開拓の行く末
エリアスは討伐隊の面々と幾度となく話を行い、最終的な戦略を構築。テルヴァの指示により連携などの訓練も行い――その期間は、三週間ほどに及んだ。
その間にノウェト公爵などから早く行けと催促が来るかもしれないと懸念していたが、結果から言えばそういった妨害は一切なかった。
「もしかすると、私がいるからかもしれないな」
そう発言したのは勇者オルレイト――彼が参戦したことにより、国側としても指示は控えめになったのではないか、とのことだった。
「ルーンデル王国内では私に対し友好的な人物も多いからな。下手に干渉して私の機嫌を損ねるのが嫌なのかもしれない」
「……さすが、勇者だな」
エリアスが言うと、当のオルレイトは苦笑する。
「私としては別に権威などはいらないのだが……テルヴァとしては国から色々言われるのもストレスだろう。ひとまず、そういう面でも役に立てて何よりだ」
「……あなたがいなければ、討伐はもっと忙しないものになっていたかもしれないな」
エリアスはそう評価しつつ、勇者オルレイトとも交流を重ねた。
そうしていよいよ準備が整い、本格的に魔物の領域へと入り込めるようになった段階で、エリアスはテルヴァへあることを提言しに彼の部屋を訪れた。
「まずは隊の面々を北部最前線へと連れて行く」
――エリアス達が連携訓練などを行う間、騎士バートは粛々と開拓を進めており、討伐隊が編成される前よりもずいぶんと森を切り開いている。
「計画では魔物の領域へ踏み込む前に、索敵魔法を行使して再度霊木周辺の状況を確認する、だったな?」
「ああ、その際に護衛なども投入し魔物が来ても問題ないようにするつもりだったが……その役目を討伐隊に任せると?」
「ああ、もし魔物が来るのであれば迎え撃つ……指揮する人間として、隊の面々の戦力は是非ともこの目で確認しておきたい」
「あなたが開拓の場を離れてからは魔物の襲撃もない……来る可能性は低いと思うが」
「大人数かつ、今までとは面子が違うとくれば魔物も反応するかもしれない……加えて、騎士バートには開拓のやり方を少し変えてもらおうと思っている」
「その詳細は聞いているな。霊木へ向け道を切り開くように……というものだったか。討伐隊の面々がいるのであれば、少し無理をしても問題はないだろう」
「人員と開拓……状況を変えることで、魔物側に反応を出させる。それで魔物が襲撃したのであれば、こちらの戦力で返り討ちにする」
「……前回の襲撃から時間が経過している。それを踏まえると、前のように凶悪な魔物か、大量の魔物が押し寄せるかもしれない」
「それならそれで好都合だ。霊木周辺の敵が減るからな」
エリアスの言葉にテルヴァは小さく頷き、
「わかった。では、そのような形で動くようにバートには私から通達しておく。討伐隊の方はどうだ?」
「それは俺の方から指示を出す。事前に出撃できるよう準備をしておいてくれ、と言ってはいるし、問題はないはずだ」
「わかった」
「……王都側の反応はないんだな? オルレイトの存在も鳴りを潜めている理由みたいだが」
話を変えるとテルヴァはそれにも頷き、
「ああ、彼の存在によって余計な指示を出すようなことにはなっていないな」
「これも狙っていたのか?」
「副次的な効果として期待はしていたが、ここまで反応がないとは予想外だった。まあ、良い方向だからこのまま黙っていてもらおう」
「……そうだな」
そこで会話は途切れ、エリアスは部屋から出ようとする――
「ああ、待ってくれ。一つだけ」
テルヴァが背後から声を掛けてきて、エリアスは振り返る。
「どうした?」
「……ここまで手を貸してくれて感謝している」
「唐突だな」
「本格的に討伐隊が動き出せば、言う暇もなくなるからな……そちらには目的があるとしても、あなたがここに来たことで開拓は大きく進展しようとしている。なおかつ、それは犠牲もなく……だ」
「俺は自分にできることをしているだけさ。気にするな」
そう言うとエリアスは肩をすくめる。
「それに、礼を言うなら『ロージェス』と戦う時とか、あるいは残る名の付いた魔物と戦う時、みたいなタイミングの方が良いんじゃないか?」
「……ここで言うのは、どうしても一つ尋ねたいことがあるからだ。あなたは東部の状況などを王都へ報告し、それが受理されたならば……どうする?」
「それは……この北部に残るかどうか、という話か?」
テルヴァは頷く。それに対しエリアスは、
「ああ、そこについては……もちろん、残るつもりでいるよ」
「そうか……長い付き合いになりそうだが、今後もよろしく頼む」
「ただ、何かやらかして左遷されたら申し訳ないが」
「……少しくらいならフォローをするぞ」
「ははは、気持ちだけ受け取っておくよ……ま、俺としても北部の開拓……その行く末が気になっている。霊木を制圧し、次の展望が見えるまでは……ここにいるつもりだから、こちらこそよろしく頼む」
そう言い残し、エリアスは部屋を出たのだった。




