白い光
開拓最前線から霊木の地点は、地形で言えば平地が続くため、鬱蒼と茂る森の中を歩く以外はそれほど障害はなかった。
なおかつ魔物の襲撃もなく、直線距離としてはそこまで遠くないため、エリアス達は拍子抜けするほどすんなりと霊木の近くまで来ることができた。
「事前に頭に入っているはずだが、霊木周辺の地形について改めて伝えておく」
エリアスは隊員達へ告げる。
「このまま進めばやがて森が途切れる。霊木の周りは草むらが広がっていて、その中央に巨大な樹木が一本生えている。それこそ霊木であり、多量の魔力がそこには存在し、さらに霊木を守るようにして魔物が待ち構えているはずだ」
まだ森の出口は見えないが――それでも濃くなり続ける瘴気から、ゴールは近いのだと誰もが理解できた。
「敵の配置などを見て、こちらは動き方を変える。懸念はあるが、昨日までに色々な想定をして準備はしてきた。そうした中で、単独行動などはしないようにだけ、注意してくれ……孤立した時点で、魔物は容赦なく襲い掛かってくるだろう」
エリアスが言うと、幾人かの騎士や勇者が小さく頷いた。それを見て大丈夫そうだと考え、それ以上の言及はしなかった。
そして――エリアス達の進行方向に、光が見えた。間違いなくそれが森の出口であると共に、あの場所に霊木があるとして、いよいよ隊員達の気配が変わる。
「……相変わらず、周囲の森に気配はないな」
そこでオルレイトが小さく呟いた。
「かといって、森の出口付近に大量の魔物がいそうな気配もない」
「瘴気は相変わらず濃いし、魔物の気配は探りにくいけど……少なくとも、俺達が交戦したような個体はいないみたいだな」
小型の魔物くらいはいるかもしれないとエリアスは思いつつ――現時点で霊木の主が魔物を用いて情報をとっているのは間違いないはず。
「森を出た途端に戦闘開始という可能性もあるな……全員、戦闘準備を」
一斉に剣を抜く音が森の中に響く。その中でエリアスはフレンへ視線を向けた。
「そちらはどうだ?」
「この距離ではまだ効果が薄いでしょう。少なくとも森を抜けたくらいでなければ……」
「わかった」
そこでエリアスは近くにいた騎士数人へ声を掛ける。
「森を抜けた際、フレンが策により魔法発動準備を行う。君達はまず彼女の護衛を頼まれてくれないか」
「わかりました」
快諾する騎士。エリアスは「頼む」と一言告げた後、改めて森の出口を見据える。
もうほとんど距離はなかった。なおかつ森の出口は白い光に包まれており、その先を見通すことはできない。
「魔法か何かで確認するか?」
オルレイトが問う。だがエリアスは、
「いや、既に試しているよ」
「ほう、魔法を使った気配はなかったが……」
「東部でも色々な戦場があったし、視界を確保できるように身体強化ができる……が、白い光以外見えない。太陽光によって視界が遮られているのもそうだが、たぶん瘴気が濃いために霧のように視界不良になっているのかもしれない」
「……瘴気が濃すぎると、自然現象にも影響してくるか」
「俺もあまり見たことのない現象だが、な……もしかすると霊木周辺は、常に視界不良かも。そうした場合、戦いはさらに厄介なものになるが……」
「全力を尽くすしかないな」
オルレイトの言葉にエリアスは「ああ」と返事をする。
さらなる不確定事項を前にしてエリアスは警戒をさらに強めたが、今更引き返すことはしない。想定通りではないが、元々厳しい戦いになることは予想していたため、心構えはできていた。
そして、エリアス達はいよいよ森を抜ける――だがその寸前、まだ完全に出口の先が見えていない段階で、先頭を進むエリアスは立ち止まった。
「……ここで一度、周囲の状況を確認してくれ」
指示を出すと騎士や勇者は動く。フレンもまたいくらか魔法を行使した後、
「周囲に魔物はいません。森を出た先の周囲もです」
「こちらも同様の観測です」
複数人からの報告を受け、エリアスは深く頷いた。
「森の中に魔物はいない……だがその先にある霊木はどうだ?」
「霊木周辺は瘴気が濃く、索敵魔法を行使しても判別がつきません」
そうフレンは応じる。
「目と鼻の先にあるにも関わらず……大地を利用した大規模な魔法でなければ、精査は難しいかと」
「わかった……霊木周辺に魔物が集結している可能性が高い。全員、決戦に備えてくれ」
烈気をみなぎらせる隊員達。それを確認したエリアスは、抜いた剣を強く握りしめた。
「……進む」
声と共に森の出口へと向かう。白く染まるそこへ向け、エリアス達は歩む。
気配は何も変わらない。森を出た途端に戦闘が始まってもおかしくないが――エリアスは、注意をしながら一層警戒を強め、自身が先んじて森から抜けた。
その先にあったものを見て――エリアスは、目を見開いた。




