謀略に終止符を
やがて結界魔法の準備が整った。そしてエリアスが号令を掛けると、霊木周辺に結界魔法が形成される。
まだ人間の領域と繋がっているわけではないため、この結界魔法もどれくらいもつのか不明だが――それでも、ここに霊木の主に代わる新たな脅威が出現する危険性は低くなった。エリアスはこれで仕事が完了したとして、撤収するよう隊の面々へ言い渡した。
「戦いはこれで終了だ……犠牲もなく戦いを終えられたことは良かった。ここから先、仕事はたくさんあるが……俺達の役目は、終わりだ」
そして霊木を後にする。元来た道を戻り、それは魔物による襲撃一つなく、無事に人間の領域まで戻ることができた。
エリアス達が戻ってきたのを開拓を行っていたバート達が確認し、歓声を上げた。元々索敵で状況はわかっていたはずだが、それでも実際に戻ってきたことで喜びを爆発させた。
「既に状況は砦に報告している。戻れば凱旋が待っているぜ」
バートの言葉にエリアスは笑いつつ、開拓作業は終了し砦へと帰還。そこでも歓声を受け、誰から言うわけでもなく宴が始まった。
エリアスはそんな様子を見ながらテルヴァの部屋へ赴く。彼は無言で報告内容を聞いた後、
「……全てがかみ合って、犠牲なく作戦は成功したか」
「ああ、正直紙一重だったとは思う」
「紙一重だろうと、勝利は勝利だ……やり遂げた。しかもノウェト公爵に関する情報まで得られた」
「かといって、魔物の証言だけでは捕まえられないだろう」
「公爵と敵対する人間は多数いる。そういった人物達に情報を流せば、無理矢理にでも調査を行うことになるだろう」
「……ずいぶんと力押しだな」
エリアスの言葉に対しテルヴァは肩をすくめる。
「魔物を生み出した張本人が謀略を行ったのだ。このくらいはあってしかるべきだろう」
「……王都はどうなると思う?」
「大なり小なり混乱が予想される。ノウェト公爵の権力はかなりあるからな……だが、それでも国はどうにか立て直すだろう」
「ならすぐにでも報告を行い……」
「そうだ、謀略に終止符を打つ……残る懸念としては他に人間の姿をした魔物がいるのかどうか、だが」
「そこは調査結果を踏まえて、だな」
エリアスの言及にテルヴァは頷いた。
「ま、今の時点で考えることではないな」
「……霊木への開拓はどうするつもりだ?」
「現実的な話として、結界魔法を構築できたととしても肝心の道ができていない。とはいえ、今まで以上に作業ペースを引き上げ、短期間で霊木への道を通すことができれば……」
「開拓をする騎士達の負担が大きくなるな」
「そのくらいは了承してもらえる……それに、今回達成した任務の結果をないがしろにするわけにはいかない。騎士バートには色々と頑張ってもらおう」
エリアスは内心「大変そうだ」と思ったが、あえて何も話さないことにした。
「俺は明日以降どうする? というより、隊をどうするかだが」
「引き続き部隊を維持する……というのは厳しいな。短期間だからこそ物資の供給もどうにかなっていた」
「解散は作戦を終えた以上は仕方がないさ……俺は騎士バートと共に開拓に従事、でいいか?」
「そちらがよければそれで構わない」
「わかった……隊の解散はいつだ?」
「明日にでも告知を行い、数日以内には元の持ち場などに帰還してもらう運びになるな。オルレイトを含め勇者については……まあ、どうするかはこちらで考える」
テルヴァの発言を受けてエリアスは「頼む」と一言添え、
「俺達の完全勝利になったわけだが……今後も妨害はあるかな?」
「少なくともノウェト公爵は目論見が外れたため、政治的に防戦を余儀なくされるだろう。その中で調査が始まれば逃げられない……少なくとも彼が色々と動くなんて可能性は低くなる」
「でもそうなったら、今度は他の貴族が、ってことか」
「かもしれない……が、さすがにノウェト公爵くらい面倒な手合いはさすがにないだろう。安心していい」
「だといいけどな……」
エリアスは苦笑しつつ返答した後、
「それじゃあ俺は部屋に戻って寝るとしよう」
「宴が自然発生的に起こったみたいだが、参加はしないのか?」
「俺は遠慮しておくよ……何かあれば呼んでくれ」
エリアスはそうテルヴァへ言い残して部屋を出る。そして廊下を進み、自室へ戻ってくると小さく息をついた。
「……見た目以上に、ギリギリではあったな」
そうエリアスは呟く――傍から見れば圧倒していたように感じられたかもしれない。しかし、実際のところは――
「……ともあれ勝てた。それは事実だ」
エリアスは自分のことを見つめ直す。目標については――武を極めるという点については、まだまだ道半ばではあったが、今回の作戦でまた一歩近づいたように感じた。




