挑戦者
訓練、というよりは半ば決闘という形で、エリアスとくせっ毛の騎士は向かい合った。周囲には討伐隊として呼ばれた面々に加えて、最前線の砦に所属する騎士や兵士の姿もある。
「……そういえば、名前を聞いていなかったな」
エリアスが言うと騎士は剣を抜きながら、
「ロムハだ」
「騎士ロムハ、元々所属はどこだ?」
「少し前まで王都にいた。地竜出現を機に北部の後方も色々と人事異動があり、ここに来た」
騎士ロムハは既に臨戦態勢。剣を構える様子を見て、エリアスは一つ確信する。
(……かなり、実力の高い騎士だな)
「俺は聖騎士や騎士の事情とか名前をあまり知らないから、尋ねるんだが……何かしら功績とかはあるか?」
「少し前、王都で行われた騎士による大会があったが、そこで優勝した」
「……だからこそ、北部へやってきたというわけか」
「ああ」
応じつつ、ロムハは眼光を鋭くしてエリアスを見据える。
「地竜と戦ったあんたの実力を疑っているわけじゃないが……俺もそれなりに自信がある。まずはどちらが上か、白黒つけたい」
(……招集された面々の中でも上位の相手だとしたら、これはこれで話が一気に進むかもしれないな)
ロムハが語る間にエリアスは内心で呟く。同時、エリアスもまた剣を抜き、
「それじゃあ、早速始めるが……と、さすがに審判とかは必要か」
「なら、私が」
そう言いながら前に進み出たのは、騎士メイルだった。
「お互いに恨み言はなしでお願いします」
「心配するな」
ロムハはメイルへ応じると、魔力を高めた。
「それよりも、俺が勝った場合のことを考えておけばいい」
「……その辺りは聖騎士テルヴァがなんとかしてくれるさ」
エリアスもまた構える。双方の間に張り詰めた空気が生まれ、騎士メイルの号令を待つ。
「――始め!」
そして、声が放たれた直後、先んじて動いたのはロムハだった。
真っ直ぐ小細工など一切ない、愚直とも言える突撃。しかし速度はまさしく電光石火であり、高めた魔力による身体強化で、エリアスへ肉薄した。
だがエリアスはその動きにすぐさま応じた――両者の剣がぶつかる。火花さえ散るほどの強い激突であり、エリアスは突撃から放たれたロムハの斬撃に押し込まれそうになる。
だが、上手く受け流すと反撃に転じた。ロムハはそれを一度受けつつ、なおも攻勢に出る。防御する姿勢をほとんど見せることなく、まさしく押しの一手。エリアスはこれこそ、彼の特性なのだろうと断じる。
(攻撃が何より優先ということか……無謀とも思える戦い方だが、それで騎士達の大会で優勝したのだから、しっかりと技術に裏打ちされた戦法なのだろう)
とはいえ、魔物の領域という未知の世界に踏み込むことを考えると、攻撃ばかりではリスクもある――内心でそう評価しながらエリアスは彼の剣に応じる。
苛烈なほど放たれるロムハの剣を、エリアスは守勢を崩すことなく受け続ける――それに対しロムハは、動きを鈍らせた。自分の猛攻が通用していない――そう考え、一度距離を置こうと考えた様子。
エリアスが剣を弾いたタイミングでロムハは大きく引き下がった。最初の攻防は、どうやらエリアスの勝利――それは周囲にいる騎士や勇者達も理解したか、わずかながらどよめきが上がった。
「……地竜と戦っていた以上、攻撃能力が高いのだと思っていたが」
やがてロムハが語り出す。
「俺がどれだけ剣を向けても崩れないとは」
「騎士と剣を合わせた経験はそう多くないが……魔物と戦う時の技術から応用で、受け流し方くらいは自然に身につくものさ」
エリアスはそう言うと、ある考えを頭の中に巡らせながら――剣を構え、魔力を高めた。
「けど、さすがにやられっぱなしというわけにはいかない。反撃させてもらおう」
「……ならば」
ロムハも構える。エリアスが攻撃しようとしているのに、彼は前傾姿勢で今にも飛びかかってきそうだった。
これはつまり、自分も防御ではなく攻撃に回る――非常にリスクの高い戦法ではあるが、正面から激突し打ち勝てば、それだけで勝負が決まるかもしれないという、リターンの高い戦術でもある。
「……時に、君のような大胆な動きをする人間も必要だが」
エリアスは彼へ告げる。
「今回は魔物の領域へ入る以上、多少なりとも自重してもらわないといけないかもな」
「なら、ここで俺を止めてみろ!」
ロムハが動く。エリアスもまたそれに対抗するように足を前へ。
双方が距離を詰め攻撃を開始したのはまさしく一瞬の出来事だった。思考する暇さえない刹那の時間で、勝負が決まる。
ロムハは全力で魔力を高め、エリアスへと襲い掛かる。まるで一つの巨大な火球にでも変貌したかのように、彼を取り巻く魔力は膨れ上がっていたが――それを見てもエリアスは極めて冷静であり、力を目の当たりにしながら、相手を打ち崩すための剣を、一閃した。




