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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第三章

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斥候の魔物

 バートがひたすら樹木の伐採に集中していた時、エリアスは魔物の領域から向かってくる魔物を捉えた。

 とはいえそれは危険度一程度のもので、接近してきたところを見計らって楽々対処。その時点で太陽は頂点へと到達。そのタイミングで休憩に入った。


「魔物の動きはおとなしいみたいだな」


 水筒を傾け水を飲みながらバートはエリアスへ述べる。


「樹木を切っている間は音もしているから、魔物も様子を見に来るケースが多いんだが」

「……先日倒した魔物の影響かな」


 エリアスは自身の見解を述べる。


「霊木周辺にいる魔物の配下とかなら、魔物をあっさりと倒されたことで戦力的にもキツくなった。結果、様子を見るしかなくなったとか」

「あり得ない話ではないが……だとすると、先日の魔物が主力だったということか?」

「主力かどうかはわからないけど……少なくとも魔物はおそらく俺達のことをどこからか観察はしていると思う。その状況下で何も仕掛けてこないということは、仕掛けても意味はない……というより、戦力的に無駄になるということかもしれない」

「……仮にあなたの言説が真実だとすると、霊木で俺達のことを観察している魔物は、相当な知能を有しているように思えるんだが」

「ああ、少なくとも獣の知性ではないだろうな」


 エリアスが語るとバートは一度言葉を止めた。


「疑問があるみたいだな」

「先日遭遇した魔物と、今日魔物が来ていないという事実。それだけで、知性を有している魔物だとわかるのか?」

「明確な証拠があるわけじゃない。ただ、東部における戦いで、斥候を出すような魔物も多くいた。地底から地上に出る際に、配下を用いて地上の状況を探ろうとするんだ」


 エリアスの言葉にバートは興味を抱いたか、目を細め話を聞き入る。


「そういう魔物は配下を持ち指示を出せるほどの知性を有している。ただ、人間のような知能とまではいかないさ」

「そこまで警戒する必要性はない……か?」

「過度に恐れる必要はない。けれど、東部との大きな違いは、敵の本拠である魔物の領域に近しい場所であること。地の利は向こうの方が握っている……が、その状況は少しずつこちらに傾いている」

「開拓を進めれば、地の利はこちらになるというわけだな」


 バートの指摘にエリアスは首肯する。


「ただ、問題はどれだけ時間が掛かるか……今日の作業を見ている限り、予想以上に時間は掛からなさそうではある。強化魔法の恩恵があるからな」

「だが、すんなり森が切り開かれるような速度でもない」


 バートは森を見据える。朝と比べれば幾本もの木が伐採され、森が少しずつなくなっている。


「先は長そうだなあ……」

「開拓なんて一朝一夕でやれるものではないからな」


 バートはそこで軽く伸びをすると、一度大きく深呼吸をした。


「さて、仕事を再開するか。警戒をよろしく」

「わかった――」


 返事をした直後、エリアスは森へと視線を移した。


「……どうした?」

「朝とは少し違う……もしかすると、魔物が動いているかもしれない」


 ――エリアスもただ森の中を警戒していたわけではない。魔力の探り方などを色々と検討することで、瘴気が漂う森に対しても魔物がいるかどうかの判別がつきつつあった。


「朝以上に警戒をする。俺は少し森の中を注視するから、作業についても注意を払いながら動いてくれ」

「魔物は来そうか?」

「正直わからない。場合によっては砦へ連絡するか?」

「……いや、その辺りは現場判断になる。ひとまず作業を再開する。様子が変わったら報告を頼む」


 バートはそう言うと他の騎士達と共に作業を再開した。

 それに対しエリアスは森へ目を向け、魔物の動向を探る。


(……近づいているな。けど、別に強い魔物ではなさそうだ)


 午前中にやってきた危険度一に相当する魔物に近しい存在だと判断。ただその中で、複数体動き回っていることに気付いた。


(今度は数……これはもしかして斥候か? 魔力的に弱い個体なら、自分達に気付かれないように立ち回れると?)


 エリアスは胸中で推測をしながらなおも森を見続ける。やがてバート達が一本の木を切り倒し、ほんの少しだけ領域が広がる。加え、結界を構築するメンバーは着実に周囲の足場固めを進めていく。

 その中でどうやら魔物が動き回っている。けれど人間の領域――結界魔法を行使した場所に足を踏み入れることはない。あくまでエリアス達の動向を探るために、見つからないように立ち回っている。


(これは……あえて気付かないフリをしておくか?)


 エリアスはどうすべきか悩み始め――他に情報が得られないかと意識を魔物の領域の奥へと集中させた。

 果たして――エリアスは、森のずっと奥に存在する巨大な魔力を捉える。それは霊木の魔力であり、まだ距離はあるが索敵に慣れ始めたエリアスも感じ取ることができた。


 そして――エリアスは、魔物の気配を捉える。けれど動くことはなく、周囲にはバート達が発する作業音だけが響き続けた。


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