押し寄せる敵
敵襲――索敵魔法を行使したことにより霊木の主を間違いなく刺激した結果、魔物がエリアス達の所へと来ている。しかし、先日のような熊の姿をした個体みたいに一体が凶悪な力を持っているわけではない。
どういうことなのか――この場にいる騎士達は誰もが理解していた。そして騎士バートも作業を中断し、
「なるほど、これはヤバそうだな……!」
そう声を発した。同時、とうとう魔物の姿を肉眼で捉える距離となり――エリアスの視界には、魔物の領域から突撃する十数体の狼が見えた。
「今回は数で押し込むというつもりか……!」
エリアスは叫びながら、この戦術が非常に有効であると評価する。魔物を迎撃するために騎士を動員し、騎士や魔術師ばかりなので全員が対抗手段を持っていることは間違いないが、乱戦ともなれば戦いがどう転ぶかわからない。負傷者が出れば当然、そういった人物を守りながら戦う必要があるため、途端に不利になる。
(一体一体が強いのではなく、群れを成して襲い掛かってくる……面倒なやり方だな!)
エリアスはそう胸中で呟きながら、いよいよ接近してくる狼の魔物に対し――足を前に出した。
次いで突進を仕掛ける狼へ向け一閃。剣は理想的な軌道を描いて魔物に直撃。それで絶命したか魔物の突進は勢いをなくし地面へと落ちた。
「全員、負傷などしないよう注意を払いながら迎撃を!」
エリアスは叫びながら後続から来る魔物を一体、また一体と倒していく。その間に迎撃を担当する騎士達が前に出て、群れを成す狼と戦闘を始める。
彼らもしっかりとした剣戟によって魔物を倒すことはできている――しかし、数が多いことに加え森の中という状況から戦いにくさもある。どこからか突破されてしまえば、後方が危うくなる可能性も。
エリアスは魔物を迎撃しながら後方を一瞥。騎士達が展開し、既に迎え撃つ準備を整えている。
(あの形なら、討ち漏らしても問題はなさそうだが……)
そこで、なおも襲い掛かる魔物に加え、側方から新たな気配。森を大きく迂回して後方を狙う魔物がいる。
「――横手から後方へ向かって来る!」
エリアスは気配を察知して後方へ向け叫んだ。それを聞きつけた騎士バートは即座に周辺の警戒に当たるよう指示を出す。
そこで、森から魔物が飛び出す。直後、索敵魔法を展開する魔術師を守っている騎士が迎え撃ち、撃破することに成功する。
エリアスがその様子を確認し、再度真正面から来る魔物を注視すると――後続から次々と魔物がやってくる。同型の個体ばかりだが、数が今までには考えられないほどだった。
(下手すると百を超えるんじゃないか……!?)
内心でエリアスは驚愕しつつ、次々と来る魔物を一刀のもとに斬り伏せる。敵はそれほど強くない――というより、質より量という戦術に切り替えて攻撃をしてきているのは間違いない。
「警戒し、常に魔物の強さを把握を!」
そこで、エリアスの近くにいた騎士が周囲に叫んだ。その意図をエリアスも即座に理解する。
(自分達なら対処できる危険度の魔物だが、これに紛れて強い個体だって来るかもしれない)
もし紛れて襲い掛かってきたのなら、対処できなくなるかもしれない――周囲の騎士達はその意図を察し、ある程度余裕を持った状態で魔物を迎え撃つ。
(さすが最前線か。騎士達は個々に戦っているが、誰かが危なくなったらすぐにカバーできる距離を保っているし、魔物の力量を瞬時に把握できるくらいの技量がある)
エリアスは周囲の騎士達を考察しつつ、なおも来る敵を倒し続ける。ただ、迂回した魔物を倒すことはできず、そうした個体は全て後方にいるバート達が受け持っている状況。
(一度後退して態勢を立て直すか? いや、そういう動きをしたら魔物が次にどんな策を仕掛けてくるか……)
かといって、なおも後続からやってくる魔物を迎撃し続けているだけでは――魔物の数はさすがに無限ではないだろうが、現状では文字通り果てがない。
(このまま戦い続けることによって疲労が溜まれば、進むも退くもできなくなるかもしれない……かといって、このまま後退するだけではどうなんだ……?)
エリアスはどうすべきか思考する。現状では判断材料がない。現在も索敵魔法は続いているため、魔術師に状況を確認するのが第一だと考える。
エリアスはそこで近くにいた騎士を呼び止め、索敵魔法を行使する魔術師に状況を確認するよう指示を出す。それに騎士は承諾し即座に後方へ。
その間にも魔物が襲い掛かってくるが――その全てを瞬殺。周囲の騎士もまだ疲労の色は見えず、戦線はまだ維持することができている。
(さて、どうする……?)
エリアスは悩む間に、騎士が戻ってくる。さらに魔物を一体倒した時、騎士が口を開き状況を報告した。




