混成部隊
エリアスとオルレイトがいる場所にまだ魔物は来ていないが――森の中で交戦による騎士や勇者の声を耳にした。
その声を聞きながらエリアスは迫ろうとしている魔物を視界に入れた。戦闘する領域が広がり始め、魔物の動きも活発になる。
「……この勢いで、霊木まで攻め込むか?」
ふいにオルレイトが発言した。だがそれに対しエリアスは首を左右に振る。
「さすがにそれは無謀だ……可能な限り霊木周辺を魔法で調査し、万全の態勢で挑む」
「なるほど……さて、押し寄せる魔物の質はどうか――」
エリアス達も戦いが始まった。魔物は突進を仕掛け、エリアスはその動きを見極めて剣を一閃。既に魔力の多寡を把握していた斬撃は、魔物を一撃で倒すことに成功する。
オルレイトもまた交戦開始。彼はエリアスと競うように剣戟を放ち、魔物を一蹴。そして倒した魔物を見ながら、
「このくらいの魔物であれば……油断しない限り、怪我人が出ることもないか?」
「そうだな……というより、精鋭を集めたんだ。このくらいは無傷で乗り切って欲しいところだが――」
会話をする間もエリアス達は魔物を倒していく。すると、次第に襲ってくる魔物が開拓した場所ではなく森の中を走るようになった。
「俺達のことを警戒し、交戦を避けるか」
「こちらの実力を瞬時に把握している……か」
オルレイトはそう述べた後、エリアスへ向け一つ質問をした。
「この魔物の挙動は、魔物独自の判断なのか、それとも霊木の主からのものなのか?」
「……さすがに、詳細についてはわからないな。ただ、それほど強くない魔物に知性を持たせるのかどうかと言われると、微妙ではあるな。むしろ、特定の命令を予め仕込まれていて、それに基づいて動いていると言われた方がしっくりと来る」
「ああ、確かにそれは同意だ。しかしその場合、どのような命令だ?」
「例えば一定以上の魔力を持っている人間がいる場合、避けるように動くとか……霊木の主が事細かに命令をしている、というのも考えにくいが……」
「それに、命令をしているのであれば、もう少し動き方に幅があるはずだな」
冷静にオルレイトは分析を行う。そうした中、森を駆ける魔物達を勇者や騎士が駆逐していく。
「森の中にいる面々も問題はなさそうだな……このまま殲滅までもっていくことはできそうだ」
オルレイトは言いながら周囲を見回す。その目は鋭く、口調は優しいが警戒を解いている様子はない。
「私達はどうする?」
「……引き続き、警戒にあたろう。俺達がいる場所が最前線である以上、気配を探りつつ魔物の動きに変化がないかを確認する」
エリアスは言うと、真正面に存在する魔物の領域に視線を送る。
「なおも魔物は来ている……が、強さはそこまでではないな」
「強い個体が紛れている可能性は?」
「前の戦いでも同じ事を思い警戒していたが、結果としてそういう個体はいなかった。もちろん、今回も同様にいないと考えるのは早計だが――」
エリアスはそこで森の中を注視した。何か来る、という強い予感からの行動であった。
「……今までとは違う個体が出てきたな」
「気配が明らかに違うようだが……」
オルレイトが剣を構えたその瞬間、肉眼でその魔物を確認することができた。それは、熊の形をした魔物であり、エリアスは即座に声を発した。
「危険度の高い魔物だ! より強い警戒を!」
エリアスが指示を出した直後、熊の魔物はどんどん近づいてくる。
「あれは、一度目の戦いで出現した魔物だ」
「となると、混成部隊というわけか」
「前回と比べ多少なりとも質が高くなった魔物に加え、危険度の高い魔物も導入している……霊木の主は確実に戦略を増やしているな」
熊の魔物とエリアスが交戦する。その力は以前遭遇した魔物と比べ、同質のものであると感じた。
(強いが……この魔物は強化できなかったのか?)
魔物が襲い掛かってくる――エリアスはそこで凶悪な魔物で自分達を食い止めつつ、後方を荒らすというような戦法なのではと考えた。
強敵には自慢の配下を用いて――という戦法ではあるが、相手がエリアスであることで、その目論見は瓦解した。
「ふっ!」
接近する熊の魔物に対しエリアスは接近し、その刃を放った――もしかすると、魔物は以前遭遇した個体より何かしら強い部分があったかもしれない。
だが、それはエリアスも同じだった。その手に握るのは以前とは違う、強力な剣。その斬撃が魔物へ入ると――振り抜き、熊の魔物の体躯を両断した。
「さすがだ」
オルレイトが述べる。それと共に彼もまた前に出て――森を見据える。
魔物の領域からは二体目の熊が出現していた。彼はそれに応じるべく動き出した。
「ここは私に」
その言葉にエリアスは引き下がる。同時、熊の魔物が前に出たオルレイトに対し襲い掛かった。




