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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第三章

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第一の関門

 昼以降も作業は続き、その日は何事もなく作業は終了。エリアスは砦へと帰還した。

 そこでテルヴァに呼ばれ、彼の部屋を訪れ話をすることに。


「ある程度、人選は終わった。十日以内にこの砦へ来る予定だ。既に必要な物資の調達も済ませた」

「思った以上に早いな」

「公爵の根回しがあったのかわからないが、驚くほどスムーズに話が進んだ。いつもなら最前線の動きに対し足を引っ張る勢力とかが邪魔してくるんだが……」

「そんな人がいるのか?」


 呆れたようにエリアスが問うと、テルヴァは神妙な顔つきで頷いた。


「政治闘争の場でもあるからな、ここは」

「はた迷惑だな……でもまあ、今回に限っては何も問題はなしと」

「人を集める部分については、だ。身体検査などはしたが、完璧には程遠い。最大の懸念としては、実際に霊木へ向かった際、隊の動きを邪魔するような人間が出てこないか、だが」

「そこについては一応対策がある」

「……何?」


 テルヴァは眉をひそめた。


「対策?」

「ああ、といっても隊をどうやってまとめるかの延長線上の話だ。ま、そこについては考えがあるから心配はいらない……で、だ。一つ確認だが『ロージェス』なんかと関わりがないだろうという人物の絞り込みとかはできたのか?」

「……ノウェト公爵が『ロージェス』の関係者だと仮定し、公爵の関わりのある人物及び、そういった人物と縁のある人物については、可能な限り調べた。そして、おそらく大丈夫だろう、という人物達についても」

「ならそのリストを頼む」

「それを考慮し隊を組み立てるのか?」

「魔物の領域に踏み込む以上、下手なことはできないからな。あらゆることを想定した上で、挑む……背中から刺されるのが一番まずい以上、ここについては重点的に、神経質なくらいには色々とやらせてもらう」

「そうか……なら、継続的に調査は行っておく」

「フレンの方も独自に調べていると思うが……手伝わせようか?」

「いいのか?」

「ああ、有能だぞ」


 エリアスの言葉にテルヴァは「なら」ということで、話し合いは終了した。

 部屋を出たエリアスはフレンへ今日テルヴァと話し合ったことについて報告。すると、


「わかりました……私の方でも人選については把握できる範囲で調べていましたし、仕事は問題なくこなせるかと思います」

「最初からやっておくべきだったか?」

「開拓の仕事もありましたし、人選を行っている間にエリアスさんの従者である私がテルヴァさんの周辺をうろつくのは違和感がありますので、これで良かったと思いますよ」


 フレンはそう言った後、エリアスの目を見て、


「……想像以上に、厳しい戦いになるでしょうね」

「そうだな。間違いなく『ロージス』との戦い……あれくらいはしんどいものになるな」

「隊をまとめ上げるのに、無茶をすることになります。大丈夫ですか?」

「まあなんとかなるだろう」


 楽観的に言うエリアスにフレンは疑いの眼差しを向けていたが、


「……現段階でどうこう言っても仕方がありませんね。私は明日からテルヴァさんの仕事に加わるということでよろしいでしょうか?」

「ああ、俺の方も討伐隊のリーダーということで、そろそろ準備を始めようと思っていたところだ。テルヴァからもらう人選リストを確認し、色々とやろうと思う」

「わかりました……エリアスさん、重要なことをお伺いしますが」

「ああ」

「勝てると思いますか?」


 問い掛けにエリアスは少しの間、沈黙した。


「……そうだな、勝算は十分ある。けれど、犠牲なく……となったら、達成難易度が跳ね上がるのは間違いないな」

「公爵がどういった立場なのか不明ですが、相当無茶な話であるのは間違いありません。犠牲が出るだけでも、あることないこと言われ、最前線から更迭されてしまう危険性があります」

「ああ、そうだろう……公爵が『ロージェス』と手を組んでいるかどうかは不明だが、政治闘争の一環だとすると彼は自分が抱えている聖騎士を最前線の指揮官に置きたいとか、そういうことを考えているかもしれない」

「わざと無理難題を押しつけ、失敗させて人事に干渉する……と」

「どちらにせよ、公爵が来訪した時点でこの状況は確定していた。なら、自分達が自由にやるため、あえてこちらから提案し、可能な限り良い状況を整える……というのが、現状の最善策だとは思うぞ」

「……問題は、隊がまとまるかですね」

「そこが第一の難関……もし、この難関を突破することができたなら――」


 エリアスは言葉を止める。それにフレンは首を傾げ、


「どうしましたか?」

「いや……とにかく、最初の関門が隊の指揮だ。俺の命令を聞いてくれるかどうか……ただ東部でも似たような状況はあった。今回はその経験を活かし、やってみようと思う――」


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