集めることに集中しましょう。形式上はミシェナがの協力者、でよろしいですか?」
「ああ、それで問題ない……が、さすがにこの砦に来るのはノーク殿の負担になるな」
「わかりました、どうするかはミシェナと改めて話をします」
そう言うとマリーは立ち上がった。
「エリアス様、ご武運を」
「……失敗しても文句は勘弁してくれよ」
「こうして話ができた時点で私としては利を得ているので十分ですよ。あなたの目的が達成されることを心より祈っています」
――そうしてマリーはあっさりと砦から去った。ミシェナもまた彼女と共に砦を出て、エリアスはまるで嵐が過ぎ去ったかのような心境で二人を見送る。
「……ずいぶんとまあ、豪快な方でしたね」
と、マリーの後ろ姿を見ながらフレンが言及する。
「立ち振る舞い優雅でしたが、自分の信じたものを評価し、それを疑わないというのが」
「あの人なりの考えがあるんだろう……俺達にはわからない人生の重みがある。ド平民の俺達と、貴族とでは考え方や価値観も違うから、そういうところで差があるんだろう」
そう述べた後、エリアスは苦笑する。
「東部にいて、貴族と話をする機会は数えるくらいしかなかったからな……四十年生きてきて初めてだよ、ああいうタイプの人物は」
――そんな会話をしながら、エリアス達はマリーの姿が見えなくなるまで、後ろ姿を眺め続けた。




