霊木への道
――数日後、エリアスは討伐隊を率いて開拓の最前線へと向かった。テルヴァへ事前に言ったとおり、今回の目的は霊木の主に対する牽制。場合によっては戦闘になる――ということで、隊員達の表情にも気合いが入る。
「……しかし、ずいぶんと物々しいな」
そう発言したのは騎士バート。彼は指示によって霊木への道を優先して切り開く形をとっており、現在進行形で真っ直ぐ木を伐採している。
「なおかつ開拓をやり方も今までにないし……」
「不安か?」
近くにいたエリアスが問う。本来ならば少しずつ人間の領域を広げるように進んでいくため、真っ直ぐ進む場合は当然、魔物が襲ってくる可能性が高いし危険度も跳ね上がる。
「いや、不安はないよ」
しかしバートの返答は明瞭だった。
「むしろ、これだけの人数に護衛されながらというのは……安心感の方が強いな」
バートは言うと、周囲を見回した。森の中には新たに編成した、討伐隊――霊木へ向かう者達が警戒している。
「勇者オルレイトもいるんだろ? 正直、護衛だけなら過剰戦力もいいところだな」
「……本来の目的は護衛じゃないからな。で、問題の魔物だが」
エリアスは後方へ目を移す。そこでは索敵魔法により作業をしている魔術師がいる。
そちらへ軸足を移し近寄ると、彼は作業を一段落させたか小さく息を吐きつつ、エリアスへ言う。
「霊木の主は動いていません……が、こちらの気配を探っている様子」
「この人数を目の当たりにして、警戒しているのか」
「そういう認識で間違いないかと……それと、もう一つ。魔物の領域において瘴気が濃くなっています」
「瘴気が……?」
「これにより、魔物の確認などがやりにくくなっています。森の中で魔物が動いている気配があるのですが、詳細を確認するには時間が必要です」
(……霊木の主がそういう手段でこちらをかく乱している? あるいは――)
エリアスは胸中で思考しつつ、魔術師へ指示を出した。
「わかった。索敵魔法はこれまで通りのやり方でいい。魔物が接近してきた場合は……討伐隊でなんとかするさ」
「構わないのですか?」
「むしろ索敵手法を変えた時点で敵はさらに警戒する恐れがある。そちらの方が、むしろ面倒かもしれない」
「なるほど、確かに」
「今はひとまず、様子見かな……とはいえ、索敵でもわかるくらい変化があるとするなら、何か手を打ってきてもおかしくは――」
そう言った時だった。森の中でピーッ、と笛の音が鳴った。
それは討伐隊と共に森の中で警戒していた開拓の騎士が発したもの。その場にいた者達の表情が引き締まり、すぐさま臨戦態勢に入った。
「……隊の面々に、指示の必要はなさそうだな」
エリアスは言う。笛の音が鳴り響いた時点で、隊の者達は事前に言い渡されていた形で布陣を整えていた。
さすがに招集から短期間であるため連携については完璧と言いがたい。しかし、それでも過去に組んだことがある者などが協力し幾人かで戦える態勢をとったことで、ある程度まとまることはできている。
(少人数のチームを組んで、それで魔物に対抗できるようにしたが……後は、このチーム同士で連携をとった場合どうなるのか、だな)
もし魔物が襲撃してきた場合、そこについて評価をしたいが――とエリアスが思った直後、魔物の領域から気配がした。
「……襲撃です! 魔物の形状は狼型。質は、以前接敵した個体よりも多少強化されている模様」
索敵を行っていた魔術師が言った。質より量、という戦術を以前は行った霊木の主だが、どうやら少し調整して質的な強化を施したらしい。
そこでエリアスは叫んだ。
「開拓に従事している者は下がれ! 討伐隊! 事前に言い渡していた形で森に待機し迎え撃つ者と、開拓している騎士を護衛する者達に分かれろ!」
指示と共に、複数の騎士や勇者が動いた。その中でエリアスはゆっくりとした足取りで森へと進む。霊木へ真っ直ぐ向かう道の先端まで辿り着くと、まだ切り開いていない森の奥から濃い瘴気が漂ってきた。
エリアスは剣を抜き、迎え撃つ姿勢をとった。その中で、近づいてくる者が一人。
「前哨戦、といったところかな?」
勇者オルレイトだった。彼はチーム単位で組むようなことはせず、エリアスの指示により遊撃として単独行動をしている。
「霊木の主との初接敵だ。さすがに一人ではなく一緒に戦おうと思うんだが」
「わかった、といっても、相手は魔物の数でこちらを押し込もうとしている。魔物の危険度としては高くないが」
「それでも慎重になる必要はある……だろう?」
その問い掛けにエリアスは頷く――どれだけ危険度が低かろうとも、魔物の領域から押し寄せる魔物の恐ろしさについては、彼も認識している。
「聖騎士エリアス、敵は相当に狡猾だと聞いている……様子が変わった人間側の動きに対し、攻撃の仕方を変えてくるかもしれないな」
「ああ、それを見極めたいところだが……」
エリアスがそこまで言った時、とうとう魔物を肉眼で捉え――森の中にいた騎士や勇者達が、先に戦闘を開始した。




