無茶な戦術
公爵が去って以降、テルヴァは速やかに討伐を行うための準備を始めた。砦内にいる勇者に声を掛け霊木の主を討伐する旨を伝える。勇者ミシェナを始めとして、彼らはすぐさま承諾し、従来の仕事に加えて鍛錬の時間を増やし準備をすることに。
加えテルヴァは最前線以外の騎士や勇者を招集し討伐隊を編成することを公表した。結果、周辺の砦から参加を表明する人物が多数現れ、実力に足るかどうかをテルヴァ自身が査定することになった。
通常の仕事に加えて討伐隊編成という業務が加わり、テルヴァの負担は明らかに増したのだが――彼自身「このくらいはやらなければ」として、多忙になることを受け入れ、仕事を続けた。
その間、エリアスは開拓作業を進めた。騎士バートが木を切り倒し、エリアスは魔物を警戒する。魔物の群れが襲い掛かって以降、霊木の主は不気味なほど沈黙を保っていた。索敵魔法を行使し様子を窺っても、反応はなし。ただ、明らかに動きはあった。魔物がうごめいているという報告が幾度も成され、防衛準備をしているのはわかった。
(さすがに、魔物の数が減っている間に攻撃、というのは難しいか……)
エリアスはそう思ったが、誘い出して迎撃する、といった方法もあるだろうと考え直した。現在以上に開拓が進めば、また魔物が襲い掛かってくることもあるはず。その際に迎撃し、さらに討伐隊が動く――こういう流れをとるのが、一番楽な戦い方のはず。
(むしろ討伐隊を編成し、まずは魔物を誘い出して隊の戦闘能力を分析した方がいいな)
実戦投入と共に評価するというのはさすがに無茶ではあるが――そのくらいはやらないと満足に評価ができないだろう、とエリアスは考える。
(異例ずくめの戦いだからな……問題は討伐隊の戦力か。聖騎士、勇者……どういった人物が来るのか。そして、ちゃんと制御できるのか)
エリアスがリーダーとなるのは間違いなく、だからこそ――聖騎士として、犠牲を出さないために指揮しなければならない。
(魔物の領域へ踏み込む以上、指揮がきちんとしなければ犠牲者が多数出る……まとめるためには、多少強引だろうが東部でやった手法を用いるしかないか)
エリアスは考えながら魔物の領域を見据える。相変わらず瘴気が漂っているが、それでも魔物が近づいてくる様子はない。
「――おーい」
そこで後方から騎士バートの声がした。振り返ると彼が手を振る姿が。
「昼だし休憩しよう」
「……もうそんな時間か」
考え事をしていたらあっという間に時間が過ぎてしまった。討伐隊のことについてずいぶんと気を揉んでいるとエリアスは自覚しつつ、
(あまり深く考え事をするのも良くないな……)
そう反省し、バート達がいる場所まで戻ってきた。
「気持ち悪いくらい開拓は順調だな」
バートが言う。エリアスは頷き、森を一瞥。
「魔物側も前回の敗北から立て直そうとしている……のはいいとして、こちらを観察する魔物もほとんど見かけなくなった」
「完全に閉じこもっているということか?」
「……魔物はたぶん、前回の戦いで森に展開した監視用の魔物をこちらが把握していたのを認識したんだろう」
エリアスは考察を語りつつ、バートへ顔を向けた。
「よって今度は、極力情報を出さないような手を打った……霊木周辺を索敵魔法で調査しても、状況にほとんど変化はない。これは魔物などを生成していないわけじゃなくて、意図的に隠しているのだと推測する」
「隠す……か。そんなことができるくらいに知能が高い魔物、というわけだな」
「ああ、そうだ……討伐隊を編成して戦う場合、ここがネックになるな。現在、霊木周辺にどれだけの魔物がいるのかわからない……魔物の領域に踏み込む以上は、状況を暴きたいところだが……」
「どうするんだ?」
バートが問う。それにエリアスは肩をすくめつつ、
「とはいえ、索敵が通用しないとなったら誘い出して迎撃、とか工夫が必要だな」
「誘い出す……敵は引きこもっているわけだし、難しいんじゃないか?」
「そこなんだが……バート、開拓についてだが、現在以上にペースを引き上げることは可能か?」
「ペースを? まあ、できなくもないが……」
「少し無茶なやり方だが……例えば霊木へ真っ直ぐ突き進むように木を切り倒し続ける、というのは?」
「魔物の警戒をする必要があるから、あんまりやりたくはないが……その辺りを考慮に入れなければ、できなくはない――」
と、返答してバートは何が言いたいかを理解した様子。
「つまり、霊木へ突き進んでくる俺達に対し、魔物も流石に動くだろう、ということか」
「ああ、討伐隊が編成されればそれだけ戦力も上がる。なら、森の中で魔物を迎撃する戦力も増えるし、少しくらい無茶をやって敵を誘い出すというのもいけるだろ」
「……それが上手くいけば、だいぶ戦いやすくなるけどな」
騎士バートはまた森を見据える。エリアスの策が通用するか、彼なりに検討している様子だった。




