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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第三章

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謀略の可能性

 話し合いはひとまず終了し、騎士メイルがまず公爵に付き添い砦の中を案内することになった。

 公爵と護衛が砦の中を歩いている中、エリアス以外の聖騎士は仕事へ戻った。その中でエリアスだけはテルヴァに呼ばれて彼の部屋を訪れた。


「公爵の突然の来訪……どう見た?」


 問い掛けられたエリアスは一考した後、見解を述べた。


「まず、評価が高いのに方針を変えろという時点で、少し違和感を覚えた……なおかつ地底に関する言及があったことを踏まえると、『ロージェス』と呼ぶ人の姿をした魔物と手を組んでおり、何かしら干渉してきた、なんて可能性もゼロではないんじゃないかと思った」

「私もそういう意図があるのか? と疑問に感じたが……」

「あるいは、公爵が『ロージェス』と関係がないにしても、関係者から色々と言われて同調したなんて可能性も考えられる……ただこの場合、俺達にさっさと開拓を進めろと言っているわけで、魔物からすれば好ましくない展開となるはずだが――」


 そこまで言って、エリアスは口が止まった。


「……言っていて思うんだが、もしかして誘われていたりするのか?」

「何?」

「公爵自身に意図があるかどうかはわからない。だが、俺達に霊木の制圧を早く進めろと言ってきたということは、霊木に何かある……罠とか仕込んだとか、そういう可能性があるのかもしれない」

「……仮にそれが『ロージェス』の仕業であるとしたら、相当な深慮遠謀だな」


 テルヴァは言う――無論、エリアスが語った内容は、基本的には荒唐無稽な話だ。地底に存在している人の形を持つ魔物が、人間を通じて霊木を早く制圧するように言うなど、いくらなんでも話としては無理筋であった。

 だが、エリアスもテルヴァも苦笑一つしない。それは北部の最前線で魔物と向き合っているからこその、感覚――これまでに起こってきた事象と情報により、あり得ないわけではない、という考えを抱い

ている。


「……確かに、公爵はずいぶんと地底に関して気にしていた」


 少ししてテルヴァが口を開く。


「単純に人的資源がもったいない、という言い方をしていることから、優先順位を下げろという単純な話である可能性の方が高い」

「まあ、そうだな」

「だが……私からしても、どこか執着しているようにも思えた。地底調査を即刻取りやめろという無言の圧力さえ感じられた」

「俺も、公爵が地底について語っている時、なんだか熱が入っていたように思えたな……俺達の感覚が正しければ、公爵と『ロージェス』は繋がっていて、地底から目を逸らすよう指示しろと言われた可能性もあるんだが……」

「とはいえ、当然のことながら確証はない」


 テルヴァが言うとエリアスは首肯する。


「ああ、そうだ。俺達がどう考えていようとも、基本的には人的リソースがもったいないから開拓に振り向けろ、と解釈しないといけないな」

「……おそらく、公爵は要求に対し首を縦に振るまで滞在する気だろう」

「まあ、そこは違いないな」

「であれば、結論は開拓速度を上げる……現状、霊木の主が持つ戦力は減っている。それを踏まえれば、道などを切り開かずとも、討伐隊を編成し攻撃を仕掛けても、勝算についてはあるように思えるが……」

「けれど、犠牲が出る可能性は高いだろ」


 エリアスが突然言った。それにテルヴァは神妙な面持ちで頷いた。


「ああ……そうだな」

「罠があれば、致命的な話になる……公爵の狙いがただ開拓を急がせるだけだったら良いが、霊木に何かあるのだとしたら……」

「もし『ロージェス』が謀略を巡らせているとしたら、どのように考える?」

「単純に霊木の主と俺達とを戦わせるだけでもいいだろう……人間と霊木の主、双方が疲弊したタイミングで霊木を横取りする」

「霊木は相当な力を持っている以上、あり得ない話ではないな」

「他に考えられる可能性は……霊木の主と『ロージェス』双方が待ち受けているとすれば、戦闘に入った場合相当な被害が出るだろう」

「……そして、被害を出した私は責任を取らされる、と」

「霊木へは俺も向かうだろうから、テルヴァに加えて俺も責任を……という可能性が高いな。地竜を倒した功績もあるから、おそらく『ロージェス』も相手にするのは面倒だと考えたことだろう」


 そうエリアスは言うと、テルヴァへ視線を送り、


「霊木を横取りし、俺達を抹殺とまではいかなくとも、北部最前線から追い出す。そして公爵の息が掛かった人物を最前線の指揮官に据え、好き放題する……結果、北部の状況や開拓がどうなるかわからない。けれど、指揮官をすげ替えて何かをする……というのが敵の目標なら、策謀の一つや二つ仕込んでいてもおかしくはないだろうな――」


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