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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第三章

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公爵の来訪

 テルヴァがやってきた後も作業は進み、やがて予定通りに全て完了し、エリアス達は帰ることとなった。ちなみにテルヴァは魔物の襲撃が気になったのか、最前線で色々と動き回っていた。


「何か気になることが?」


 帰り道、エリアスが問うとテルヴァは視線を返し、


「私なりに色々と推測をしたが……情報が少ないため、言及は控えよう」

「そうか……今回の公爵についてだが……」

「目的は何一つわからない。少なくとも何かやらかしてお叱りを受ける、などということはないと思うのだが」


 彼自身、どういうことなのか疑問に思いながら、色々と考えている様子だった。

 そうこうしている内にエリアス達は砦へ帰還。そこで、


「ああ、待っていたよ」


 砦の城門を抜けた時、物々しい鎧に身を包む騎士に守られた老齢の人物が一人。白髪が混ざった金髪に、伸ばされたヒゲが特徴的な人物。


「ようこそ、グランベール公爵」


 テルヴァが進み出て慇懃に礼を示す。それに対し公爵は、


「ノウェトで構わんよ、聖騎士テルヴァ。聖騎士を集めて話をしたいのだが、構わないな?」

「はい、問題はありませんが……」

「では早速話をしよう」


 公爵が先導する形で建物へ。そこでテルヴァは部下に聖騎士を呼ぶよう言い渡し、先にエリアス達は会議室へと赴く。最前線にいる聖騎士が全員集まるまで、ノウェト公爵はテルヴァへ話を向けた。


「開拓の状況は逐一聞いているよ。順調だそうだな」

「はい、目標である霊木へ向けて予定通り進んでいます」

「その目標……霊木を制圧し、拠点を建設するまでにどの程度必要だ?」


 問い掛けにテルヴァは沈黙。彼自身頭の中で計算している様子。


「そう、ですね……まず、霊木を制圧するまでの期間はまだ予測できませんが、霊木へ到達できる道を作ることは、数年以内に可能かもしれません」


 その言葉で、公爵は目を細めた。


「それは霊木への道を作り出すために必要な時間、ということだな?」

「はい、安全圏を確保し、なおかつ道を作り出すためにはそのくらいの時間は必要かと」

「ふむ、そうか」


 相づちを打ったが、エリアスの目から見て明らかに不満がある、という様子だった。

 ここでエリアスは考える――公爵は一体どういう立場の人間なのか。


(この人は政治的に北部でどういった立場なんだ? 後でフレンに確認するとして……北部における指揮官とかだとしたら、もっと速度を上げろということを言いに来たのか?)


 テルヴァの説明を聞いて不満な様子を見せているのであれば、そういうことである可能性が高い。


(だが……そういう風に見せて、仮に『ロージェス』と関係を結んでいる人物だとしたら?)


 そうした疑問を抱く間に、部屋の中に聖騎士がやってきた。エリアスやテルヴァを含めて四人。全員が集まった段階で、公爵が口を開く。


「では、話をさせてもらおう。国としては君達の働きを評価している。開拓は順調に進み、北部の開発も進んでいる……が、君達は少し前に魔物の領域に入り込んだ調査隊の話を聞いているか?」

「はい」


 テルヴァが代表して答える。エリアスは聞いたことがなかったが、さすがに口を挟むことはない。だが公爵は聖騎士達を一瞥し、


「事情を知らない者もいる可能性があるため、一度話をしよう。数ヶ月前に、王都で選抜した騎士や勇者が現在の開拓地点より先の調査を行った。元々、霊木の存在などは観測していたが、他にもこの北部には稀少な鉱石や薬草、さらに魔力の集積点が存在していることがわかった」


 公爵はそう述べた後、テルヴァを見た。


「つまり、ここから先……開発が進めば、間違いなくルーンデル王国を大きく発展させる原動力となる」

「それはわかっていますが……」

「私が言いたいのは、速度を増すことができないのか? という点だ」


 その言葉にテルヴァは沈黙する。先ほど霊木へ道を作るのに数年掛かると言っていた――ただ、エリアスとしてはその見立てもかなり甘い見積もりだろうと考えている。


(今日みたいな開拓ができれば、確かに数年で霊木周辺の制圧は可能かもしれない。だが、制圧したからといって終わりじゃない。拠点を建設するまでにはさらに人間の領域を広げて安全圏を確保する必要性もあるし、その間も魔物との戦いは継続し続ける)


 そもそも、霊木の主との戦いが控えている――その戦いが長引けば、当然それだけ開拓の期間は長くなる。

 エリアスが色々と考える間に、さらに公爵は語る。


「あるいは、目標を変える……霊木には魔物が多数いるため、そうした場所を制圧し安全圏を広げるというのは有効だが、それよりも先……資源がある場所を確保するなど、方法はないか?」


 さらなる問い掛けにテルヴァは黙し、考え込む――エリアスは彼と決して付き合いは長くない。しかし今、彼は必死に思考しどう返答すべきか悩みに悩んでいることは、明瞭に分かった。


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