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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第三章

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重い空気

 翌日、エリアス達は前日と同じ布陣で警戒し、霊木周辺を警戒した。

 一方で索敵魔法についても行使する――昨日と同じ状況か否か。それを確かめるためだったが、どうやら魔物の数は変わりがないということだった。


(こちらが索敵魔法を使用していることから、あえて魔物を生成していないという可能性もあるが……相手からすれば、俺達がいつ何時反撃してきてもおかしくない状況だ。むしろ魔物を増やしてこちらに来させないようにする、といった手法を本来なら用いるだろう)


 だが、実際のところ魔物の数は増えていない。おそらく、生成するのに時間が掛かる――確定した事実ではないが、おそらくそうなのだろう。

 エリアスは後方を見る。騎士バートが相変わらず木を伐採し、さらに後方でフレンが結界魔法による人間の領域を確保する姿が見える。


(作業は順調だな……このまま何事もなければいいが)


 そう思っていた時、後方から魔術師が一人やってきた。


「すみません、聖騎士エリアス」

「どうした?」

「聖騎士テルヴァがお呼びです」

「……呼んでいる?」


 首を傾げた時、後方でざわつくような声が聞こえた。見れば、騎士バートの近くに聖騎士テルヴァが立っていた。


「……珍しいな」


 今まで開拓最前線の現場に来ることはなかった。いや、もしかするとエリアスが着任する以前はこうしたことがあったかもしれないが、少なくともエリアスは見たことがない。

 周辺にいた騎士に「少しの間、頼む」と言い渡してエリアスは後方へ。騎士バートがテルヴァと話をした後、作業を再開した段階でようやく森を抜けた。


「すまない、突然」


 まずテルヴァは謝罪した。エリアスは首を左右に振り、


「いや、問題はない……開拓は順調かつ、魔物の襲撃もないが……どうしたんだ?」

「少し頼みがあってだな」


 彼の表情はどこか重いもの。ここへ来た理由は、あまり良くないものであるという想像がついた。


「今日、仕事が終わった後に私の部屋へ来てくれ」

「構わないが……終わった後でいいのか?」

「ああ、作業そのものは予定通りで構わない。ただ、あなたには少し残業してもらうことになるが」

「何が起こった?」


 問い返したエリアスに、テルヴァは少し間を置いて、


「……ノウェト=グランベール公爵が、今日砦に来ることになった。そして聖騎士を集め話をしたいと」


 エリアスは、その名前に聞き覚えがあった。ルーンデル王国における、大貴族の一角。しかもノウェトという人物は、現在の当主であったはず。


「本来は王都で政治に携わっている人物だろ? 使者とかではなく、本人がこの最前線に来るのか?」

「ああ、そうだ。一体どういう理由なのか私も皆目見当がつかない」

「……わからないため、色々と不安になっているということか」


 エリアスの言葉に、テルヴァだけでなく周囲にいる騎士達も険しい顔つきとなる。


「基本的に、だが」


 そこでテルヴァが話を続ける。


「王都で執政を行う人間が直接来る場合、ただ様子を見に来たわけでないことは、そちらも容易に想像が付くだろう」

「そうだな……過去にこういう事例があったのか?」

「ああ、可能性として考えられるのは、まず人事の変更」

「開拓は順調に進んでいるが、それでも人を変える?」

「多くの場合は、自身が推している人員を最前線に配置させるために直接やってくる。認めさせるために」


 その言葉にテルヴァは難しい顔をする――そういった行為によって、彼は幾度となく煮え湯を飲まされてきたのだろう。


「例えば私を解任させる、という可能性は低いと思う。というのも、北部最前線の人事は相応の実力がなければ難しいため、公爵の一存で決めることができない」

「つまり、砦の主を変えるには公爵の権力でも足りないと」

「そうだ。ただ、砦内の人事について多少なりとも指示することはできる」

「……そちらに影響がないとしたら、むしろ俺の方がどうこうなるんじゃないか?」


 エリアスの言葉にテルヴァは少し沈黙を置いた後――


「そうした可能性も、ある」

「考慮に入れておけと」

「ただその場合、聖騎士を集めて話をする、などというのは考えにくい。むしろ公爵お抱えの聖騎士をお披露目するために集めるといった解釈の方が妥当である気はする」

「ふむ、なるほど……」

「残る可能性としては、開拓の方針に口出しすることか」

「……さっきも言ったが順調だよな?」

「ああ、順調だ。ただ、開拓の状況は王都にも短期間で伝わる。公爵が私のやり方に肯定的か批判的かわからないが……もし後者であれば、今後の動き方が何かしら変わってしまうかもしれない」


 ――その不安感が、騎士達の空気を重くした。一体何が起こるのか。現時点では誰も答えを持っていないが、決して自分達にとって利することでないだろう、という点はこの場にいる誰もが予想できたのだった。


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