迎撃後の考察
魔物を討伐した後、エリアス達は騎士バートやフレンのいる所まで戻り、状況の確認を行う。
まず負傷者はゼロ。後方にも多数の魔物が押し寄せたが、その全てを迎撃した。
「迂回してきた魔物は、エリアスさん達が迎撃した個体と同じものだと考えていいだろうな」
騎士バートは自身の考察を語る。それにエリアスは頷き、
「出現した狼の魔物は全て、均一の能力を持っていたと断定していいだろう。一頭くらいは他の個体よりも強い魔物がいるのでは、と考えながら戦っていたが、結果的には全て同じだった」
「強力な個体がいたとなったら、戦いは面倒なことになっていたな」
バートが言うと他の騎士達が同調するように頷いた。
「でも、霊木の主はそういった策を講じてはこなかった……できなかったのか、そういう発想はなかったのか」
「俺達の様子を小さい魔物で観察し、戦術を編み出したのは間違いない。今回は負傷者もなく迎撃することはできたが……戦術的にはかなり厄介なものだったし、もう少し魔物が強ければ、どう話が転んでもおかしくなかった」
エリアスの言及に騎士達はまたも頷く。
「これは推測だが、俺達の動きから霊木にいつ何時迫ってもおかしくない……よって早期に攻撃を行おうとした結果、質より量でああいった魔物を生成し、襲い掛かってきた。斥候による情報から数を用意した方がいいと判断したのは見事だが、用意した魔物の能力が足らなかった、といったところか」
「もう少し時間を掛ければより強くなっていたのか?」
バートの素朴な疑問。それに対しエリアスは小さく首を横に振った。
「たぶん、魔物を強くしたら使役できる数が減るんじゃないか?」
「……どういうことだ?」
「東部でも経験があるんだが、魔物を生成し、使役する個体はいた。その中で使役する魔物が強ければ強いほど、操れる個体の数が減っていた。これは経験則だが、魔物を操作できる数には限界があるという話なんだと思う」
「――それについては、研究もされていますね」
と、索敵魔法を使っていた魔術師が声を上げた。
「確か魔物が配下を命令する場合、自身の魔力容量によって操作できる数や強さが決定されると」
「ということは、最初に交戦した熊型の魔物……あれが四体というのは、それが限界だったということか?」
「ええ、おそらくは……ただ、もし私達のことを追い返すために全力を注いでいたのであれば、今回以上の強さを持った魔物が大量に出現していたかもしれません」
そう述べる魔術師に対し、エリアスは「なるほど」と一つ呟いた。
「霊木周辺には、霊木の主の配下と思しき魔物がいる……そういった魔物を使役するためにリソースが消費されている、ということか」
「はい、霊木を守護する役目を持つ魔物がいる以上、こちらに差し向けることができる魔物の数や質には限界があるのでしょう。熊型の魔物ほどの能力ならば四体と少しくらい。そして今回のような数ならば、私達が一騎打ちでも迎撃できるだけの能力しか付与することができない」
「逆に言えば守りを捨てれば、より凶悪な魔物がくるという話になるが……」
「霊木を守る魔物を手放すとは考えにくいですね」
魔術師の見解。エリアスが視線を送ると彼は解説を加えた。
「霊木への道を開拓する私達人間は、霊木の主からすれば脅威であることは間違いありませんし、だからこそ多数の魔物を差し向けている。しかし、霊木の主にとっての敵は私達だけではない。魔物の領域の中にも、霊木の魔力を狙い霊木の主の座を奪おうとしている魔物がいるはずです」
「魔物同士の戦いを考慮すると、霊木の守りをゼロにすることはできない、と」
「はい。もっとも、私達が今以上に近づけばどうなるかわかりませんが……」
「むしろ俺達は霊木の主を倒したとしても、魔物の領域から霊木を狙う魔物に対して警戒をしなければいけないか」
「はい、もし霊木周辺を制圧するために戦う場合は、魔物の領域から新たな敵がやってくるのを警戒し続けなければいけない」
「……その辺りについては、テルヴァに色々と考えてもらうか。それで、霊木の主に関する詳細はわかったんだな?」
「はい」
「なら、調査はひとまず終了といこう。バート、開拓はどうする?」
「まだ魔物側に動きがあるかもしれないし、今日のところは森を警戒し、人間の領域を広げる作業に集中しようか」
「わかった。調査を行った者達は一足先に砦へ戻るか?」
エリアスの問いに索敵を行った魔術師は「もう少し調査をする」と告げた。
「わかった。なら魔物に最大限の注意を払いつつ、作業を進めよう。俺は引き続き魔物の警戒に当たる。迎撃のために今回呼ばれた騎士達は、森への警戒を俺と一緒に頼む」
指示に騎士達は承諾。そしてエリアス達は、作業を再開した。




