指揮官
「今のこの場で、自分こそ指揮官にふさわしいと考えている人間はいるか?」
エリアスの言葉に、集められた面々は沈黙する。
「自分こそが指揮官にふさわしいと思う人間がいるなら、名乗り出てくれ」
「――その場合、勝負でもして決めるのか?」
勇者らしき男性が問い掛けてきた。それにエリアスは首肯し、
「ああ、そのつもりだ」
「指揮官ってのは、隊をまとめる統率力が必要だろう? 腕っ節勝負をする意味があるのか?」
「大いにある。理由は主に二つ」
エリアスは言うと、男性へ向け語っていく。
「まず、魔物の領域に踏み込むため、命の危険があるのは先にも言ったとおりだ。その中で、もし危機的な状況となった場合……俺は犠牲を出さないような方針を取る。場合によっては誰かが殿をやる必要があるわけだが、その役目は俺が担うつもりだ」
「指揮官のあんたが?」
「俺は指揮官だが、最前線に立って戦うつもりだ。最前線で状況を見ながら指示を出し、剣を振るう……俺はそういう人間だ。そして、魔物の領域という何が起こるかわからない場所での戦いに、君達を連れて行く……もし誰かが犠牲となるのであれば、その一番目は俺であるべきだと考えている」
――男性は押し黙った。隊を率い、命を賭ける覚悟があるのだと、しかと感じ取ったらしい。
「無論、俺が任命されたのは指揮能力を持っているためだ。俺は元々東部で魔物と戦っていた人間だが、そこでは隊を率いて戦っていた。最前線で戦うという役目を担っているのもその時からだ。つまり、俺は俺のやり方で隊を指揮する」
「……東部でも、殿をやっていたのか?」
「ああ」
即答。それと共に多くの人間がエリアスへ視線を向け、注目する。
「……少なくとも、隊を指揮するのが初めてではないということはわかってもらえたかと思う。で、もし自分こそ指揮官にふさわしい、と考えている人がいる場合、遠慮なく名乗り出てくれ。もし勝負で俺が負けたら、上手いことやれるように聖騎士テルヴァにも話を通して、対処させてもらう」
誰もが沈黙する。納得したというわけではなく、名乗り出てくる人間がいるのかと事の推移を見守っている人間が大半である様子だった。
その中で、エリアスはさらに続きを語る。
「理由の二つ目だが……実力を優先して集められた面子である以上、完璧に隊がまとまるというのが難しい、と考えている人が多いだろう……実際のところ、そうだ。魔物の領域へ踏み込む以上、個々に戦えるだけの技量を持つ人間を選抜し、ここに集まってもらったわけだが、混乱もあるだろう……討伐まではまだ日数がある。その間にやれることをやり、連携についても訓練を進めていく」
数人の騎士が、まあ当然だろうという風に頷いているのがエリアスにも見えた。
「ただ、それでも連携を完璧に仕上げるには時間が足らないだろう……まあ、実力を優先している以上は、一癖も二癖もある人間が集まっている。そしてそれぞれが自分の実力に自信を持っている……何ヶ月経とうとも、完璧な連携なんてものは不可能かもしれない……しかし、連携は難しくともちゃんと統率がとれる方法はあると考えている。それが、勝負だ」
エリアスはそこで、自身の胸に手を当てる。
「俺自身、武を極めるという目標を立て日々訓練を行っている……多少なりとも実力に自負がある。それをこの集められた面々……精鋭である君達に示せば、ある程度は納得してもらえるのではないか、と」
「それは、つまり」
そう発言したのは騎士。くせっ毛を持ち、やや鋭い目を持つ人物。
「討伐へ赴く時、あなた自身の力を信用しろ、ということか?」
「まあ、そうだな……先も言ったとおり勝負に負ければ俺は引き下がる。指揮官という立場に固執しているわけではないし、何よりも優先すべきは犠牲を出さないことだ。それが果たされる状況であれば俺は喜んで引き下がる。その中で」
エリアスは一拍間を置いて、
「俺が指揮を担う場合――この中でもっとも強い人間、ということを示すことができれば、やりやすいんじゃないかと思っている」
「……やり方については少々強引かもしれないが、確かにわかりやすい話ではあるな」
騎士はそう言うと、獰猛な目をエリアスへ向ける。
「あなたはこの中で一番強い人間を指揮官に据えれば、曲者揃いの面子でも討伐隊として機能すると考えている」
「そうだ。もし他に良い意見があるなら受け入れるが」
「いや、いい。まあそれしかないな、と思うようなやり方でもある……この討伐隊は長い間維持されるようなものじゃない。短期間だけなら、実力である程度まとまるとは思う」
「わかってくれて何よりだ……で、どうする? 我こそは指揮官にふさわしいというのなら、手を上げてくれ。まあ不戦勝という形なら、別のやり方を――」
「いや、俺がまずやらせてもらう」
くせっ毛の騎士が声を上げた。
「異例な形で聖騎士になったんだったな。しかも異例の速度でこの砦にやってきた……実力を、しかと見ておきたい――」




