決戦へ
やがてエリアス達は開拓最前線へと辿り着く。既にバート達は開拓作業を始めており、護衛の騎士達は森の中に展開していた。
昨日とは異なり、霊木へ真っ直ぐ進むのではなく森を切り開くように作業を進めている。その様子を眺めつつ、エリアスは索敵を行う魔術師を発見し近寄った。
「状況はどうだ?」
問い掛けに魔術師はエリアスへ顔を向け、
「昨日と動きはありません。魔物の数についても……瘴気によって完全に把握は困難ですが、状況は変わっていないかと思います」
「わかった、ありがとう……索敵を続ければ、俺達の戦いについても観測できるか?」
「おそらくは」
「わかった。こちらの動向次第で、退却も視野に入れてくれ」
「……危ない状況になったら援護に、というわけではないのですね」
魔術師の言葉にエリアスは頷いた。
「反撃とばかりに魔物が押し寄せてくるかもしれない……よって、可能な限り情報を収集し、危険だと判断したら迷わず逃げるように」
「……そうしたことは起こって欲しくありませんね」
魔術師はそう言いつつ、同意するように頷いた。
「わかりました……ご武運を」
「ありがとう」
礼を述べた後、エリアスは一度後方にいる隊員達へ目を向けた。
「それでは……進む」
それだけ言って歩き出す。討伐隊の面々は無言でそれに従い、やがて昨日まで開拓していたポイントまで辿り着く。
いよいよ、ここから――エリアスは先んじて森の中へ。それに勇者オルレイトなども続いた。
森に入った時点で濃い瘴気が森の中に立ちこめていることがわかった。しかし、誰一人として怯むことはない。
その中でエリアスは淡々と先へ進む――方角などは理解しており、問題なく進むことができる。
(それに、明らかに一方向だけ凶悪な魔力を感じる……そちらへ進めばいいだけだし、迷うことはないな)
むしろ人間の領域へ帰還する方が厄介かもしれない――そんな考察をしつつもエリアスの足は止まらない。
「しばらく代わり映えのない景色が続くが……ま、仕方がないか」
エリアスはそう言いつつ、気配を探りながら霊木へと歩む――相変わらず変化はない。もし昨日と同様の魔物が出てきても、迎撃自体はそう難しくない。
「霊木周辺へ到達するより先に、魔物と交戦する可能性は……微妙だな」
そう言いつつ、万全の状態で霊木の主と戦うことができるのであれば、エリアス達にとっては大きく有利となる。
(残っている魔物がどの程度なのか、だな……)
エリアスは頭の中で作戦を巡らせる。想定している敵は霊木の主に加えて霊木を護衛する危険度の高い魔物。さらに言えば一応『ロージェス』がいることも想定した上で布陣を整えている。
(俺を含めた主力の面々によって霊木の主を倒し、護衛の魔物達は状況に合わせて対応……という段取りだが、想定外のことはいくらでも起きるだろうし、ここは出たとこ勝負になる)
個々に強い者達の集まりであるため、ある程度戦況が変わっても柔軟に対応はできるはず――そうエリアスは思いつつ、気配のする方角へと歩を進める。
そうした中、エリアスへ話し掛けた人物が。
「周囲に魔物はいそうにないな」
それは勇者オルレイトのものだった。
「敵は完璧に迎え撃とうとしているようだ」
「……さすがにこちらの動きを捕捉していないなんて可能性は極めて低いし、こういう状況である以上は可能な限り戦力を維持したまま決戦に入ろう……なんて考えていそうだな」
「霊木を守る存在は能力も高い……下手に小出しにするよりも戦力を集結させていた方がいいという判断だろうな」
双方、そこで口が止まった。明らかに瘴気が濃くなった。
他の隊員達も立ち止まる。つまり、全員が止まり進行方向を注視するほどの気配――そうした中でオルレイトは呟いた。
「……これは、威嚇のつもりか?」
「たぶんそうじゃないかな……突然変化したから少し驚いたが」
「今更怯むようなものでもないな……さて、霊木まではまだ距離があるだろう? 周囲に魔物の気配はなさそうだが、奇襲の警戒だけはしておいた方がいいだろう」
「そうだな……少し隊列を変えよう」
エリアスは騎士や勇者へ指示を出す。そうした中でも霊木方向への警戒は忘れない。
(霊木の主も、気付いているんだろうな……この戦いが決戦になることを)
やがてエリアス達は移動を再開する。そこで、濃くなっていた気配は少し和らいだ。
(向こうも威嚇は通用しないと判断し、魔力の消費を抑えたか)
それは状況的に悪いため魔力の摂生に努めているのか、あるいは単純に無駄なことをしないだけか。
それと同時にエリアスは『ロージェス』のことを思い出す。霊木にいるのか、答えはすぐにわかる――エリアスは静かに闘志をみなぎらせながら、隊員達と共に歩き続けた。




