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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第三章

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勝利の剣

 ロージェスから感じられる魔力はもはや暴風のように変じ、真正面からその圧力を受けるエリアスとしてはさすがだ、と感嘆する。


(人間がどういう意図であれ……魔物を生み出した。しかもそれは、恐ろしいまでの強さを持っている)


 それと同時に、エリアスは東部での戦いを思い出す――多大な犠牲者を出した存在が人の手によって生み出されたのならば――


(目の前の存在を倒し、本当に――俺はロージスという存在の呪縛から解き放たれる、ということなのか)


 ロージスに敗れた者達の無念――それを背負い、この戦いに勝利すれば全てを終わらせることができる。そう思いながら、エリアスは呼吸を整えた。

 目前に迫るロージェスの力は、技術など何の意味もないような暴力の塊であった。人間の技術など活用せず、ただ持ちうる力を全て費やして行う突撃。まるで隕石が飛来するかのような勢いであり、エリアスはそれを眼前に見据えながら――それでも、迎え撃った。


「おおおおおっ!」


 ロージェスの咆哮が周囲に響く。これを果たして人間が対抗できるのか――周囲の騎士や勇者達はそう思ったに違いなかった。例えエリアスであっても、地竜相手にたった一人で時間稼ぎを行い、勇者オルレイトを下した彼であっても――

 だがエリアスは退かなかった。ここで逃げればロージェスは調子づき、なおかつ目前の圧倒的な力による蹂躙を始める。だからこそ逃げず、立ち向かった。


 ――そして当のエリアスは、


(強大な力だ……魔物として持つ力を最大限に高めている)


 そう評しながら――同時に、


(けれど……それでも、予測の範囲内であり経験がある)


 最後まで――自身の力がどれほどのものなのかわかっていない。それこそが、ロージェスの敗因だった。

 エリアスは全力で剣を薙ぐ。真正面から迎え撃った剣戟は、ロージェスが振りかざした拳に直撃した。だが真正面からの激突とは異なり、エリアスは少しだけ軸をずらし、攻撃による衝撃を可能な限り自分に届かないようにした。


 同時に体を傾け、押し寄せる暴虐の塊から逃れるような動きを見せる。受け流したというよりすれ違いざまに斬るような要領。ロージェスはそれに気づきどうにかエリアスの動きに対応しようとした気配を見せたが――突撃による動きは止められず、結果としてエリアス達は立ち位置を入れ替える。

 だが、エリアスは無傷である一方、ロージェスは、


「が、あっ……!」


 声を発した。見れば斬られた右腕が大きく損傷していた。人工的に形作られた魔物であるためか、その体は外殻は非常に強固だが内側は異なり、黒い霧のようなものが腕のあちこちから噴出し、空へと昇っていく。

 そこでエリアスは追撃を仕掛けた。刀身に魔力を注ぎ、次の一撃で決めに掛かるといった様子を見せる。それを察したロージェスは即座に魔力を高め、迎え撃とうとした。


 再び激突しようとする両者。ここで、先に動いたのはロージェスだった。ボロボロになり使いものにならなくなった右腕ではなく、自身の体――体当たりをエリアスへ差し向ける。いかに鋭い一撃をもっていようとも、確実に仕留めるという意図が、明確にあった。


 だがそれでもエリアスは揺るがなかった。体当たりだと即座に理解した瞬間、エリアスは体を大きく傾けた。それによりロージェスの動きがほんの少し鈍くなる――視界から消えたため、どう動くべきか一瞬不明瞭になったのだ。

 それが――最後の攻防における決定打となった。


 エリアスは再びすれ違うような動きと共に、ロージェスの体を薙いだ。斬撃を叩き込んだ場所は相手の胸部。そこに心臓があるかどうかは定かでなかったが――東部で戦ったロージスは急所が人間と同じだった。人の手によって生み出された存在であるなら、人をベースにして重要器官である急所も同じ――そういう根拠があった。

 結果、ロージェスの体から大量の魔力が空へと昇る。それは本来周辺の魔物を強化するためのものだったはずだが、ただ無意味に魔力が霧散していく。


 そうした中、


「……なぜ、だ? 今の攻防は、防ぐことができるようなものではなかったはずだ」

「確かに、まともに受けていたら俺も死んでいただろうな」


 エリアスは魔力が減り続け、体が朽ち始めたロージェスを見据え、応じる。


「だが、そうはならなかった……俺には長年戦い続けたことで培った経験がある。それにより、対処法を理解していた……ただそれだけの話だ」

「……人間の経験など、俺は無意味にできるほどの力だったはずだ」

「単純な魔力量だけなら、な。だが魔物は多種多様で、様々な戦術を多用する……狡猾な魔物と比べれば、お前の動きはどこまでも読みやすかったさ」


 その言葉に、ロージェスは合点がいったようにエリアスを見つめた。


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