勇者からの言葉
オルレイトの魔法によって、エリアス達は一度距離を置いた。攻撃は成功したかに見えたが――エリアスはゼロ距離で放たれたそれを、どうにか剣で防御していた。
「ずいぶんと器用だな」
オルレイトはそう評しつつ剣を構え直す。
「そして……どうやら、小細工は通用しないらしい」
勇者はそう呟くと、愚直なまでの突撃を行った。握りしめる剣からは今まで以上の魔力。一気に畳みかけるつもりか――
再びエリアス達は激突する――剣術勝負だが完全に互角であり、傍から見れば勝機は魔法などを駆使した戦術の数であるように見えた。
だが、オルレイトは真っ向勝負を選択した――その意図を、エリアスは剣を交わしながら理解する。
(魔法を撃っても俺には効かない……というより、俺がまとう魔力に対し、魔法では有効打にならないと考えたか)
それはおそらく正しいだろうとエリアスは思う。先ほど放たれた魔法に対しエリアスは直撃しても耐えられるだろうと一度防御して結論を出した。先ほどの魔法が全力であるかどうかはわからない。ただ、オルレイト自身が通用しないと考えているのであれば――
(残るは純粋な剣術勝負……だが、それもどうやら拮抗している……)
エリアスはそう考えながら、なおも切り結ぶ。連戦ではあるが体力は問題なく、むしろ強敵と戦えるという事実によりむしろ体のキレは良くなっている。
オルレイトはそんな動きも理解したか、剣を交わす間に少し目を細めた。このまま戦い続けてもエリアスを崩すことができない――そう理解したか、一度攻防を中断して大きく飛び退いた。
結果、エリアスとオルレイトは対峙する――明らかにオルレイトが攻めているはずだが、エリアスが一向に崩れない。この時点で周囲はざわつき始めた。勇者オルレイト――彼でも剣が届かない。だとすれば、聖騎士エリアスとは一体何者なのか。
なぜ東部出身でここまでの実力があるのか。様々な疑問が頭の中に浮かび上がっているのが、エリアスにとっては気配を通して理解できた。
(……ひとまず、俺が指揮官として動くには十分な実力を証明できたか。ただ)
エリアスは剣を構え、勇者オルレイトを見据える。
「……あなたに一つ問いたい」
そして問い掛ける。オルレイトは眉をひそめ、
「何だ?」
「あなたは、自分の実力をどういう風に捉えている?」
「実力、か……魔物と戦い続けているあなたならばわかると思うが、魔物との戦いで人間は非常に弱い存在だ。どれだけ鍛えようとも、凶悪な魔物相手には届かない。常に死の危険がつきまとう」
「そうだな」
「しかし、人間同士で戦うとなったら……私自身は、決闘や大会などに参加した経験はあるが、勇者と呼ばれて以降はその全てが勝ってきた。もし、あなたに敗北したなら、実質初めて負けるということになるかな」
「初めて……それは勇者として名が売れて以降の話だな?」
「ああ、そうだ」
――敗北するかもしれないとオルレイトは考えている。周囲の騎士や勇者達の声がさらに増す。
「……私からも一ついいか?」
「ああ、構わない」
「あなたはその技量をどうやって得た?」
「……ただ必死に目の前の魔物を倒し続けただけさ。本当にそれ以外にはない。目前に迫る脅威を倒そうと頑張っていたら、いつの間にか聖騎士に就任するくらいになっていた」
そこまで言うと、エリアスは小さく肩をすくめた。
「ただ、俺自身東部にずっといて、その環境で戦い続けていたから……自分の実力が如何ほどか、判然としなかったんだが」
「そうか」
オルレイトはエリアスを見据え、
「ならば……もし私に勝てたのであれば、あなたは人類においても有数の存在だと言ってしまっていいくらいではないか?」
「……さすがに、誇大表現だと言いたいところだが――」
目前にいるのは現役で最強格の勇者。もしその人物に勝利できたのであれば――
「……あなたもわかっているとは思うが、このままでは埒が明かないな」
やがて、オルレイトは語り出す。
「よって、次の攻防で勝負を決めようじゃないか」
言うと同時、オルレイトは魔力を発した。これまで以上に圧する魔力に、勇者や騎士からはどよめきが上がった。
この場を発する魔力だけで制圧しそうなほど、強い気配をみなぎらせていた。それを見てエリアスは、呼吸を整える。オルレイトは真っ直ぐ、突撃により圧倒しようとするだろう。ならばエリアスは、それに応じるべく――
「では、行くぞ」
宣言と共にオルレイトが動く。刹那、エリアスもまた足を前に出して、剣を放った。
甲高い金属音と共に、今までの中でも一際濃く、爆発的な魔力が砦の中を駆け抜けた。剣を重ねたが、それでも勝負はつかない。
オルレイトは即座に剣を引き戻し、今度は高めた魔力による高速の剣戟を繰り出した。しかしエリアスはそれにも対処する。そして、両者の間に目にも留まらぬ刃の応酬が始まった。




