最強格
騎士ロムハとの勝負は、剣を打ち合った直後に決定的となった。
巨大な力の塊となったロムハの刃を、エリアスは真正面から受けた。そしてそれを、力によって無理矢理地面へと押さえつけた。
「……何!?」
ロムハは驚愕し、エリアスを見た――同時、彼の体が硬直した。
その目に、エリアスが発する魔力が見えたのだろう。ロムハが収束させた魔力を上回る圧倒的な気配に、飲まれてしまった様子。
そして彼の剣はエリアスに上から押さえられ切っ先が地面を向いている。ロムハはどうにか動かそうとしたが、両腕に魔力を集めてもビクともしなかった。
「……この状況から、打開する手があるというのならまだやれるが、どうする?」
エリアスが問うとロムハはそれでも少し抵抗していたが――やがて、諦めが付いたように声を上げた。
「どうやら、十回やっても勝てないような実力差があるようだな」
「どうかな、戦術次第ではいくらでもやりようはあると思うが」
エリアスが剣を引くと、ロムハもまた剣を引き、鞘に収めた。
「これだけ力の差があるというのなら……まあいいさ、少なくともこれだけの面子を集め、隊を率いるだけの実力があるということはわかったからな」
ロムハは納得したような表情を浮かべると、大きく引き下がった。
審判をしている騎士メイルの言葉を聞く必要すらなかった。エリアスの完全勝利――その光景を見て、ロムハの実力を知る人物達は、エリアスを見て驚いた表情を見せている。
(ひとまず、俺の実力に注目させることはできたな……それじゃあ)
エリアスはこの勝負で終わらせる気はなかった。すぐさま周囲にいる人達へ目を向け、
「次の挑戦者はいるか? 俺はまだまだ余裕だ。自分こそが隊を率いる人間だと言う者は名乗り出てくれ……ああ、単純に俺のことを試すつもりでも構わないぞ」
そこで、一人の騎士が前へ出た。エリアスは手招きし、その騎士と向かい合う。
(……さて)
エリアスは一度自身の剣に目を向けた。それは先日テルヴァから渡された新たな武器。
先ほどの戦いを圧倒できたことは、この武器も大きく関係している。魔力を込め、それが大きく増幅されることで、騎士ロムハの剣を容易くいなすことができていた。
(前の剣であれば、もう少し苦戦していたかもしれない……あるいは、火の玉のような突撃をいなす方向で動いていたかもしれないな)
エリアスはそう評しつつ、そういった戦いであればまだ納得しない騎士や勇者が多数いただろうと予想できた。
審判である騎士メイルがそこで号令を掛ける。刹那、エリアスと騎士が真正面から激突し――その中で、エリアスは思う。
(何より、新しい剣の性能テストができる……この場における人達には悪いけど、俺の方は俺の方で色々とやらせてもらう)
そう胸中で呟きつつ――エリアスは戦いに没頭していった。
次の対戦相手である騎士をエリアスは騎士ロムハと同様に一蹴。さらに次に出てきた勇者もまた倒し、周囲にいる人達の目も変わってきた。
さらに言えば、エリアスは全て真っ向勝負でその全てを倒した――どうやら騎士ロムハを含め、戦った者達はかなり腕のある人物達だったらしく、だからこそ三人目を打ち破った時、エリアスに挑む者が出なくなった。
「俺はまだいけるが……これで終了か?」
問い掛けるが、誰も出てこない。実力を示して反発を黙らせるという手段ではあったが――ひとまず成功しただろうとエリアスは思った。
とはいえ、まだ足りないかもしれない――駄目押しとばかりに誰か名乗り出てくれないものかとエリアスが考えた時、
「なら、私が」
前に進み出たのは、勇者。騎士ロムハなどと比べても年齢的に上の、落ち着いた物腰をした銀髪の男性。黒衣を身にまとい、腰の剣を引き抜くと刀身の色合いが茜色だった。
その姿を見てどよめきが上がる。有名な人間か、とエリアスは考えつつ、
「名は?」
「オルレイト」
「オルレ……オルレイト?」
聞き返すと、男性――オルレイトは、小さく頷き、
「あなたが想像している人物と同一ですよ、聖騎士エリアス」
――エリアスも聞いたことがある名。勇者オルレイトは、ルーンデル王国ではなく、他国で活躍していた勇者であった。
その戦いぶりはルーンデル王国の人々にもしかと耳に入っている――現役勇者として格付けをするなら、間違いなく最強格――頂点にいるであろう御仁。卓越した剣術と魔法の能力。そして比類なき実績。この場に集められた面々においても、異例中の異例と呼ぶべき人物だった。
「……ん、ちょっと待て」
そこでエリアスは口を開く。
「俺は事前に隊に参加する人のリストを確認したが、あなたの名前は入っていなかったぞ?」
「ああ、急遽入れてもらったんだ。聖騎士テルヴァの要請によって」
そう告げると、勇者オルレイトは詳細を語り始めた。




