討伐と調査
残る魔物は二体。エリアスは結界によって進路を阻まれた魔物へと視線を向ける。
魔物は先陣を切った個体が消えてもまだ戦意を持っているようだった――というより、同じように行動していた魔物が消えても、大して気にもしていない様子。
(個体同士で連携をとっているわけではない……あるいは、四体全てが使い魔的な存在で、単なる駒に過ぎないとか?)
エリアスは胸中で考える間に、バートが声を上げた。
「どうする? 結界を解除するか?」
「強度の方は?」
「いくらか攻撃されたが問題はなしだ」
「わかった……解除するとおそらく襲い掛かってくる。ならば残る二体を分断する。できるか?」
「ああ、いいぜ」
返事と同時、結界が解除された。途端、残る二体の魔物達が一斉にエリアスへと向け進撃を開始する。
その動きから、最前線に立っている人間を優先的に狙っている――あるいは、魔物を倒した人物に狙いを定めているのか。
(どちらにせよ、色々と考察は必要だな)
エリアスは心の中で呟くと、剣を握り直す。
同時、並んで突撃を仕掛ける魔物の間に結界が出現した。片方は進路を塞ぎ、もう片方だけエリアスへ向かう。
それを確認したエリアスは、魔物が振り上げる腕を見極め、まずは攻撃を避けた。先ほどと違う動きを取ったのは、さすがに同じような動きをしていては敵に見切られるかもしれないという警戒からだったが――動きからその辺りは問題ないように感じた。
(というより、知性はそう高くないな……あるいは、命令されて動いているのであればそこまで複雑な命令ができないとか)
エリアスは反撃に移る。一歩で間合いを詰め、魔物がさらなる攻撃を放つより前に渾身の斬撃を心臓部へと決めた。
それにより、三体目の魔物が倒れ伏す。それと共に結界が解除され、四体目が襲い掛かってくる。けれどエリアスはそれを冷静に対処し――戦闘は終了した。
「見事だな」
戦いぶりを見てバートが感嘆の声を発する。
「動きに淀みなく、全て計算尽くで動いていたように見える」
「……魔力を探り魔物の攻撃を受けないよう動いていたのは間違いないな」
「ここまでの力を得るには、あなたほどの経験を積まないと難しそうかな」
「どうだろう。俺だって散々大回りしてきたからな。剣の訓練方法だって日々進化している。俺の立ち位置まで、バート達ならあっという間かもしれないぞ」
エリアスはそのセリフを半ば本気で語ったのだが――どう受け取ったか、バートは苦笑した。
「ま、色々な見方ができるというわけか」
「どういうことだ?」
「いや、こっちの話だ……さて、魔物の討伐は完了した。怪我人もなく対処できたことから、戦果は上々だ。砦に戻るとしようか」
バートの指示に、エリアスは少しの間首を傾げていたが――やがて、小さく頷いたのだった。
エリアスは砦に帰還しテルヴァへと報告を行う。
「というわけで、魔物は撃破完了した。結界による分断が上手くいったことで、怪我もなく処理できた」
「助かった。あなたがいなければ、怪我人が出ていたかもしれない」
「……本来は連携によって対処していたのか?」
「そうだな。とはいえ今回の魔物はかなりの強さを持っていたため、まともに戦えば苦戦は免れなかっただろう」
そうテルヴァは語った後、エリアスへ視線を向けた。
「あなたの実力があったからこその結果だ。改めて礼を言う……何か要望があれば聞くが」
「今のところは大丈夫……地底の調査については順調に進んでいるのか?」
「今はまだ準備段階だ。数日以内には調べ始めることになるな」
「……もし『ロージェス』を発見したら、どうする?」
「現時点では手出しをしないように通達はしている。そこから先は相手次第だな」
「了解……明日以降も開拓に参加して仕事を進める予定だが」
「わかった、バートにはそう伝えておく……地味な仕事だが、平気か?」
「ああ。勘違いされがちだが、別にああいう仕事が嫌いというわけじゃない。むしろどちらかというと好きな部類だな。明日は実際に結界魔法の仕込みなんかも一人でやってみたいな」
「……話に聞いているかもしれないが、汎用的な技術であっても慣れた者と慣れていない者とでは作業時間や魔法の強度なども変わってくる。慎重に事を進めてくれ」
「ああ、わかった……と、そうだ」
エリアスはここで話題を変える。
「今回の魔物について、報告書などを見て何か気になることがあれば俺にも聞かせて欲しい」
「気になるところ?」
「ああ、魔物の動きからして普通の魔物とは違うようにも感じられた。霊木関係の魔物であれば、今後霊木の下魔物と戦う際に、有用な情報を得られる可能性も……」
「わかった、報告書についてはじっくりと読ませてもらうようにしよう」
テルヴァが応じると、エリアスは満足したかそれ以上は何も語ることなく、部屋を退出した。




