四体の魔物
今回の戦いは魔物が人間の領域に踏み込んでくるという、言わば防衛戦。地竜と同じ状況ではあるが、四体という数から散開する可能性もあった。よって、逐次魔物の動きに注意を払う必要がある。
「さて、やるか」
エリアスは一言呟きながら砦を出た。共に行動するのは従者であるフレンに加え、開拓を行ったバートや彼の配下もいた。
まずエリアスはバートへ目を向け、
「今回は俺が主導的に動く……ということでテルヴァから指示を受けているが、それでいいんだな?」
「ああ、是非とも頼む」
「わかった……立ち回り方は色々とあるが、バートは共に戦う騎士を指揮してくれ。フレンの方はバートの援護を」
「わかりました」
指示を受けたフレンは首肯。そこでエリアスは前を向き、
「今回の戦いは魔物の動き方次第で大きく変わる。その中で最初の目標は魔物の分断だ。バート、結界魔法を用いて魔物の分断というのは可能か?」
「複数の騎士が魔法の構成をやれば、おそらくは」
「わかった、状況に応じて分断方法は変わってしまうが、バート達にはその役目を頼みたい。理想としては四体をそれぞれ結界で援護できないくらいにする形だが、さすがに厳しいだろうしやり方次第では結界魔法の強度も落ちるだろう。魔物に破壊されないくらいの強度を持たせた結界により、分断……ひとまずそういう方針で頼む」
「了解した」
――そして、エリアスは進む。程なくして霊木のある方角から瘴気が漂ってきた。
やがて肉眼で魔物の姿を確認できる。熊の形をした魔物と報告があったが、それはまさしく真実で銀色の体毛を持った魔物であった。
「あれか……さて、俺達のことも気付くはずだが、どういう反応をするのか」
その時、魔物達が一斉にエリアス達を見る――位置的にはエリアス達から見ればなだらかな上り坂となっており、もし魔物が襲い掛かってくるのであれば、突撃により一気に間合いを詰められてもおかしくない。
次の瞬間、魔物が咆哮を上げた。そして前傾姿勢となってエリアス達へ突撃しようとする。
「あの姿だと、かなり重量もある、結界の強度は想定以上よりも強固にしたいが」
「わかった」
そこで、バートは騎士達へ指示を送った。刹那、一気に坂を駆け下りてくる魔物達。けれど敵達が肉薄するよりも前に、バートが指揮した結界魔法が発動した。
それは前方二体と後方に体を分断するように壁が形成された。後方の魔物達は結界に激突し、怒りのためか拳を壁へと振るう。直後に重い音が響いたが、結界はびくともしなかった。
「単純な物理攻撃しかできないみたいだな」
エリアスはそう判断しつつ、剣を構える――直後、今度はさらに前方二体を分断するような結界が出現した。
それはフレンが構成したものであり、彼女の判断によって発動したもの。その結界にも魔物が激突し、またも怒りによって拳を振るう。そこで重い音と共に、多少なりとも衝撃が抜けたか結界がきしむような音を立てた。
「エリアスさん、あまりもちませんよ」
フレンが言う。さすがに彼女一人の結界では限界がある。
「いや、十分だ」
エリアスがそう言うと、残る一体へ視線を向ける。突撃は恐ろしく、迫力があり目を背けたくなるような光景ではあったが――エリアスは怯むことすらせず、剣に魔力を集めた。
この時点でエリアスは魔力の多寡を探り終え、既に迎撃態勢を整えていた。加えて先頭をいく魔物を完全に孤立させることができた。
エリアスが足を前へ。魔物は突撃と共にエリアスへ目標を定め腕を振り上げた。
そして、腕が振り下ろされエリアスが剣を薙いだ――勝負は、魔物の腕が切り飛ばされたことで、誰の目にも結果が明らかだった。
グオオオオ! と魔物の声が響く。痛覚はあるのか狼狽える魔物に対し、エリアスは一変の容赦もなく突き進み、懐へ潜り込んでその体へ一閃した。
狙いはもっとも魔力が集中する場所。本物の熊で言えば心臓部分。そこに斬撃が走り――魔物の声は途端に小さくなり、倒れ伏した。
瞬く間に一体を倒すとエリアスは二体目へ目を向ける。フレンの結界は既に限界で、魔物を倒した直後に振り下ろされた攻撃によって、とうとう破砕した。
「援護はいるか?」
後方にいるバートが問う。まだ三体目以降を阻む結界は維持しているが、おそらく他の人員でさらに結界を行使できる。
だがエリアスは、
「いや、問題ない。騎士バート、周囲の警戒を頼んでいいか?」
「まだ他に魔物が出てくるかもしれない、というわけだな。承った」
返事を聞くと同時にエリアスは二体目を仕留めるべく駆ける。そこで二体目の魔物がエリアスへ目がけ腕を振り下ろす。
それにエリアスはすかさず応じ――結末は、一体目と同様に腕を切り飛ばす結果となった。
そして先ほどと同じ動きを再現するかのようにエリアスは懐へ潜り込み心臓を一閃。二体目の魔物も、倒れ伏した。




