力の源泉
「どうやら、事の経緯はつかんだようだな」
エリアスが頭の中で結論をまとめる間に、ロージェスは告げた。
「ならば、俺の力の源泉がなんなのか理解できるだろう? 魔物の魔力と人間の技術を持っている……それがどれほど恐ろしいのかは、お前にも理解できるはずだ」
自信に満ちた声でロージェスは言う。それに対しエリアスは無言となり、目前にいる脅威を見据える。
「この力は完璧であり、いかなる人間も排除できるだけのものだ……魔物の力と人間の技術の融合。それこそ、人間が出した答えというわけだ」
「……お前を生み出した人間は何をするつもりなんだろうな?」
エリアスが問う。答えが返ってくるはずもないが――
「さあな。だが予想はできる」
ロージェスは答える――その様子は、自身の力を人間相手に披露し、ご満悦であるようだった。
おそらくこれまで、ロージェス自身も能力を検証したことなどなかっただろう――しかし霊木の主を援護する形でこの戦いに参戦し、力によってエリアス達を圧倒している――
「俺の能力をどう行使するのか……ただ俺は本来現れてはならない禁忌の存在だ。ならば当然、世間に公表するようなことはせず、戦力的な切り札として採用するだろう……もっとも、どういう意味合いでの戦力かはわからないが、まあさすがに魔物と戦うため、などでないことは確かだな」
「十中八九ルーンデル王国に牙を剥くわけだ」
エリアスの言及にロージェスは「だろうな」と応じた。
「……なら、次の質問だ」
さらにエリアスは言う。ここで反発して襲い掛かってきてもおかしくはなかったが――相手は言葉を待つ構えだった。
「お前は独自の判断でここへ赴いたのか?」
「ああ、俺自身の判断だ。人間の介入はない……そもそも、人の手で生み出されたとはいえ、お前達が言う魔物の領域は言わば治外法権の場だ。俺が指示に従う義理などありはしない」
(……製作者は、扱いに困っていたりするのか?)
エリアスは胸中で疑問を抱きつつ、さらに問い掛ける。
「お前は製作者の意図を推測したが、素直に従うつもりなのか?」
「まさか」
問い掛けに対しロージェスが肩をすくめた。
「俺のことを縛るつもりならば、最初から知性など持たせるべきではなかっただろうな」
「……なるほど、扱いに困っているというわけか」
エリアスとしては大筋の流れが読めた。ルーンデル王国の重臣かどうかは不明だが、とにかく国の人間が知性を有する魔物を作成した。おそらくそれは魔物の領域などを調査する存在として作られたのかもしれない。
だが制御できず、魔物の領域に居座り、反抗すらしている――
「ならもう三つばかり問い掛けたいんだが」
「構わないぞ」
ずいぶんと饒舌だ、とエリアスは内心思いつつも言葉を紡ぐ。
「その技術は、予め仕込まれたものか?」
「そうだ。様々な研究者が結集して作成したようだ……無駄なことをした、という話になるわけだが」
「ま、確かに製作者の意図から考えると、お前の所業は無茶苦茶かもしれないな」
そう言いつつ、エリアスはもしかするとある程度織り込み済みだったかもしれない、と考える。それを確かめるために――
「次の質問だが、お前は他に人間のような姿をした魔物と出会ったことがあるらしいが……それはもしや、同じ存在から製作された、という話か?」
「さあ、どうだろうな」
ロージェスは言う――が、その表情は肯定を示していた。
「ただ、俺は魔物の領域で見たわけではないからな……」
「……そうか。なら最後の質問だ。お前を作成した人間と、それを主導した人間は誰だ?」
問い掛けにロージェスは肩をすくめる。
「それを知ってどうする? 魔物が語っていたと主張しても、聞き入れるはずがないだろう?」
「別にお前の証言を根拠にするつもりはない。ただ、その情報を得たことによって色々と頭の中でスッキリするからな」
「ああ、なるほど、色々としがらみがあって、お前はそれが誰のせいによるものなのかを知りたいということか」
合点がいったようにロージェスは言う。
「そちらがこの場所から逃れることなどできはしないが、答えるだけ答えてやるか。俺が生まれた当初、多数の人間の名が飛び交っていたが……その中で一つ、特に作成者が気にしていた名があった。作成者の名前など記憶にないが、それだけは頭の中に残っている……確かノウェト=グランベール、という名称だった」
「……そうか」
エリアスは全てが繋がったような気がした。それと同時に、呼吸を整える。
「情報提供感謝するよ、これで全てを終わらせられる」
「ずいぶんと余裕だな。これから貴様らは蹂躙されるというのに」
笑うロージェスに対し、エリアスもまた――笑う。
「残念ながら、そうはならないな」
「……何?」
眉をひそめたロージェス。同時、魔物の声が周囲に響いた。




