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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第三章

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二段構え

 エリアスとロージェスが話をする間も、周囲の戦況は刻一刻と変化していく。その中で発された魔物の声は、勇者オルレイトが一体の魔物にトドメを刺したことで放たれたものだった。


「……ほう」


 そして見ないまでも、ロージェスも気付いた。


「一体倒したか。どうやらお前以外も精鋭がいるようだな」

「当然だ。この霊木を制圧するために、準備をしてきたんだからな」

「だが、時間が経過すればするほど、状況が不利になっていくぞ」


 そうロージェスは言うと、自身から発する魔力を濃くした。


「俺がこうして魔力を出せば出すほど……そしてあの樹木から発せられる魔力が、同胞を強化する」

「確かに、このまま戦い続ければ、ジリ貧になるのは俺達だろう」


 そうエリアスはロージェスへ応じた。


「だが、覆す手段はあるぞ」

「ほう? 結界魔法以外にもまだ仕込みがあるのか?」


 そう言いつつ、ロージェスは一度周囲を見回した。


「だが、もう人員はいないようだが? 一体魔物を倒したため、別の場所に戦力を振り分けて戦っているようだが……」

「……最大の敗因は、悠長に俺と会話を続けたことだ」


 エリアスが言うと、ロージェスが眉をひそめた。


「何だと?」

「そちらは圧倒的優位であることを踏まえ、余裕だったのかもしれないが……俺が想定していた戦いは、もっと激しいものであり、もっと辛いものだった」


 語るエリアスを受け、ロージェスが今度は目を細める。


「こんなものは想定内、とでも言うのか?」

「その通りだ。ここへたどり着くまでに様々な想定をしていた。その中で今の状況は……まあそうだな、悪くはない、かな」

「いずれ死ぬことが確定しているとしても?」

「さっきも言ったが、そうはならないさ……敗因を言ったはずだ。全ては、お前の油断から来ている」


 その言葉の直後だった。周囲に満ちていた魔力に変化が生じる――途端、周囲の戦いについても戦局が変わる。

 突如、人間側が攻勢に転じた。様々な種類がいる魔物達に対し刃を突き立て、さらに魔法を叩き込んでいく。


 その変化にロージェスの表情から余裕が消える――そして、何が起こったのかすぐさま状況を理解した様子。


「結界魔法を……後追いで強化したのか……!?」

「正解だ。単なる結界魔法で終わりだと思ったか? 二段構えの魔法であり、ここからさらに結界魔法は強化される」


 その言葉にロージェスは目の色が変わる。ならば、後方にいる者達を狙う――そういう意図が見て取れたが、


「魔物は全て抑え込んでいる。霊木の主はどうやら前に出てくることはない。残る障害はお前だけだが……俺が、食い止める」

「――なるほど、時間が経てばそちらが有利になる魔法を仕込んだか。確かに貴様の言う通り、話しすぎたかもしれんな」


 憎悪を込めた口調でロージェスはエリアスへ告げる。


「だが、そちらの有利は所詮薄氷の上だ。この俺が動けば、全てが崩れる――まずは貴様からだ!」


 ロージェスが動く。拳に魔力を乗せ、エリアスを仕留めるべく攻撃を仕掛ける。込められた魔力量は、人間が相手をするにしてはあまりに大きすぎた。

 もし直撃すれば、即死も免れない――しかしエリアスは臆することなく拳の動きを見極め――かわした。


 さらに追撃が飛んでくるが、それでも動きを理解し避ける。ここに来てロージェスは動きを止めた。まるで先読みでもされているかのような動き。


「……何をしている?」

「お前の敗因、二つ目を解説しようか。とはいえ、さすがに時間を掛ければ掛けるほどこちらが有利になる情勢……先ほどとは違い、おとなしく聞いてくれるわけではないか?」


 エリアスは剣を構え直しながら告げる。


「だが、このまま何が起こっているのかわからないままでは、お前はおそらく負けるぞ」

「……言ってくれるな」


 ロージェスがさらに踏み込む。一歩で間合いを詰め、凄まじい速度で拳を放つ。だがエリアスは拳の軌道を読んでかわしていた。

 次いで反撃に出る。それはロージェスの動きと寸分違わないほどの速度であり、エリアスの剣戟が、ロージェスの体に入った。


「ぐっ……!?」


 呻き、ロージェスは大きく後退する――その顔つきからは、なぜ攻撃が読まれ、さらに反撃まで食らってしまうのか。


「なぜ、反撃までされるのか疑問らしいな」


 そこでまたエリアスが言う。


「解説してやってもいいぞ。もちろん時間が掛かる以上、こちらが有利になる……情勢はさらに悪くなるが、何もできないまま滅びるよりマシじゃないか?」

「……何を、している?」


 ロージェスは動揺でもするかのような声音で問う。状況を見る余裕すらなくなってきているような様子だった。

 そんな態度の相手を見て、エリアスは内心でほくそ笑む――状況は決して余裕ではない。ロージェスの動き次第でひっくり返る可能性は十二分にある。


 だが、動きを縫い止めた――相手の心理を利用し、エリアスはさらにロージェスを止めることに成功したのだった。


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