無骨な剣
エリアスはテルヴァと共に武器庫を訪れ、一本の剣を渡された。
装飾など必要最低限の剣で、無骨な見た目は現在エリアスが持っている剣と大差ない――受け取り剣を抜くと、手に馴染む感覚があった。
「最初の感触は悪くないな」
エリアスは言うと、試しに魔力を込めてみる。直後、剣に魔力が注がれることで、刀身そのものに魔力が滞留していく。
「……そんなに魔力を注いだわけじゃないが、増幅しているのか」
「そうだ」
エリアスの呟きにテルヴァが応じた。
「注いだ魔力量に比例し、まとう魔力が膨らむ構造になっている。今まで使っていた剣も同様の効果を持っていたかもしれないが、この剣は素材の関係から増幅効果がかなり大きく出る」
「……魔力を注ぎすぎて剣が折れるとか、ないよな?」
「魔力の許容量については存在しているが、人一人が注げる魔力量では到底辿り着けないから心配はいらない」
説明を受け、エリアスはもっと魔力を剣へ集中させた。途端、大気中に存在する魔力が鳴動するくらいに刀身の魔力が膨らんだ。
「なるほど、な……確かにこれなら、今まで以上の力を発揮できる。だが、もらっていいのか?」
「あなたが用いている技法を考えれば、この剣を持つ適任者はあなただろう。遠慮なく使ってくれ」
「わかった……明日には霊木の調査をするだろう? そこで活躍するかもしれないな」
「ああ、早速の活躍を期待している」
テルヴァは言った後、一度間を置いて――
「……地底を調査していた面々は明日、開拓最前線へ向かう。今回は霊木周辺の調査だが、現在時点でどれほどの魔物がいるのかをしっかり調査する予定であるため、索敵魔法により霊木にいる魔物はすぐに何をしているか察知するだろう」
「縄張りの中を覗かれて、魔物がどう反応するか……だな」
「十中八九、こちらに敵意を持つことになるだろう。問題は魔物を用いて襲い掛かってくるかどうか。危険度の低い魔物でけしかけてくる可能性は低いと思うが……配下としている魔物を一斉に、という事態となればかなり面倒な戦いにはなるだろう」
「これは実際にやってみないとわからないな……迎撃をするための騎士も配置するんだろ? まあ、引き際さえ弁えていれば、惨事が起きる可能性は低いと思うが」
「あなたは確か、魔物の警戒を行っていたはずだな。退却するか否かの判断は、あなたに任せても構わないか?」
「ああ、何だったら殿は俺がやるよ」
エリアスの言葉にテルヴァは小さく頷き、
「無理はしないようにだけ頼む」
「ああ、俺も死にたくはないから心配はしなくていい……ところで『ロージェス』の方はどうだ?」
「地底側では成果なしだ」
「……国側の動きは?」
エリアスは少し声のトーンを落として問い掛ける。
「北部最前線の動きを見てどういう反応だ?」
「報告を聞いた限り、開拓そのものは順調に進んでいるため、評価としては悪くない。その一方で最前線の動きを探っているという雰囲気もない」
「ひとまず様子見、か?」
「おそらくは」
「……霊木が当面の目標だということは、国側も知っているんだよな?」
「ああ、それは報告しているが……何かあるのか?」
聞き返したテルヴァに対し、エリアスは少し沈黙した後、
「明日の調査で最悪の事態は何だと言われたら、間違いなく霊木の主と『ロージェス』が同時に出てくることだろう」
「霊木の調査に反応して魔物が動く。それに合わせて『ロージェス』が、というわけだな」
「確認だが『ロージェス』の居所も不明なんだな?」
「観測はできていない……霊木周辺にいるかどうかは、明日確認してみなければわからないが」
「もし『ロージェス』がいるとなったら、最大限の警戒で応じる必要はあるだろう……即座に退却というのも視野に入れる」
「即座に、か」
「問題はそうした指示を出してその場にいる騎士達がちゃんと反応してくれるかどうか……『ロージェス』のことは公にしていない以上、人の姿をした魔物が出た、と警告しても反応が鈍いかもしれない」
「ならば念を押すように私から指示を出しておこう」
と、テルヴァはエリアスへ向け提案をする。
「調査に際し魔物が出現した場合は、迅速に状況をあなたに伝える……そして、あなたの命令を最優先にするし、即刻退却ならばその指示に従うよう通達を出しておく」
「反発が出ないか?」
「そこは上手く説明しておく」
テルヴァが言う。その表情からは何か案があるのか、自信を覗かせていた。
(……彼がそこまで言うのであれば、心配はいらないか)
「わかった、なら頼む」
「ああ、任せてくれ……もしかすると、今回の調査で霊木への道が一気に開けるかもしれない」
テルヴァはさらに続ける――彼にとって霊木周辺の開拓が目標であるため、先ほどの言葉にも熱がある。
「相応のリスクも存在しているが……犠牲なく、調査をやり遂げられると信じている。こちらは可能な限りの支援を行う……どうか、頼む」
「ああ」
エリアスは応じ――握りしめる剣は、なおも魔力を発していた。




