表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/179

苦々しい思い

「……確認、なのですが」


 テルヴァは少し間を置いた後、公爵へ尋ねる。


「現在の開拓作業では、王都側に弊害があるというわけでは、ないのですね?」

「ああ、冒頭で語ったが評価は高い……だが、一部の者達からはより作業を進めるべきだ、という意見が出てきた」

「それは、何故ですか?」

「先日の魔獣討伐だ」


 公爵の言葉にエリアスは目を細めつつ、話を聞く。


「脅威だった名前が付けられた存在……三体の内、二体を私達の手で倒すことができた。しかも犠牲者ゼロで、だ。そうした事実を踏まえれば、慎重にならずとも一気に開拓を進めることができるのではないか、という意見が出てきた」

「……お伺いしたいのですが、ノウェト公爵としてはどのようにお考えですか?」


 さらに問い掛けるテルヴァに対し、公爵は彼に視線を送り、


「私はどちらかというと、積極派だ。今後のことを考えれば、ある程度ことを進めるべきではないか、と思うのだがどうだ?」


 ――テルヴァは考え込む。評価が高い以上は、今まで通りやりますと伝えても問題ないように思える。

 だが、他ならぬ積極派の公爵が直接来ているという事実を踏まえれば、彼は無言で「積極的に開拓を進めるべきだと」と主張しに来たのだということは容易に想像できた。


(……言葉自体は非常に穏当だけど、語っている内容を考えるとテルヴァからしたら相当高圧的なのかもしれないな)


 果たしてテルヴァはどう考えるのか――エリアスを含め他の聖騎士達が沈黙を守る中、彼は口を開いた。


「……まず、現在はこれまで通り開拓を進めるという前提で部隊編成を行っています。それに、開拓以外に従事する者もおり、隊を再編成すること自体、相応の時間が掛かります」

「開拓速度を引き上げるのであれば、そのくらいは問題ないだろう。ああ、それと」


 何でもない、という様子で公爵は言う。


「地竜討伐以降、地底に関する調査を行っているらしいな?」

「はい、地竜がこちらの索敵に反応した、という事実から調査自体にリスクはありますが、それでも地底の情勢を調べておく必要があると考えまして」

「そこについてだが、地底を調べる人員のリソースを開拓に振り向ければ、速度は増すのではないか?」


 そう言いつつ、公爵はなおもテルヴァを見据えながら問う。


「そもそも地底の調査は必要か? という疑問が王都にはある。無論、地底から魔物が出現する可能性を考慮すれば、様々な対策を講じておく必要性はあるだろう。だが、人員を大きく割いてまでやる必要性は薄いと私は考える」

「……それは、王都側の考えでしょうか?」

「ああ、そう思ってもらって構わない……開拓に関する評価は高いが、その点については疑問に思う人間が多数いる」


 エリアスはそれを聞いて、どこか違和感を覚えた。


(……なんだか、取って付けたような言い回しだな)


 内容自体、変ではない。だが、多少間を置いて語ったため、テルヴァを追い立てるためにそう言ったようにエリアスは感じた。


(いや、そもそも地底調査に関してはテルヴァも相応に事情を説明したはずだ……なんというか、地底については別に調べなくていい……というより、調べ続けることが好ましくない、という雰囲気も感じられる)


 エリアスは胸中で考察する――と、そこで公爵の視線がエリアスへ向けられた。


「君は確か、最近着任した人物だったか」

「はい、名は――」

「ああ、いい。名前は知っている……聖騎士エリアス。君はどのように考える?」


 話を向けられる。エリアスは面倒だなと内心で思いつつ、


「……私はここに来て日が浅いのですが、開拓をいち早く進める方法についてはある程度理解しました」

「ほう、それは何だ?」

「魔物と戦わないことです」


 決然とした言葉に公爵は一時沈黙した――が、どういう理由かは理解したようで、


「なるほど、開拓作業そのものに人を多く振り向けることができれば、それだけ速度が増すということか」

「はい、そうです」

「であればなおさら、地底調査の人員を開拓に振り向けるべきだと私は考えるぞ。物資輸送などの観点から、ここへ無限に人を送ることはできない……人数が多くなれば糧食などが足らなくなるからな。だからこそ、余計なことをすべきではないと考える」


(……たぶん、テルヴァが同意するまで話を続ける気だな)


 エリアスはそう理解した。テルヴァとしても抵抗したいようだが、さすがに公爵相手では分が悪い。


(なら、俺にできることは……)


「……数日、砦に滞在し様子を見させてもらう」


 テルヴァがどこまでも語らないためか、公爵はやがて彼へそう言った。


「報告書の内容を見る限り私は先に言ったような考えを抱いているが、最前線の状況を確認し、私の考えが合っているのかを改めて確かめさせてもらう。そしてここを離れる前に、もう一度話をしようじゃないか」


 公爵はそう語る――間違いなく、彼が結論を変えることはない。

 その中でテルヴァは「わかりました」と答えた。その顔は無表情で、苦々しい思いを抱いているのがエリアスも理解できた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ