解説と敗因
「……なぜ、俺がお前の攻撃を容易く避けられるか、解説してやろうか」
周囲ではなおも人間と魔物が戦い続ける中、エリアスが語っていく。
「お前は魔物の力と人間の技術を得たとして、最強の存在だと語っていたが、真実は違う……それこそ、以前俺が戦っていた人間の姿をした魔物……ロージスと名乗っていた存在と比べれば、弱い」
――その言葉はどうやら、ロージェスの逆鱗に触れたらしい。さらに憎悪の表情を見せたが、仕掛けては来ない。
「理由を教えてやろう。ロージスは魔物の力……それを存分に使い、さらに様々な戦略で俺達を苦しめた。今思えば、ヤツは個人能力よりも戦術や戦略に重きを置いた能力を付与されていたんだろう。それに対しお前は、純粋な力……膨大な魔物としての力を、人間の技術によってさらに高める……お前を生み出した存在も、人間は誰であっても勝てないと踏んだだろう」
エリアスはそう語った後、ロージェスを眼光鋭く見据える。
「だが、実戦でしかわからないことはある……確かにお前の力は脅威であることは間違いない。だが、人間の技術によって裏打ちされた能力というのは――俺にとっては、読みやすい」
その言葉に、ロージェスの顔が驚愕に染まる。
「どれだけ事前に技術を仕込まれたとしても、動きを予測できれば対応できる……人間の技術を用いて戦っていること。それ自体が敗因だ」
ロージェスはただエリアスをにらむ。果たして何を思うのか――
「……お前は魔物の領域に居続けた。ということは、人間の技術については最高のものだと信じて疑わなかったわけだ。そこが最大の失敗だ。ここに俺達がやってくるまで、自分の実力がどれほどのものなのか、理解していたわけじゃないだろう?」
問い掛けに対し、とうとうロージェスが動く。再び魔力を乗せ、拳を放った。
だがエリアスはそれを冷静にかわす――魔力が収束したその攻撃を食らえば、おそらくそれだけで致命的なものになる。この状況はあっさりとひっくり返り、ロージェス達の勝利に終わる。
しかしそれでも、エリアスは冷静さを失わなかった。それは自分自身に宿る経験と戦歴。ロージスとの戦いでは、攻撃一つ当たればそれだけで勝負がつきかねなかった。また危険度の高い魔物相手において、たった一度攻撃を食らいそうになり命の危機を感じたこともあった。
目前の戦いも同様ではあったが――ロージェスが何より自身が持つ技術の価値を理解していない。どれだけの力を持っているのか。それを完璧に把握していない。だからこそ、
「お前は俺に勝てない」
「貴様ぁっ!」
怒気を膨らませながら、ロージェスはなおも攻撃を仕掛ける。振りかざす拳の威力だけは増していくが、その軌道は最初と比べてもさらに読みやすくなっていた。
「東部で戦ったロージスは、それこそ戦いながら進化し続けた……思えば、俺達があの魔物を成長させてしまっていた。だがお前は違う。ただここで待ち受け、俺達を力で蹂躙するために待っていただけ――自分の力量すら把握できないお前に、勝機はなかったな」
「ぐ、おおおっ……!」
声を発しながらなおも反撃しようとするロージェス。その時、エリアスの剣が相手の体躯へと入った。
「がっ……!」
それで大きく体が傾く。続けざまに追撃の一太刀を加えると、ロージェスは大きく吹き飛んだ。
地面に倒れ込み、エリアスはさらに追撃を仕掛けようとする――が、ふいに足が止まった。エリアスの真正面に――ロージスの幻影が現れていた。
「……お前が喜ぶような結末にはならなかったな」
ぼそりとエリアスが言う。だが真正面の幻影は笑みを浮かべる。
『別に僕は君に死んで欲しいと思っていたわけではないんだけどねえ』
「……邪魔するのなら、どうにかしてお前のことを消すぞ」
『ああ怖い。でもまあ、そんなことをする必要はないさ』
幻影が横へ移動する。視界に立ち上がったロージェスの姿が見えた。
『彼を倒せばきっと、僕という幻影だって消え去るさ……さあ、君の行く末を見せてもらおうかな』
「……やれやれ」
苦笑した瞬間、幻影は消え去る。後に残ったのは怒りの形相を見せるロージェスだけ。
「思わぬ邪魔が入ったが……それじゃあ、決着をつけようか」
エリアスの言葉にロージェスは表情が消えた。自分が滅ぼされるかもしれない――そんな予感を抱いたか、先ほどまでの怒りがいきなり消えた。
周囲の戦況も人間側に傾いていく。結界魔法によって弱体化したことに加え、ロージェスからの魔力支援がなくなったことで、魔物達が騎士や勇者の手によって駆逐されていく。
「最後の勝負といこう」
そしてエリアスは言う――油断はない。相手はまだ、この場を蹂躙できる力を持っている。
ロージェスは最初反応しなかったが――やがて、
「……いいだろう、ならば俺こそが最強であることを証明して見せよう」
そう語ったロージェスは、魔力を高める。怒りを超え、限界まで魔力を全身へ収束させた。




