刃の激突
これまでにない刃の激突に対し、周囲にいた騎士や勇者からは歓声が上がった。勇者の全力――それを目の当たりにして驚愕しつつ、また勇者と肩を並べるエリアスに対し声を荒げる者もいた。
その戦いは、エリアス達にとってまさしく死闘と呼べるものだった。一瞬でも手を抜けば、相手に刃が入って殺めてしまうかもしれない――そう感じさせるほどに、双方とも全力で剣を振っていた。
それは互いを信頼しているが故のものだった。双方が自分の剣を相手は受けることができるだろう――そう考えているからこそ成立する戦い。そうして刃を交わす間に、エリアスと勇者オルレイトは視線を重ねる。
――どちらが先かわからない。だが、剣を切り結びながら、いつしか二人の顔には笑みがあった。
「はああっ!」
オルレイトが叫び、踏み込む。勝負を決めようとした様子だが、エリアスは冷静な思考で相手の剣を、受けた。
そして、さらに魔力を高め――反撃に転じた。繰り出した横薙ぎに対しオルレイトはまず防御したが、それまでと比べ増幅した斬撃に、彼はたじろいだ。
その瞬間、頭で理解するよりも先に体が動いた。ここだ、とエリアスは確信を伴いながら一気に踏み込む。オルレイトが動けるだけの余裕を潰し、決着を付けるべく、一閃する。
その剣戟を、オルレイトは防いだ――が、とうとう大きく体勢を崩した。周囲は決めると誰もが思ったことだろう。エリアスはさらなる追撃を加え、とうとう彼が持っていた剣を、弾き飛ばした。
勇者の剣が、地面を滑る。そして残ったのは、切っ先を彼へと向けるエリアスの姿。
「……俺の、勝ちだな」
その言葉と共に、砦の中は歓声に包まれた。
「いやあ、途中まではいけそうかもしれないと思ったんだが」
決闘後、一度解散となり多くの騎士や勇者は決闘の場を離れていた。元々最前線にいる者達から寝泊まりする場所の案内などを受けているのだろう。
そうした中、決闘の場近くで座り込んでいるエリアスに対し、勇者オルレイトは隣に座り込み先ほどの戦いについて考察を始めた。
「最後の攻防で互角だったから、どうにか持久戦にでも持ち込めば勝機がある、と考えたんだがまだ上があったか」
「……さっきのは、全力か?」
「魔物を相手にしていたわけじゃないし、さすがに観客もいたから派手にやるわけにもいかなかったからな……何もかも手の内を明かしたというわけではないが……」
そう前置きをしつつ、オルレイトは言った。
「もし人間同士で行われる大会があるとしたら、そこで出せる手札を全て出したつもりだ」
「……そうか」
エリアスは答え沈黙する。その表情に対し、オルレイトは疑問を抱いたらしい。
「何か不満が?」
「いや、不満ではないかな……どちらかというと、困惑か」
「困惑? 私に勝ったことが、か?」
「ああ、俺は最初に言ったはずだ……武を極めることが目的だと。それは魔物と戦うために必要な技能を得ることにも繋がるから、という意味合いもあったんだが……」
「既に人間の中では最上位にいた、という話か」
オルレイトの言葉に、エリアスは肩をすくめた。
「どうなんだろうな……? まあ、少なくとも集められた人はそういう認識になったのかもしれないが」
――決闘が終わった後、集められた人達はあっさりとエリアスに従った。結果として討伐隊を指揮する点については問題がなくなったのは確かだ。
「なんというか、俺が最強とは思えないんだが……」
「最強、という言葉自体も色々と解釈があるからな」
オルレイトは言う。どういうことかとエリアスが注目すると、
「最強、という言葉の中には色々と種類があるって話だ。騎士の中で最強、勇者の中で最強、魔物の中で最強……まずカテゴリーというものが存在するわけだ」
「まあ、それはわかるが……」
「エリアス殿の言葉は、魔物と戦っている以上は魔物との戦いで勝利できる力を身につけること、というのが一番要因としては大きいだろう。その中で私と戦って勝利した……ただ、だからといって凶悪な魔物に勝利できるかと言われれば、そうではないだろう?」
「ああ、そこには同意する」
「であれば……あなたは現段階で、騎士や勇者の中で最強に近しい立場を得た。そういう風に解釈すればいい。けれど、武を極める……あなたが持つ理想に到達するには、まだ遠い」
「……魔物を倒せるだけの力、というのが俺の理想とするならば、果てしない道ではあるな。まあ、この目標を立てた時点でわかりきっていた話だが」
ただ、人間の中で最強に近しい存在となっていた――かもしれない事実は、エリアスにとってどこか釈然としない思いも与えていた。
(気付いたら、最強だったみたいな話だからな……完全に納得していないけど……)
「まあ、俺の目標はまだ遠い……まずは目先の討伐を無事に終えることが、今の目標かな」
「私も是非協力させてもらう」
勇者の心強い言葉。それにエリアスは、小さく頷いたのだった。




