暗躍する存在
霊木から魔物が襲来する中、エリアスは人の姿をした魔物だけを見据え、駆けた。
一気に接近して斬撃を叩き込むつもりだった。新たな剣による剣戟は、例え『ロージス』が相手であっても十二分に通用するはずだった。
それに対し目の前の男は――両腕を交差させた。まさか、それで防ぐつもりか――エリアスは胸中で呟きながらそれでも動きは止まらず、剣戟が炸裂した。
途端、エリアスの剣が止まる。渾身の一撃は、防御の構えを取ったことによって防がれる。
「……お前はおそらく、人間の中でも強いのだろう」
そう魔物は語る。
「だが、俺はそれを超える力を持っている……人の身では到底辿り着けない、領域に俺はいる」
男が語る間に霊木から魔物が迫る。エリアスはそれを確認しつつも、意識は男から離さない。
「周囲が気になるか? 精鋭を引き連れてきたのかもしれないが……あいにく、お前達の旅はここで終わりだ」
「――この人型の魔物は俺が相手をする!」
エリアスは叫びながら一度後退した。対する男は何も反応しない。その一方で、迫る魔物達と騎士や勇者が交戦を開始する。
(……どうやら霊木の主は動いていないみたいだな)
エリアスは以前、索敵を行っていた魔術師が描いた霊木の主についての絵を思い出す。動くことができないか、それとも戦闘能力がないのか不明だが、配下の魔物達が押し寄せてきているらしい。
その魔物は見た目がバラバラではあるのだが――勇者オルレイトを筆頭に迎え撃つ。戦闘が始まり、同時に魔法による爆発音も響き渡る。
フレンが仕込んだ結界魔法によって瘴気が薄くなり、戦場全体の状況をつかむことはできた。精鋭である騎士や勇者は、押し寄せる魔物にきちんと応じ、対処できている。
その一方でエリアスは――剣を構え直した時、男が告げた。
「魔物、か。その枠には収まらない存在だと思わないか?」
「……他に説明しようがなかったからな。もし名前でもあれば聞くが」
「名前か……何でもいいな。俺にとって必要のないものだからな」
そこで、男――エリアスは目の前にいる敵を『ロージェス』と内心で呼称し、迎え撃つ。
ロージェスが繰り出したのは拳。それをエリアスはまず剣を振ることで応じた。刃と拳が真正面から激突し――周囲に魔力が拡散する。
エリアスはロージェスの拳にどの程度魔力が乗っていたのかを理解する。そしてそれを分析することによって――相手の能力を推測する。
それはエリアスにとって――否、人間にとって脅威の魔力量であり、ロージェスがどれほどの力を持っているかを、深く理解する。
そして、この魔力によって副次的な効果があることをエリアスは察する。
「……お前自身の魔力によって、霊木にいる魔物を強化しているか」
その言葉に対し、ロージェスは笑みを浮かべた。
「正解だ。お前達は魔法でこちらの力を削ったようだが、元々そのくらいは想定していた。まあ、そうだな……そちらの魔法によって強化分くらいは相殺したといったところか」
「なるほど……強化効果を無効化している時点で、結界は確実に効果を果たしているな」
エリアスはそう呟きつつ、ロージェスをにらむ。そして、
「お前は……何者だ? 俺の剣を防御して見せた動きは明らかに人間の技術だ。人間を基にした魔物だからといって、異様だろう」
「気になるか?」
「……気になることはいくらでもある。そもそも何故お前は地底から出てきた? なおかつ、まるで俺達が霊木を攻略するのに合わせるかのようにここにいる……理屈に合わないことが多すぎる」
エリアスとロージェスは向かい合い続け、その間に周囲では戦闘が続く。多数の魔物を騎士や勇者が迎え撃ち、さらに勇者オルレイトが活躍を見せる。
双方が対峙した状態で沈黙し――やがて、先に口を開いたのはロージェスだった。
「いいだろう、どちらにせよもう逃げられない以上は話してやろう。真実を知り、驚愕するお前の顔も見てみたい」
「……いい趣味をしているな」
エリアスの言葉にロージェスは笑う。
「さて、どこから話したものか……といっても、そう難しい話ではない。この俺は、普通の魔物でないことは一目瞭然だが、その経緯には人間が関わっている」
「何?」
「お前達が魔物の領域を呼ぶその場所で、色々と暗躍している存在がいるという話だ。謀略の中で、俺は生み出された……技術が人間由来だとわかれば、俺の能力については理解できるだろう?」
――その言葉でエリアスは悟った。
エリアスやテルヴァは、王都にいる国の重臣――その誰かと魔物が繋がっているのではないかと考えた。人間側は魔物を利用し、魔物もまた人間を利用する――そんな関係かと思ったが、違う。
エリアスが以前戦った『ロージス』が同じかどうかわからないが、
(人工的に生み出された魔物……そういった存在が、作成者である国の重臣と手を組み、悪さをしているのか)
そうエリアスは解釈した。




