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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第三章

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語り継ぐ

 聖騎士テルヴァの方針に従い、翌日には討伐隊の解散が通告された。勇者オルレイトもそれに同意し、足早に砦を去ることとなった。


「こちらはこちらでテルヴァのために色々と働くとしよう」


 そうオルレイトは言い残した。エリアスは何をするのかと疑問に思いつつ、まあ北部最前線に悪いことではないだろう、と思いつつ彼のことを見送った。

 討伐隊の面々は、いつかまた一緒に仕事をしようという雰囲気で和やかな雰囲気のまま解散し、砦を去る。そうして慌ただしさは収まり、北部にとって普通の状況にあっという間に戻っていった。


 その中で霊木に存在する結界は維持し続け、エリアスは騎士バートと共に霊木へと向けて開拓を進めていった――そうした中で一つ大きな事実が判明。それは結界魔法により霊木が影響を受け、結果魔物の出現が著しく減った。

 最初は霊木の主が消えたためだと考えたが、作業を進めるにつれて霊木が結界魔法によって大きく影響を受けたためだと判明した。これによって開拓の速度も増し、霊木への道が、確実に整いつつあった。


 そうした中でテルヴァは開拓の人員について、さらに増やすことを通達――元々地底を調査していた人員のリソースをどうするか考えていたらしいが、霊木の状況を察して決断。そこでエリアス達は一気に開拓の速度を加速させていった。






 そうして作業を進め、討伐からおよそ一ヶ月ほど――開拓としては極めて短い期間で、エリアス達は再び霊木周辺に足を踏み入れることができた。二度目の訪問は瘴気もほとんどなく視界は良好。魔力を発しながら風によって葉擦れの音を響かせる。霊木はどこか幻想的であり、初めて見る騎士バートなどは少し間、呆然と霊木を眺めた。


「……瘴気がなければ綺麗だな」

「俺もそう思うよ……うん、結界魔法は効いている」


 エリアスは呟きながら後方にいたフレンへ声を掛ける。


「ただ、少なからず綻びがあるな。結界魔法を補強するか? それとも再構築?」

「補強する方向で作業をします。周囲は魔物の領域で囲まれている以上、一時的にも結界を消すのはリスクが伴います」

「わかった。ミシェナ、俺達は周囲の警戒を行うとしよう」

「うん」


 同行したミシェナは同意し、それぞれが動き始める。一方で騎士バートは自分達が突き進んでいた道を広げるために開拓作業を進めていく。

 そうした光景を目に映しつつ、エリアスは考える。


(霊木の主を討伐しただけでなく、一ヶ月ほどの時間で制圧まで完了した。これなら王都側としては最高の結果だろう……現状は、果たしてどうなっているのか)


 開拓を進める間も聖騎士テルヴァは情報集めをしていたのだが、結果としてまだノウェト公爵の話などはまだ出てこない。この期間であっさりと失脚するほど甘い相手ではない、ということなのだろうとエリアスは考えた。


「ま、結果がわかっても北部の開拓最前線までそこまで影響はない……かな?」


 エリアスは戦った『ロージェス』について思い出す。恐ろしい相手であり、この存在から語られた内容は驚愕すべきものではあった。だが同時に、ロージェスを倒したことで終わったのだ、という感覚も多少だがあった。


(もう邪魔をするような敵もいない……人の姿をした魔物の由来が人間であるのなら、今後魔物の領域を開拓していく上で遭遇することもない……か?)


 そう思いはしたが、さすがにゼロではないと気を引き締め直す。


(今後開拓を続けていくのであれば……俺の経験は、語り継いでいく必要があるだろうな)


 そうエリアスは思いつつ、東部の状況も気になった。


 テルヴァにはそちらも情報を集めてもらうよう依頼し、フレンにも動いてもらっている。魔物は相変わらす出現しているらしいが、ひとまず犠牲者などはないとだけ情報が入っている。

 詳細を知ることができないことがもどかしいのだが、それでも犠牲がないのであれば良い、とエリアスは考え、自分から動くようなことはしなかった。


(今回の戦果を得て、いよいよ発言力が……東部の状況を克明に伝える機会が出てくるか)


 それと共に、自分は――色々と頭の中で今後のことを想像しつつ、


(ただ、焦る必要はない。いずれ、結果が俺の手元にやってくるだろう)


 何かしらの功績を得られる自信はあったため、エリアス自身慌てていない。そこでようやく思考を止め、周囲に目を向ける。

 結界魔法によって霊木周辺は穏やかで魔物の気配もない。今日の作業が完了すれば、人間の領域を道が繋がったため、開拓はさらに速度を増すことになる。


(今後はここを拠点として……ということなら、当面はこの場所を往復することになるかもしれないな)


 いずれここに建物などが建ち並ぶことになるかもしれない。そしてそれは、当初テルヴァが予定していたよりも早いだろう――確実に開拓が進んでいることを自覚しつつ、エリアスは周囲の警戒を続けたのだった。


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