索敵の結果
翌朝、テルヴァの指示の下で索敵を行う調査隊が北部最前線へと赴いた。
彼らに加えて魔物が出現した場合に備える騎士も派遣され、これまでの開拓とは打って変わり、物々しい雰囲気に包まれた。
しかし、騎士バートについてはこれまでと変わることなく木を伐採しており、その最中に索敵魔法を使用して霊木周辺の状況を探るらしい。
「……小さい魔物は森の中にいるな」
そうした中でエリアスは魔物の領域を警戒しつつ、索敵魔法を行う魔術師へ報告した。
「ただ、昨日とは少し様子が違う。今までにない大所帯ということで、何事かと観察しているらしい」
「であれば、間違いなく索敵魔法を行使すれば反応するでしょうね」
魔術師はそう告げると、地面に魔法陣を描いていく。
「人間の領域となった場所で魔法陣を展開し、霊木周辺の状況を確かめます……今までは距離もあったため魔法の精度自体が怪しかったのですが、この距離であれば十二分に効果を発揮できるでしょう」
エリアスは彼らが準備する様子を淡々と見守る。なおかつ、今回新たに派遣された魔物を迎え撃つ騎士達も瘴気漂う森を警戒し、準備は万端だった。
「では、作業を開始します」
魔術師が告げる。バートが「頼む」と一言告げた直後、魔法陣が光り輝き索敵魔法が起動した。
次の瞬間、森の中にいた魔物の様子が明らかに変わった。索敵魔法によって人間の魔力が森の中を駆け抜ける。それに反応したらしい。
「さて、どうなるか」
エリアスは最悪の展開――霊木の主に加え『ロージェス』までやってくるという展開――を最大限に警戒しつつ自身もまた気配を探る。
魔物の動きは変わったが、それでも観察は続けるらしく退散はしない。なおかつ近づいてくるようなこともない。エリアス達とは一定の距離を保ちつつ、動静を窺っている。
しかし、この状況も時間が経てば変わってくるはず――索敵魔法はどんどんと範囲を広げ、いずれ霊木周辺に到達する。その時、相手はどう動くのか。
索敵魔法自体は地味で、魔法陣が光り輝く以外に変化はない。音などはないため、周囲にはバート達が木を伐採する音だけが響いている。
(なんだかシュールだな……)
エリアスは胸中でそんな感想を呟いた時、魔物の動きにさらなる変化が。突如、エリアス達へ接近し、さらに注意深く観察するようになった。
「……霊木の主がいよいよ動き出したか?」
エリアスは魔術師へ視線を送る。索敵魔法を行使しながら、何事か話し合っている。
やがて、エリアスにも魔法が霊木周辺を捉えたという報告がもたらされた。森の中にいる魔物の動きから、相手側も警戒しているようだが――魔物が襲撃してくるといった様子はない。
(いや、対応に手をこまねいているとか?)
もしそうであれば、エリアス達にとってはありがたい話だが――やがて、索敵を行う魔術師と話をしていた人物が何か作業を始めた。
(……絵を描いている?)
おそらくそれは、索敵魔法によって捉えた霊木の主についての姿か。エリアスは少し気になって近づこうかと考えた時、
「……ん?」
足を動かそうとした寸前、エリアスは森へ体を向ける。
瘴気が滞留している森の中で、相変わらず魔物がうごめいている。そうした中、複数の魔物――明らかに今までとは異なる大きさの魔物が、接近している。
「――魔物が近づいてきている! 警戒を!」
反射的にエリアスは叫び、周囲にいた騎士達が一斉に剣を抜き警戒を始めた。エリアスもまた新調した剣を抜き、森の中の気配を探る。
(魔物は複数体……とはいえ、先日倒した熊の形をした魔物と比べれば弱いか)
危険度を定義すれば、一か二か。そのくらいの魔物ではあったが、エリアスは油断しなかった。
(霊木の主が自由自在に魔物を生成などできるとしたら……)
剣を握る腕に力が入る。直後、視界に魔物の姿を捉えた。狼の形をした魔物で、色は銀色。体毛の色合いから気配を探らなければ単なる動物である可能性も否定できないくらいだが――
「構え!」
騎士が叫ぶ。同時、狼が一人の騎士へと襲い掛かる。だが騎士は即応し、正道かつ王道の剣術で魔物を真正面から迎え撃ち、まずは狼の突進を剣を盾にして防いだ。
次いで別の騎士が横から狼へ一閃。それは魔物にとって致命的なものとなり、その体躯が両断。魔物を撃破することに成功した。
「次が来るぞ!」
別の騎士が叫ぶ。その人物の言う通り、後続から別の個体が迫ってくる。
(……魔物が来ているとはいえ、ずいぶんと消極的だな?)
エリアスは胸中で呟く。騎士の人数も多く、数体の魔物ではどうにもならないだろうと相手方もわかるはずだが――
そう考えた時だった。エリアスは霊木のある方角から、これまでにない魔力を感じ取った。それがどういうものなのかを理解すると同時、
「――敵襲!」
索敵を行っていた魔術師が叫ぶ。その段階で襲い掛かってきた魔物は迎撃に成功していたが、すぐさま騎士達は迎撃態勢を整えた。
なぜか――その理由は、この場にいた誰もが理解し、エリアスはゆっくりと森へ向け歩き出した。




