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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第三章

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切り開く

 そして翌日、騎士バートは森の伐採を開始した。進路は無論霊木のある方角で、森を切り開き、結界魔法を行使して少しずつ勢力範囲を広げていく。


「……なんとなく思うんだが」


 そうした中でエリアスは周囲の警戒をしつつ、木を切っているバートへ言及する。


「やっていることは騎士の仕事ではないな」

「ははは、確かに」


 笑いながら作業を進めるバート。ちなみに彼は鎧を脱いでおり、完全に木こりモードとなっている。


「開拓、という表現だからまあこういう仕事があるのは当然と言えば当然なんだが……魔物と日々戦い続け活躍する、という姿を想像していると面食らうのは仕方がない」

「……騎士達が木を切らなくてもいいんじゃないか?」

「ここに本職の木こりを呼ぶのはあまりにも危険すぎるからな。それこそ最初はそういう人材を登用していたんだが、魔物の出現頻度を考えると彼らを守りながら戦うというのは非常に効率も悪い」

「結果、騎士達がやることになったと」

「最初は不平不満も出たらしいが、最終的にはこういう形になった。ま、良い訓練にもなるしこれはこれでいいと思うぞ」


 なんだか爽やかな表情で語るバート――体を動かして、なんだか気持ちが良いらしい。


「むしろあまり仕事をしないそちらの方が、神経を尖らせて大変だと思うぞ」

「……そうかな」


 エリアスは首を傾げつつも、周囲の警戒は怠らない。森から感じられる瘴気の濃さは相変わらずであり、いつ何時魔物が出てきてもおかしくない。

 現在、魔術師が二重三重と索敵を行っており、魔物の動きを感知すればすぐにわかるようになっている――もし魔物が近づいてきたら即座に迎撃態勢に入り、鎧を脱いで無防備な状態となっているバートを始めとした木こり部隊は引き下がる形になる。


 そして、エリアス達から少し離れた後方では、さらに人間の領域を広げるべく結界を行使する部隊がいる。フレンはそちらに同行しており、彼女も作業を手伝っている。

 エリアスは森に目を向けつつもバート達の仕事を眺める。木は斧に強化魔法を用いて伐採していく。話によると魔物を斬る時と強化のやり方が異なるらしく、木を伐採するために考案された魔法を用いているらしい。


(強化の度合いが大きければ、魔物だろうが樹木だろうが関係なく切れるだろうけど、さすがにそこまでやるには結構な魔力量を必要とする……誰でも木を切れるようにするためには、誰でも扱えるレベルの強化魔法が必要、というわけか)


 目の前で行われている作業も、かなりの試行錯誤を経て完成されたのだろう――そんなことを思う間にも、また一本の木が倒れた。

 強化魔法を使っている恩恵か、伐採速度は明らかに早い。とはいえバート達は周囲を警戒し、なおかつ伐採する樹木に対し確認を行いながら作業をしているため、伐採以外で時間が掛かっている。


「……そういえば、伐採した木はどうするんだ?」

「どうも何も、通常の丸太として扱うぞ」


 エリアスの言葉にバートはそう答えた。


「魔物の領域に存在する樹木は瘴気を幹の中に蓄えているが、伐採した木材はしばらくすれば瘴気が抜ける。よって普通の素材として扱うことができる」

「……逆に言えば、魔物の領域から得た木材が特別な何かを持っているわけではないのか?」

「そうだな。樹木の種類によって特別な素材として活用できるみたいなケースはあるだろうけど、放置しておけば自然と魔力や瘴気は抜けるからな……こういった木材は、後方へと送られて販売されるんだが」


 そう言った時、バートは苦笑する。


「そう高値で取引されるわけでもない……よほど木材が希少でなければ。抜けたとはいえ、瘴気があった木材を嬉々として購入する人間はそう多くない、というわけだな。ただ最前線から得た物、ということで戦士とかが身につける装飾品に加工するとよく売れるらしい」

「……もしかして、この木材って開拓の運営費とかになるのか?」

「そうだな。まあ開拓の予算はもらえるから、臨時収入みたいなものだな。テルヴァさんは堅実だから、どちらかというとお金をプールしておいていざという時のために備えているみたいな感じか?」


(……あの人が臨時収入で贅沢している様子は想像できないしな)


 エリアスは納得するかのように頷くと、伐採した木を一瞥し、


「少しずつ魔力が抜け始めているな……完全に瘴気が抜けるまでは時間が掛かるか」

「水分を抜くのと同じだな。まあ、魔力や瘴気は中の水分が抜けるよりも早いから、そんなに気にしなくてもいい」


 バートはそう答えつつ、斧を構え直した。


「それじゃあ次だ」

「……あまり無理はするなよ?」

「平気平気。どれだけこの作業をやってきたと思ってる」

「……俺も手伝った方がいいか?」

「そっちは警戒してくれれば大丈夫」


 その様子は、まるで「こんな楽しい仕事を譲るもんか」というものであった。


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