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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第三章

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勢力図

「……そうか」


 やがてエリアスへロージェスは言葉を紡ぐ。


「全ては……人の姿を持ちながら、人と関わることがなかった、俺自身の問題だったか」

「そうだな、北部の最前線で大暴れしていたら、結末は変わっていたかもしれない……ま、そうなったらルーンデル王国が大々的に介入していただろうから、お前の寿命はもっと短かったかもしれないな」


 エリアスは言いつつ、崩れ落ちていくロージェスを眺める。


「お前の負けだ。おとなしく消えてくれ」

「……せめて一撃でも入れることができていれば」

「一撃入っていたらお前の勝ちだったよ。だがそれが、果てしなく遠かっただけだ」


 ロージェスは悔しそうに笑う――もはやそれしかできないという風に。

 やがてその体躯が完全に消え去った時、エリアスは小さく息をついた。


「さて……それじゃあ」


 周囲に目を向けた。霊木の主が生成した魔物達は、騎士や勇者達の手によって大半が倒されていた。


「……出番はなさそうか?」

「ああ、おそらく大丈夫だろう」


 勇者オルレイトの言葉だった。視線を向けると彼が前線からエリアスへ歩み寄ってきていた。


「援護に入ろうと思ったんだが、必要はなかったか」

「とりあえずは、な。余裕に見えたかもしれないが、実際は心理的に追い込んでどうにかってところだな……相手が立て直すことができていれば、勝負はどう転ぶかわからなかった」


 エリアスは冷静に戦いの分析を行う。


「だが、それでもどうにかなった……霊木の主はまだ動いていない。ここまできたなら動けないと考えるべきだろう」

「……ああ、そこについてだが少し事情が違うらしい」

「ん? どういうことだ?」


 聞き返したエリアスに対しオルレイトは肩をすくめる。


「前線で戦い、霊木周辺の状況がある程度わかった結果だ……結界魔法により魔物は弱体化しており、おそらく問題なく討伐できるはずだ。後は、霊木の主についてだが……そこは、実際に魔物を見てから確認することにしよう――」






 周囲の魔物全てを倒した瞬間、騎士や勇者が歓声を上げた。

 戦いに勝利した――しかも負傷者は少なく、犠牲者はゼロ。まさしく完全勝利を成し遂げた。


 その功労者は、文句なしにエリアス――ロージェスと向かい合い、耐えたこと。そしてフレンを始めとした後方支援の結界魔法による魔物の弱体化。この二つによって、勝利を迎えることができた。


「とはいえ、油断はするな」


 歓声を上げ喜ぶ面々にエリアスは言う。


「霊木周辺に凶悪な敵はいなくなったが、俺達はまだ魔物の領域にいるからな。この領域を出て初めて、大騒ぎしよう」


 騎士や勇者達は声を止め、すぐさま霊木へ向かうべく動き始めた。エリアスやオルレイトも歩き出し始め――やがて、巨大な樹木へと辿り着く。


「これが霊木シュレイか……」


 見上げれば無数の枝が存在し、空を覆い隠すほど――ただその中で、エリアスは霊木の主についてどういうことなのか理解する。


「……以前、索敵を行った魔術師の絵とは違うな。どういうことだ?」


 エリアスはその魔物を見る――霊木の主は、霊木に取り込まれるようにその体躯の大半を、樹木に埋めていた。


「こうやって魔物を生成している……というわけでもなさそうだな」


 狼の顔を持つ霊木の主は、苦悶の表情を浮かべている。


「たぶん、さっきの人間の姿をした魔物によるものだろう」


 と、ここでオルレイトが解説を入れる。


「この魔物から、先ほどの人の形をした魔物と同質の力が感じられる。邪魔だと思ってこうしたのか、それとも無理矢理魔物を作らせるためにこうやったのか……どちらにせよ、霊木の主としては望まぬ形だろうな」

「……この状態では戦闘すらまともにできないみたいだな」


 エリアスは言いながら剣を抜く。


「俺がトドメを刺す。いいか?」


 その提案に誰も首は振らなかった。よってエリアスは進み出て――霊木の主へと一閃する。

 ロージェスを倒して見せたその剣は霊木の頭部を両断し――やがてその体躯が、樹木の影響が崩れ、消えた。


「これで……あとは、この霊木周辺に結界魔法を張ることか」

「準備を開始します」


 フレンが言う。エリアスは小さく頷き、騎士達に周辺の警戒をするよう指示を出した。

 そして結界魔法の準備が始まると同時、エリアスはオルレイトへ話を向ける。


「これで終わり……かつ、先ほどの敵から、面白い情報を得た」

「ほう? それは?」


 ――エリアスはオルレイトへ説明する。それに彼は、


「とんでもない情報だな。ルーンデル王国内の勢力図がひっくり返るぞ」

「とはいえ、もちろん証拠はない」

「まあ確かに……だが、明確に誰の仕業なのかわかったのは大きいな」

「今回の戦いで俺やテルヴァの発言力も上がったはず……後は政治的にどう上手くやるか、だな。馬鹿正直に国へ調べてくれと言っても、聞き入れてもらえないだろうし」

「そこはテルヴァに任せればいいさ」


 オルレイトが言う。それにエリアスは少し考えた後、「そうだな」と短く返した。


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