論功行賞について
その日、霊木周辺の結界補強作業が終わり、エリアスは砦に期間。そこでテルヴァに一連の内容を報告すると、
「そうか……予想以上に霊木周辺の拠点化は早く進みそうだな」
「俺やバートは当面、拠点作成のために霊木と砦を往復……で、いいのか?」
「いや、さすがに建物を建設するのは騎士達には無茶だ。相応の部隊を用意する……が、それには当然、護衛が必要だ」
「ということは、現状ではまだリスクがあるな」
「結界魔法により道を繋ぐことはできたため、霊木周辺の土地調査を開始しつつ、道を広げ魔物の襲来を予防しつつ……拠点作成のためには、周辺を完全に開拓する勢いで作業を進めていきたいところだ」
「……そこまでするとなったら、目標にはまだまだ遠いだろうな」
「しかし、年単位で必要としていた霊木への到達が、恐ろしい速度で達成できた」
と、テルヴァは微笑みながらエリアスへ言う。
「これは紛れもなくあなたの功績だ……成果を報告した際に君のことも報告はしてある。普通に考えれば、君の目標……東部の状況を報告できるだけの発言力、という点は十二分に達成できるはずだ」
「だといいけどな……ノウェト公爵はどうだ?」
「まだ進捗はない……それと、実際の論功行賞については、もう少し掛かる。何やら王都内では騒ぎが起きているらしいからな」
「……その騒ぎって、公爵絡みか?」
「情報を集めているが、世間に情報が公に出回っているわけではない……まあ、王都内で色々あって、北部最前線の評価をしている暇はない、というわけだ」
「一ヶ月以上経過しているが……」
「その程度の時間では、解決しないほど大きな問題というわけだ」
テルヴァは笑みを湛えたまま述べる――エリアスはなんとなく、状況を理解した。
ノウェト公爵は間違いなく大貴族であり、その牙城を崩すのは並大抵のことではできない。だが、それでも北部最前線で得られた情報を利用し、公爵を追い落とそうとする人間が多数動いた。
それに対し公爵も防戦を行った――そのせめぎ合いによって、一ヶ月経過してしまったというわけだ。
「……もし公爵が失脚したとなったら、王都はかなり混乱するだろう」
テルヴァはさらにそう述べた。
「事態が落ち着くまでにさらに時間を要することになる……ま、こちらはゆっくりと作業を進めていればいい。霊木周辺に脅威はないし、当面魔物の領域に踏み込むようなん無茶をするつもりもない。王都側としてもそんな命令は、混乱もあってできないだろう」
「わかった、俺としては待つつもりではあるが……公爵の方も必死なんだよな」
「当然だ。今回の話はそれこそ、公爵どころか家の存続さえ危ぶまれるほどの事態だからな」
――政争によって、足下が崩れ始めている公爵。やっていたことを考えれば、自分達が引き起こしたものが返ってきているだけなのだが。
「……テルヴァとしては、どのくらい時間が掛かるものだと推察する?」
「正直読めないな。公爵がどれほど抵抗するかによって……だが、それこそ失脚し家が取り潰しになる可能性すら危惧するのであれば、全力で抵抗はするだろう」
「現在はせめぎ合いか……」
「攻めている側も必死だ。公爵を倒せる武器を手に入れたわけだが、ここで負ければ出世の目はなくなるだろう」
「今王都にいたら、胃がもたれるくらいに政治闘争を目の当たりにしそうだな」
「あなたは嫌そうだな」
「当然」
頷くエリアスに対しテルヴァは苦笑。
「ま、私も関わりたくないな……政治的には北部最前線は中立だ。あくまで国の方針として開拓作業に勤しんでいるわけだからな。もちろん、砦内にいる騎士や勇者は様々な事情を抱えていることはわかっているが……」
「テルヴァの方針が正解だよ。下手に政治的に敵味方を作るのは、開拓そのものを遅らせることになりかねない」
エリアスは言いつつ、一度息をつきつつ、
「王都側が落ち着くまではひたすら砦と霊木を往復する日々を繰り返すことになりそうだな」
「不満か?」
「いや、これでいいよ。派手さはないが、着実に進んでいる……成果が目に見えてちょっと嬉しい。魔物を追い返すだけでは味わえない仕事だから」
「……そうか。そう思ってくれたのであれば、こちらとしても嬉しい」
テルヴァはそう答えた後、エリアスへ改めて告げた。
「公爵がどうなったのかについては、確定次第あなたに報告しよう。その後、具体的に論功行賞が行われることになるだろう。あなたは褒美を得る筆頭であることは間違いないし……場合によっては、王都に屋敷を構えることになるかもしれないぞ」
「面倒だなあ」
エリアスは応じつつ、
「実際にどうなるかはわからないし、結果次第で俺は立ち回りを変える……ただ、北部最前線で仕事を続ける意向だ、ということについてはテルヴァの方から報告しておいてくれないか」
「わかった」
彼が返事をすると、エリアスは「頼む」と告げた後、部屋を出て休むことにした。




