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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第三章

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役目を果たす

 エリアスは騎士バートへ再度開拓を行うよう指示し、彼はそれを承諾して作業を再開した。


 エリアス達討伐隊は再び森の中へ入って警戒を行う。そうした中で自らもまた森へと入ったエリアスは、霊木のある方角を注視して気配を探る。


(……魔物の気配はないな)


 そう胸中で呟きつつ、エリアスはどうすべきか思案する。


(魔物を倒し、確実に俺達にとって戦況は良くなっている……が、オルレイトが言うように誘っているようにも感じられる……)


 とはいえ、とエリアスは思う。残る問題としてはいつ魔物の領域へ入り込むか。討伐隊の能力は確認できたことに加え、多数の魔物を迎撃という形で減らすことができた。


(現状を踏まえると、可能な限り早く魔物の領域へ突き進むのが最適解……の、はずなんだが)


 エリアスはどうすべきかさらに悩む。霊木の主は、あえて誘っている風に見せて近寄らせないようにしているのか――


(いくら知性を有しているとはいえ、人間相手に駆け引きできるほどなのか? それともテルヴァと話し合ったように『ロージェス』がいるのか?)


 だが、どれだけ考えても答えは出てこない。どこかで決断をしなければならない。


(……ともあれ、手元にある情報だけを踏まえれば、やはりすぐにでも魔物の領域へ入るのが最適……だよな)


 やがてエリアスの決意は固まっていく。その間にもバートが作業を進め、真っ直ぐに突っ切るという形で木を伐採していくことで、予定以上に進むことができた。


「バート、周囲に森がある状況では結界を張っても効果はないか?」


 エリアスは開拓を進めるバートへ近寄り問い掛ける。


「例えば瘴気によって結界が壊れるとか」

「魔物によって結界が壊されることはない。だが、瘴気は結界にとって有害ではあるため、影響を受け続けるといずれは壊れる」

「すぐに破壊、というわけではないのか」

「徐々に劣化していくといった感じだな」

「わかった。それじゃあ今の段階で進んだ場所に結界を張ってくれ」

「……この状況下で、いよいよ霊木へ向かうってことか」


 バートの言葉にエリアスは頷いた。


「ああ、魔物を迎撃し数を減らした以上、好機ではある」

「……もう少し待ってもいいんじゃないか?」

「今日一日、索敵で確認を行ってから動くつもりではある。もちろんバート達の開拓がさらに進めばより楽になるのは確定だが、あまり深追いすると、開拓を行っているバート達が危なくなる」


 その言葉にバートは小さく肩をすくめた。


「俺達も騎士だ。対応はできるが……」

「霊木の主は知性がある。剣を持たない人間を優先的に狙ってくる可能性を踏まえると、あまり今のような形で開拓はできない」

「……そうか」


 どこか残念そうに呟いたバートに対し、エリアスは笑う。


「バート達の開拓によって、霊木へと道ができているんだ。そこは胸を張ってくれ」

「本来なら、騎士として剣を握るべきだが……」

「それはダメだ。開拓をメインに行っているのはバート達だからな。テルヴァにも、今回の戦いに参加させないでくれと指示が出ている。申し訳ないが、自重してくれ」


 そう述べた後、エリアスは一度魔物の領域を見据え、さらに続ける。


「霊木へ向かった俺達に対し、もし危機的状況を把握したとしても、魔物の領域には踏み込まないように」

「……俺達は、役目を果たせということか」

「そうだ。別に足手まといとは思っていない。例えどんな状況であろうとも……霊木の主を討伐することは、俺達の役目だ」


 そう明言した後、エリアスは一度大きく息をついた。


「厳しい戦いになるだろうけど、必ず生きて戻ってくる……と、言いたいけど確約はできないかな」

「不安にならないでくれよ」


 バートの言葉にエリアスは「悪い」と謝りつつ、


「今日の作業はこれで終了だろう? 今日のところは日が暮れないうちに戻るとしようか」

「ああ……なあ、霊木の主を倒せばひとまず目標は達成、でいいんだよな?」

「そうだな。しかし、霊木周辺を早期に制圧しないと、別の魔物がやってきてまた霊木を占拠される可能性がある」

「ってことは、その時になったら俺達の出番……か?」

「結界を構築すれば、一時的にでも霊木周辺を確保はできるだろう。フレンは同行するから、彼女に色々と動いてもらうつもりだ」

「……そういえば、色々と魔法の道具を準備していたな」


 何かを思い出したかのようにバートは告げる。


「あれは討伐のためか……彼女の方は大丈夫なのか?」

「来るなと言ってもついてきそうな気配だったからな。ま、彼女はあくまで後方支援だ。その役目からすればどんな危機的状況になっても――」


 そこで、エリアスの口が止まった。突然喋らなくなったためか、騎士バートはエリアスを見返し、


「……どうした?」

「……いや、少し討伐に関して思いついたことがあっただけだ」


 バートへ告げた後、エリアスは改めて言った。


「それじゃあ、今日のところは戻るとしよう……テルヴァとも相談するが、明日いよいよ決戦になると思う――」

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