個の力
そして討伐隊が集まり――想定以上に集まりが良く、予定よりも短い日数で最前線の砦へと集結した。
「……これまた、ずいぶんとバラバラだね」
そう語るのはミシェナ。最前線にいる勇者としてこの場にいて、エリアスの隣に立ってやってきた面々を眺めている。
討伐隊として招集された者達は、まさしく混沌という表現が似合う状況となっていた。騎士や勇者、魔術師など役割はバラバラで、なおかつ所属などがまとまっている人達の方が少数という有様だった。
そんな光景を見てミシェナはエリアスへ問う。
「ねえ、これってまとまるの?」
「基本的に能力優先で集めたみたいだからな……こうなることは目に見えていたけど、事前に情報はもらっている。ちゃんとそれぞれの役割は考えているよ」
「そういうことじゃなくて、バラバラな人達をまとめられるのか、という話なんだけど」
「そこはできるのか、ではなくやらないといけない」
エリアスの言葉にミシェナは引き下がる――お手並み拝見、といったところだろう。
集められた面々はおよそ三十名ほど。部隊を編成するにしては少ないが、物資などを用意できる限界がある開拓最前線においては、三十名という数字はかなりの負担になる。
加え、魔物の領域に向かう場合、多すぎても混乱を招く危険性がある――そもそも数百人単位で動けるほどの物資は用意できない。さらに言えば、ただ人数を集めても凶悪な魔物に太刀打ちできない。必要なのは、個の力――この場にいる者達は間違いなく北部でも優秀な戦力であり、隊の規模などを考慮し、この人数に落ち着いたというわけだ。
そして一堂に会した状況で、エリアスが口を開く。
「――聖騎士エリアスだ。今回、霊木シュレイの制圧を目標とした魔物討伐における指揮官を担うことになった」
エリアスが語り出すと、集められた面々は沈黙。ただ中には、エリアスに敵意に近い視線を送ってくる者もいる。
「俺のことを知らない人間の方が多いかもしれないが、自己紹介については割愛させてもらう。今回の任務は主に二つ。開拓の大きな目標である霊木シュレイへ到達し、そこを根城にしている魔物を討伐。そして、霊木の周辺を制圧し、開拓の速度を大きく引き上げることだ」
そこまで語ったが、質問などはなし。よってエリアスは話を進める。
「ここへ来る前に、忠告は受けていると思うが俺の口からも語っておく。今回は魔物の領域へ踏み込み、戦うことになる。人間の領域となった場所に迷い込んだ魔物を倒すのとは大きく違う……魔獣や地竜と戦った際も、迎え撃つ形だった。しかし今回は違う。俺達が魔物の領域へ踏み込み、目的を果たさなければならない」
そういった言葉に騎士や勇者は沈黙を貫き、話を聞き入る。
「命の保証はない。指揮官として最善を尽くすし、犠牲が出ないよう可能な限り処置を行うが、魔物との戦い……しかも魔物の領域における戦いである以上、死ぬ可能性がつきまとうことだけは理解してくれ。もし、戦いたくないという考えを持つに至ったのであれば、その旨を聖騎士テルヴァに伝えてくれ。俺としてはその意思に従うつもりだ」
エリアスはそう言ったが――手を上げて表明する人間は皆無。この場に来た時点で、覚悟を済ませている――エリアスはそう認識し、話を続ける。
「この作戦において、何より重要なことを今から言わせてもらう。それは指示に従うことだ。魔物の領域は極めて危険であり、いつ何時魔物が襲い掛かってくるかわからない。この場で魔物の領域に入り込んだことのある人間がどの程度いるのかわからないが、間違いなく普段俺達がいる場所とは別世界だ。瘴気漂うあの場所は、常に警戒をしなければならない場所だと認識し、勝手な行動は厳禁だ」
そうエリアスは語り、集められた者達を一瞥する。
「極論言えば、勝手な行動をした人間から犠牲となっていくと断言してもいい。危険度の低い魔物ばかりだから問題ない、という考えは捨てろ。例え危険度一の魔物であっても、瘴気が立ちこめる魔物の領域では別の個体だと言われてもおかしくないほどだ。故に、まずは隊の規律を守り、速やかに作戦を遂行する。そういったことを招集された人達に俺は望む」
――敵意を持つ人間の視線がさらに鋭くなったのを、エリアスは理解する。
「……とはいえ、だ。俺自身の命令が間違っている、などという言い方をする人間が出ることは理解している。そもそも、聖騎士とはいえ就任してから日が浅い俺が、指揮官として務まるのか……などと考えている者もいるだろう」
エリアスが言うと、少しザワザワとし始めた。特にエリアスへ反発している雰囲気を持つ人間が、先の言葉に反応している様子。
「そこで、だ。一つ提案がある」
エリアスは語る。そこでざわつきが止まり、エリアスへ再び視線を集中させた。




